2016年04月30日の日記です


GAME ON 展関連書籍  2016-04-30 09:50:42  その他

先週 GAME ON 展に行ったときに、関連書籍を一冊買ってきていた。


「ゲームってなんでおもしろい?」というタイトルで、これは GAME ON 展の副題と同じ。


買う前に最初のほうを読んだら、展示内容にあった「ゲームの面白さの分析」が書かれていた。

家庭用ゲーム機の進化を数ページで示した年表みたいのもあった。


なので、あぁ、これは展示内容を書籍化したものなのだな、と思って、記念程度のつもりで買ってきた。

そして、先週は忙しかったのでそのままほったらかしになっていた。



ゴールデンウィークになり、気持ちに余裕ができたので思い出して読んでみた。

すると、これがとてもいい内容。 GAME ON 展は先日書いた通り、正直言ってあまりいい内容ではなかった。


しかし、この書籍を買いに行ったのだ、と言っても良いくらいに内容が充実した本だった。




先に書いた通りに、ゲームの面白さの分析がある。


でも、読んでみたら展示で行っていたもののうち、一番最初の展示内容を抜粋したものと、それをまとめるにあたっての苦労話インタビューだった。


内容は先日ざっと書いたけど、突っ込み不足を感じるものの、面白さ分析としては悪くなかった。


でも、インタビュー見て納得した。

最初から、ゲーム全体を網羅しようとはせず、漏れがかなりあることも分かったうえで、どこまでゲームの内容を単純化できるかを考えてまとめたそうだ。


例えば、「狙って撃つ」ということは、スペースインベーダーから始まっているのだけど、何も敵を撃つだけではない。

サッカーで味方にパスするのも「狙って撃つ」だ、というように遊びの方向性をまとめている。


「最初の展示内容」では、他にも「大きなものを崩すと面白い」として、ブロック崩しのようにちまちま崩す方法や、クオースのようにまとめて大きく崩す方法など、多種のバリエーションがあることを示していた。

それらについては言及されている。


でも、他の考察は書籍には収録されていないのね。


たとえば、「ゲームは進化するから面白い」という展示があった。

具体的には PONG からブロック崩し、インベーダーゲームに至る過程を説明していた。


この話、過去に書いたので割愛するけど、全く新しいゲームが急に生まれることなんてなくて、すべてつながっていることがわかる。


いい話なんだけど、書籍にはこの話がないうえに、後で書くけど「新しいゲームが急に生まれてきた」と思わせるような部分も多々ある。

ゲームの歴史を考える上では、温故知新の大切さを失ってしまったようでちょっと残念。




先に書いたように家庭用ゲーム機の年表があるけど、これはある意味オマケかな。カラーで20ページもある豪華オマケだけど。


プログラムの観点から、ゲームがどのように動いているかの解説もあった。

ただプログラムを説明するのではなく、どうすれば面白いゲームになるか、という部分まで踏み込んでいる。


巻頭近くのカラーページで図表も豊富だったので、最近 Scratch でゲームを作り始めた長男も楽しんで読んでいた。


各界の著名人に好きなゲームベスト5を選んでもらう、という記事もある。


…が、ここまですべて豪華オマケ。この後に書かれた話の前座に過ぎない。


この後でやっと「第1部」が始まる。全部で3部からなる、様々な人にゲームの面白さについて尋ねたロングインタビュー。



聞き手が誰かわからない。わからないのだけど、どうも元アスキー編集長の遠藤諭さんのようだ。


同じく元アスキー社の別雑誌「ファミ通」の編集長をしていた浜村弘一さんへのインタビューがあるのだけど、ここで二人並んだ写真があり、「聞き手の遠藤と浜村氏」とキャプションがあるから。

遠藤さんはこの書籍の編集人、となっているのだけど、編集だけでなくインタビューなども全部行っているのではないかと思う。



そして、遠藤さんは過去に「計算機屋 かく戦えり」という、コンピューターの黎明期に関与した様々な人物にロングインタビューをした書籍を刊行している。

これがまた良い本で、話を聞こうと思ってもなかなか聞けないような人物に、ある程度詳しい人ならだれもが聞きたいと思うようなことを正しく聞いてくれている。


インタビューって、ただ話を聞けばよいのではなくて、相手の業績をあらかじめ綿密に調べておいて、その周辺事情も理解したうえで、適切に話を聞いていかなくてはならない。

これはなかなかできない大変な作業なのだけど、遠藤さんはそれができる稀有な人の一人なのだ。



で、買う前には気づかなかったが、この本の大半はそうしたロングインタビューなのだ。

これが、非常に良い本だと書いた理由。




最初のインタビューは、ファミコンのハードウェアを作成した技術者、上村雅之さんから始まる。


内容に関しては、「素晴らしい」と絶賛できるものではない。残念ながら。

でも、重要な現場にいた人が、自分の言葉でゲームについて語っていること自体が、記録として有用だ。


素晴らしいと絶賛できない、と書いたのは、カウンターカルチャーとしてのコンピューターの歴史に対しての認識が少し甘い部分があるから。

先に書いた「新しいゲームが急に生まれた」ように感じさせるような話もある。

(これは上村氏に限らず、個人の認識能力の限界で、他の人の話にも見られる)


現在大学教授でゲームについての研究を行っている上村さんに対して「甘い」とかいうと無関係な信奉者から怒られそうにも思う。

しかし、上村さんの専門はゲームを遊ぶ際に何が楽しいと感じるか、その楽しさはその人が育った文化背景に依存するのか、などの研究のようだ。

カウンターカルチャーの歴史背景に多少の認識の甘さがあったからと言って問題はない。



でも、それを「素晴らしいと絶賛はできない」とわざわざ書くのは、この本を読む人には「書かれていることを鵜呑みにしない」ようにしてほしいから。

インタビュー集で、個人の語ったことをそのまままとめてあるため、個人の認識の誤りをわざわざ正したりはしていない。


というか、テレビゲームはまだ新しく、研究者の間にも共通の了解などないと考えたほうがいいだろう。

誰かが「正しさ」を強制しようとせずに、それぞれの言葉をそのまま収録していることのほうが資料としての価値が高いと思う。


上村さんに限らず、それは認識がおかしくないかな、と思われる例は多々ある。

でも、個人の限界もあるので、そのことを問題にしてはならない。自分の認識のほうが違うのかもしれないし。



大切なのは、ゲームについていろいろなことを考えている人がいて、それらの考えを知ることの楽しさだ。

ゲームは自由であることが楽しいのだから、考え方も多様でいいし、認識が多少違っても全然かまわないのだ。




上村さんが「ゲームの本質は画像などのすごさではない」と繰り返し語ったあと、次のインタビューでは SCE の吉田修平さんが、PlayStation VR について語る。

ここで、バーチャルはすごい、3Dの世界はすごい、と繰り返し語った後、次のインタビューではガンホーの森下一喜さんが、パズドラの面白さがどのように構築されているかについて語る。


…絶対にわざとやっているよね。

「古いタイプのゲーム」と「新しいタイプのゲーム」を交互に並べて、振り子のように行ったり来たりさせる。


それぞれの人が語っているのは、その人の専門分野の中でのゲームの面白さでしかない。

でも、それらの中を行ったり来たりさせることで、読み手ごとに本質を考えてもらおうという趣向だろう。



ゼビウスの遠藤雅伸さんも出てくる。

ゲームについて聞かれて、「ゴミ箱に投げたゴミが入らず、拾って投げ直したらゲーム」と答えている。



普通、そんな風に考える人はいないと思う。

でも、僕もゲーム業界の末端に在籍しているものとして、この言葉がすごく腑に落ちる。


ゲームは世の中のいたるところに遍在している。

テレビゲームだって、テレビゲームの中の閉じた世界ではない。世の中とつながっている。


ゴミをゴミ箱に投げただけならゲームではない。

入らなかったら、落ちたゴミを拾って…ゴミ箱が近いのだから普通に入れればいい。


でも、戻って投げ直したならそれはゲームだ。

入らなかったのは「負け」であり、そのままでは悔しいからだ。



僕はルールと勝敗があればゲームが成立すると思っている。


負けて悔しかったからもう一度やろうとする。

その際に「戻って投げ直した」なら、さっきと同じ距離でないといけないと自分でルールを設定したわけだ。





他にもいろんな話が書かれているけど、ゲーム作成者や、これから作ってみたい人は、是非読むといいと思う。


もっとも、GAME ON 展を「レトロゲームイベント」として見に来ている人が買ったら、がっかりするかもしれない。

展示してあったゲームの目録とか画面写真などは一切入っていないからね。



逆に、GAME ON 展が期待はずれだった人(僕みたいに)や、そもそも見ていない人でも、ゲームの構造などに興味があるなら楽しめるだろう。


この本自体は普通に流通している書籍で、Amazon でも取り扱っているようだ。




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