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古くならない機械

X68kが発表されたとき、開発者は自信をもって「5年先を見越した設計にしました」と語ったと伝えられています。(実際に発表現場にいたわけではないので事の真相は知りませんが)

この言葉は後に独り歩きを始め、「5年は古くならない」「X68kは5年間は設計を変えないらしい」となっていくわけですが、事実としてX68kは10年たったいまでも変わらぬ設計のまま、なお多くのユーザーが使用しています。

でも、これって、なんか他の機種でもあったような・・・


「すべての環境が同じだったら、ユーザーは機械の違いを気にすることもなく、道具としてパソコンを使うことが出来るだろう」

そう、それは最初のMacintoshの思想と似通っています。そういう目で見ると、X68kに はMacintoshに触発されたとしか思えない部分が非常にたくさんあります。

そこで、今回は、デザインとしてのX68kの話です。

目次

Macintoshにあこがれて

CPU OS 電源 フロッピーディスク キーボードとマウス 本体デザイン

X68k本体写真  写真はEXPERT(3代目)だが、この独特の形状は初代から5代目のSUPERまで受け継がれた(PROシリーズは横置きの、通常の形状であったが)。
 それ以降は多少デザインが変化するが、基本的な「縦置き」スタイルは受け継がれた。

 本体は正面から見ると2つのタワーが立ち並ぶようになっており、左のタワーにはディスクドライブ、右のタワーにはインジケーターランプ見える。
 このスタイルはニューヨークの世界貿易センタービル「ツインタワー」にちなみ、マンハッタンシェイプと名付けられていた。


Macintoshにあこがれて

開発者がどう考えていたかわかりません。しかし、私はX68kはMacintosh(以下Mac)をかなり意識して作られたと見ています。主観に満ちていますし、穿ちすぎの見方もあるでしょうが、以下に列挙していきたいと思います。

CPU

X68kで使用されている68000は、Macで使用されて有名になったものです。

もっとも、当時選択可能なCPUのなかでグラフィックを扱うのに十分な性能を持ったも のと言うと、これくらいしかなかったのですが。

OS

VisualShell  X68kのOSには、MS-DOS似のコマンドラインシェルのほかにMac似のVisualShellが用意されていた。右下にごみ箱が位置する点までMac似だが、同一メディア内のファイルコピーをごみ箱の上の「コピー機」で行うなど、操作に洗練されていない点が多い。

X68kのOS自体はMS-DOSに酷似したものになっているのですが、そのシェルの1つである「ビジュアルシェル」は単色(色調は変更可能)のウィンドウシステムになっていました。これがMacを真似したものだというのは、誰の目にも明らかでした。

もっとも、あくまでシェルに過ぎなかったため、統一されたAPIが用意されたりしてい たわけではありません。

電源

インジケーターランプ  状態を表わすインジケーターは1ヵ所にまとめられている。POWERランプは使用中は緑色に、使用はしていないが通電している状態では赤色に点灯する。
 隣のTIMERランプはアラーム起動が設定されていることを示す。

電源スイッチがただの割り込み線に過ぎない、というのは、正確にはMacではなく、MacIIの作法です。

ともかく、X68kは微弱電流によってリレーを動かす事で起動します。微弱電流は正面のスイッチを押す事でも発生出来ましたが、内蔵時計のアラームで起動したり、外部からの電流で起動したりする事も可能でした。

また、電源の遮断もソフトウェアで行います。やはり正面の電源スイッチが割りこみを発生させるため違和感の無い操作が可能でしたが、実際はソフトウェアで処理されています。

そのため、ハードディスク動作中に電源を切るなどと言う事はやろうにも出来ませんでしたし、時間のかかる処理を行った後で自動的に遮断したりという事も可能でした。

フロッピーディスク

ディスクドライブ  今では5inchドライブを知らない(忘れた)人も多いのだろうが、通常の5inchドライブには大きなノブがついており、それをロックすることで機械的にディスクが使用可能になった。
 しかし、X68kのドライブにはノブは見当たらない。スロット下に、小さなイジェクトボタンが控えているのみだ。(このボタンすらも、機械的な機構ではない)

 機械的なロックはメディアが挿入されると自動で行われるのだが、その際にディスクの向きを間違えて挿入すると、自動的に吐き出すという仕組になっていた。

Macが3.5inchのディスクだったのにたいし、X68kは5inchでした。にもかかわらず、両 者の構造は似通っています。

マックの3.5inchドライブには、オートインジェクト・オートイジェクトという特徴が ありました。これはそれぞれ、途中まで差しこんだディスクを完全にセットする機構と、ソフトウェアからディスクの排出が出来る機能です。


それにたいし、X68kのドライブはオートロード・オートイジェクトを備えていました。普通の5inchドライブはメディア挿入後に蓋を閉めたりノブをまわしたりする事でディス クを固定する必要があったのですが、X68kではこれを内部で自動的に行います。

オートイジェクトの方は、これも電源と同じく本体に割り込みを起こすスイッチがついています。もちろんソフト制御でディスクを排出することも可能ですが、事実上は本体に手を伸ばして行うことが多く、Macほどには作法は徹底していません。(これはソフトウェアの思想的な面もありますが)


このスイッチの中にはLEDが入っており、ソフトウェアからこのランプの点灯 を制御出来ます。

ディスクを抜いて欲しくないときにはランプを消して割りこみルーチン内でディスク排出を行わないようにしたり、ディスクの交換をしてほしいときは自動で排出してランプを点滅させる、などのルーチンは内部ROMに用意されていました。

キーボードとマウスの関係

前方後円マウス  マウスとキーボード(部分)。

 マウスは内部的な機構を回転出来るようになっており、マウスの角度を自分の使いやすいように調整できる。また、スイッチによってボールを底上げし蓋を外すとトラックボールになるという、面白い仕掛けを持っている。(写真はトラックボール状態)
 ボタンは2つだが、トラックボールとして手に持つ場合に押しやすいように側面にも等価なボタンがついており、見た目の上では4つボタンである。

X68kにはマウスが標準装備されていました。いまではあたりまえの話しですが、日本のパソコンでは当時非常にめずらしい事でした。

内部ROMにもこのマウスをサポートするルーチンがいくつか入っていますが、非常に特徴的なものにソフトウェアキーボードがあげられます。これはテキスト画面(X68kのテキストはビットマップです)にキーボードを表示し、マウスでキー入力を行えるようにする機能です。同等のプログラムはMacにも標準で添付しています。


また、マウスをキーボードに直列に接続出来る点もMac(SE以降)に似ています。

ただし、Macの場合はADBバスというシリアルバスを使用したデイジーチェーンとなっており汎用性が高いのですが、X68kでは汎用性はまったくありません。それどころか、キーボードに接続したときと本体に接続したときで、ハードウェア的には別の扱いとなります。

(これによって2つマウスを使用するゲームが作れた・・・というのは事実ですが、苦しい言い訳でしょう。ソフトウェアを見る限り、この2つは等価なものとしてデザインしたかったのだという跡が見えますから)

本体のデザイン

キャリングハンドル  ポップアップハンドル。(上:格納時 下:使用時)
 2つのタワーの隙間にはハンドルが隠されており、軽く押すと飛び出すようになっていた。
 コンパクトマックに持ち手があることを真似したものだと思うのだが、モニタ一体型ではないX68kではそれほど使用頻度は高くない。
 しかし、移動する場合にはしっかりと持つことが出来るために「落とさないようにひやひやする」ことがないだけでも十分ありがたいものだった。

本体デザインのこだわりもMac譲りだと思います。もちろん、両者のイメージはまったく違うのですが、デザインにこだわるということ自体が当時のパソコンでは珍しいものでした。

Macはまず最初に本体の外観デザインをし、そのなかに収まるまで回路を集積していっ た事で有名です。そして、X68kのデザインも外観を重視したものになっています。

正面から見て2つのタワーが立つように見えるこのデザインは「マンハッタンシェイプ」と名付けられ当時話題になりました。


そして、なによりもデザイン的に似ているのは「持ち手がついている」ということ。

Macは一体型デザインなので持ち手を持ってどこにでも運べるというのに意味があるの ですが、X68kで本体だけ運んで何をしようというのでしょう?


ここまで書いて、じゃぁX68kはMacのモドキ製品か、というと、まったくそんなことは ありません。表面上参考にしている部分はありますが、最も重要な思想面では180度方向が違います。


Macがさまざまな先進的機構を取り入れたのは、そうすることでパソコンを簡単にして 初心者でも使えるようにするためでした。

しかし、X68kが先進的機構を取り入れたのは、それが技術者の夢だから、というただそれだけだったのではないかと思います。


それは自己満足に見えるかもしれませんが、そうではありません。優れたものがあれば、自分もそれに近づきたい、みんなに紹介したい。そういう気持ちが技術を発展させるのです。

少なくとも、今の「優れていても儲からないのはだめ」という風潮よりは、技術者の自己満足のほうがはるかに健全な技術の形だと思うのです。


さて、次回はその「Macとは180度違った部分」である、ソフトウェア思想を紹介する予定です。


追記 2002.5.1

多くの方がご存知のように、「マンハッタンシェイプ」の由来となったニューヨーク世界貿易センタービルは、昨年9月11日のアメリカ同時多発テロによって崩壊しました。

テロの犠牲となった方々のご冥福をお祈りいたします。

(ページ作成 1997-05-25)
(最終更新 2002-05-01)
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