2018年11月05日の日記です


モーターアシスト  2018-11-05 17:34:11  歯車

ひきつづき、イグニス1か月レポート。


先日、マイルドハイブリッドは総合的に燃費を向上する技術で、モーターアシストに期待しすぎないほうが良い、という話を書いた。


とはいえ、モーターアシストの性能が気になる人は多いように思う。

最後に詳細を書くが、モーターアシスト自体は結構力強い。

モーターだけで走行するほどの能力はない、と言いつつも、よくできていると思う。


しかし、期待しすぎないほうが良い。

今日は、この理由を中心に書いてみようと思う。



▼無段階変速シフト


モーターアシストの話をすると書きながら、まずはシフトの話だ。

何故なら、モーターアシストはシフトの欠点を補うように使われるためだ。


イグニスはシフトに無段階変速機(CVT)を採用している。


CVT が実用になってからずいぶん経つが、僕はイグニスで初めて運転した。

実用になり始めたころは、「変速ショックがない」ことをアピールしていた気がする。

しかし、現代的には燃費向上を狙った使われ方が多いようだ。


エンジンには、一番効率の良い回転速度がある。

しかし、車の速度を上げるためには、エンジンの回転速度を上げなくてはならない。


まぁ、実際にはエンジンとタイヤは直結はしておらず、「ギア」を間に挟んである。

このギアにより、エンジン1回転に対して、タイヤが何回転するかは変化させられる。


だから、「できるだけエンジン効率の良い」回転数になるように、速度に応じてギアを変化させるわけだ。



普通のギアの場合、物理的にギアを交換しながら走る形で、4~5段階にしか変化させられない。

…最近は、7段階や8段階もあるようだが、どちらにせよ段階がある。


CVT は、工夫された仕組みにより、これが「無段階」になる。


だから、どんな速度で走っていても、「一番効率の良い」エンジンの回転数を保てる。

効率が良いということは、燃費が良くなる。




CVT が理想的な性能を発揮する、と仮定しよう。

エンジンには最も効率の良い回転数があるのだから、その回転数に固定したまま、アクセルワークに従ってギア比を変化し、加速すればいい。


しかし、イグニスではそうしていない。

アクセルを踏むとエンジンの回転数が上がる。

アクセルを緩めると、シフトを変化させて車の速度は保ちつつ、エンジンの回転数が元に戻る。



なぜそうしているのかは、知らない。細かな制御の部分は企業秘密に属するようで、なかなか情報が見つからない。

以下は推察によるものだが、間違えているかもしれないとあらかじめ断っておく。


CVT は、二つの回転軸「プーリー」の間を、金属製のベルトでつないで動かす仕組みだ。


ちょっと違うが、自転車のチェーンを思い出してほしい。

ペダルを踏むと、チェーンが後輪に力を伝える。

変速機付きの場合、後輪のチェーンを違う歯車にかけ替えることで、ギア比を変更する。


CVT での変速は、回転軸の「隙間」を変更することで行われる。

2つの回転軸は、それぞれが2枚の円盤でできている。円盤といっても、少し円錐…ベーゴマのようになっている。


ベルトの幅は一定なので、円錐状の円盤2つの「隙間」を変えると、ベルトが滑って内側に落ち込んだり、外側に出てきたりする。

2つの回転軸の両方でこの調整を行い、ベルトがたるまないように常に引っ張っておけば、動力を伝えつつも、自由にギア比を変えらえれる。



さて、ここで問題がある。

自転車のギアなら、歯車の歯とチェーンの穴を組み合わせることで、確実に動力を伝えられる。

しかし、ベーゴマのような円盤では、うまくやらないと「滑って」しまい、動力を伝えられないのだ。


実際、初期のころはこうした滑りがバカにならなかったらしい。伝達効率は 80~85% 程度だったそうだ。

しかし、今は各種技術が上がり、90% 程度の効率になっている。

最も伝達効率の良い、MT 車でも 95% 程度だというから、悪くない数値だ。


ただし、これは「滑らないように、ベルトを外側から強く抑え込んでいる」ことが前提だ。

2枚の円盤を油圧で抑え込み、滑らないようにしている。たとえ滑らなくても、この油圧力を生み出すために、多少のエネルギーロスがある。


そして、もう一つの問題。

ギア比を変えるときだ。僕は先ほど、隙間を変えるとベルトが「滑って」内側に落ち込んだり外側に出たりする、と書いた。

この時は、むしろしっかり押さえこんでいるのが邪魔なんだ。


おそらくは、ギア比を変更するときは、抑え込む力を調整して、わざと滑るようにしている。

当然ながら、この状態では伝達効率が落ち、燃費が悪化する。




もう一度書くが、この説明は「推測」だけだ。CVT は複雑な技術すぎて、素人の僕にはわからない部分が多すぎる。


しかし、おそらくはこうした理由で、イグニスではアクセルを踏み込んだ時に、まずエンジンの回転数を上げることで対応する。

そして、ある程度速度が安定したところで、短時間でシフトを行い、エンジンの回転数を理想的なところに戻す。


シフト時に燃費が落ちるので、加速する間だらだらとシフトを続けるよりも、速度が安定してから短時間でシフトしたほうが良い、ということだろう。



しかし、こうすることで別の問題が発生する。

先ほど、エンジンには一番効率の良い回転数がある、と書いた。


アクセルで回転数を上げてしまうと、エンジンの効率が悪くなる。

燃費を悪化させないためにシフトを後回しにしているのに、そのせいで燃費が悪化してしまうのだ。



▼トルクコンバーター


トルクコンバーターは、AT 車でシフトギアとエンジンの間に入れられている部品で、これ自体がギアとクラッチの役割を果たす。


MT 車では、エンジンに無理な力をかけるとエンストを起こす。

発進時は、1速を半クラッチでつなぎながら徐々に加速し、繋がったらすぐに2速にチェンジしてまたゆっくりギアをつなぎ…2速で普通に走り出したら、エンストの危険はとりあえずなくなったと考えていい。


半クラッチというのは人間の感覚を駆使した結構高度な技術だ。

CVT も含む AT 車では、正直なところこうした高度な制御は難しい。


そこで、エンストを起こさないための物理的な仕組みが作られた。

それがトルクコンバーターだ。


エンジン側と、シフト(つまりはタイヤ)側は物理的に切り離され、しかし粘性の高いオイルで満たされた場所に、お互いが液体をかき混ぜられる羽根をもっている。

エンジンが液体をかき混ぜれば、その流れが伝わってタイヤ側も動き出す。


もし、とても重い状態…パーキングブレーキがかかっていたりして、タイヤが動かなくても大丈夫。エンストはしない。

オイルがかき回された状態で、タイヤ側の羽根が回らないだけだ。半クラッチのような状態。



動き出したとしても、すぐにエンジンの回転ほどにタイヤの回転が上がるわけではない。

この時、タイヤ側に伝わらなかった流れの力により、さらに力強い流れを生み出すように工夫されている。


結果として、車の速度が遅いうちは強いトルクを生み出す。

力が十分にタイヤ側に伝わると、回転数が上がるにつれて自然とトルクは減る。

そして、ついには回転数・トルクとも、エンジンと同じになる。


MTで発進して2速まで速度を上げる…くらいまでの制御が、無理なく自然に行われるように工夫されているのだ。


ただ、回転数・トルクがエンジンとタイヤ側で一致した後も、液体で力を伝えていると動力伝達の損失が起きる。

そこで、十分に速度が上がったところで物理的に羽根をつなげてしまい、液体を介さずに直接動力を伝えるようにする。


これが「ロックアップ」と呼ばれる仕組みだ。




CVT は始動時に滑る…とよく言われるのだが、どうやら滑りの正体は、CVT ではなくトルクコンバーターにあるようだ。

AT 車でもトルクコンバーターは使用されるのだが、先に書いたように初期の CVT では実際に滑りがあったという印象と相まって、CVT の滑りと言われ続けているのだろう。



で、CVT の問題ではないとしても、始動時にエンジンを回しても速度が出ない、という感覚になるのは事実。

特に、減速したが完全に停車しておらず、そこから再加速しようとしたとき。


停車はしていないのでそのまま走れる…と思っていても、ロックアップが解除されている。

直前までとは動力の伝わり方が異なっており、思ったようにパワーが上がらない。


右折しようとして対向車のタイミングを見て進む際など、速やかに速度を上げたいのに、上がらないことがある。これは焦る。

まぁ、アクセルを踏み込めばそのままちゃんと動くので、落ち着けば大丈夫なのだけど。



▼モーターアシスト


ここから具体的な話に入ろう。

イグニスにはエンジン回転計(タコメーター)がついているが、どうも1分間に 1000回転くらいが一番効率が良いようだ。


先に書いたように、アクセルを踏むと、一時的にエンジンの回転数が上がる。

しかし、アクセルを緩めると、すぐに速度を保ったままエンジンの回転を下げるようにギアが変化し、1000~1200回転程度に落ち着く。


イグニスで走行中には、燃費の良い運転を示す「ECO」ランプがついている。

エンジンの回転数が 2000回転を超えると、このランプが消えてしまう。

1500回転以下になると、再び点灯する。


ただし、2000回転を超えそうなときに、モーターアシストが可能であれは、アシストが働く。

この際、ECO ランプは点いたままだ。モーターアシストは燃費を上げるためのものだから、当然なのだろう。



もう一つ、トルクコンバーターがロックアップされていない状態での走行中は、ECO ランプは消える。

だいたい時速 20km くらいになるとロックアップされるようだ。


半クラッチのような状態なのだから、燃費が悪いのは当然なのだろう。

この時も、可能であればモーターアシストが働き、ECO ランプが点灯する。




ただ、必要な時に適切にモーターアシストが使われるかというと、使われないことのほうが多い。


これは、乗り方によるかもしれない、と先に断っておく。

僕は子供を塾に送迎したり、近所に買い物に行く程度の街乗りが中心で、アシストに必要な電力が発電できていない、という可能性がある。



ともかく、電力が足りないとモーターアシストは行われない。

モーターは電気で動かしているわけで、無い袖は振れないのだ。


ここで「電力が足りない」というのは、全くないというわけではない。

車の運航中は、何かと電力が必要になるので、全くなくなるようなことがあってはならない。


モーターアシストができるのは、必要な電力が十分足りて、なお余力がありそうなときだけだ。



リチウムイオンの充電量は、運転席のパネルで確認することができる。

5段階の目盛りで表され、2以下ではアシストがない。3を超えるとアシストされる。


このアシストが結構電力を使うようで、アシスト後には2になってしまう、ということも多い。

じゃぁどうすれば3に戻るのかというと、回生ブレーキを使わないと充電されない。


回生ブレーキを使ったということは速度が落ちたということだ。

結果として停車したのにまだ3にならないと…次の発進時には、モーターアシストは行われない。



走行時の発電は不可となり、燃費を落としてしまうので、イグニスは基本的には回生ブレーキで充電を行う仕組みだ。

先に僕が「街乗り程度」と書いたが、長距乗ってもあまり変わらないのではないかと思う。



▼回生ブレーキと、電力収支


先日書いた雑感で、回生ブレーキは少し強めのエンジンブレーキのように感じる、と書いた。

イグニスでは少し強め、ハスラーではちょうどいい感じに感じた。


車の性格によって細かく調整されている…のかと思っていたのだが、そもそもモーター / 発電機が違うようだ。


さて、イグニスの場合、モーター出力は 2.3kW 、と書かれている。

これは、「2.3kW の仕事量を出力できる」という意味であり、2.3kW の電力を作り出せるわけではない。


発電機として使った場合にどの程度の電力を出力できるのかは不明なのだが、最初からモーター / 発電機として共用できるように作られているので、極端な効率悪化はないと思う。

そこで、ここでは発電機としても最大 2.3kW 、実際には常に理想的な条件とはならないだろうから、7割程度の効率で回生ブレーキを使えると考えよう。


2.3kW * 0.7 = 1.6kW 程度の発電だな。



これに対し、車自体の電装系がどれほどの電力を使うか考える。


ハロゲンヘッドライトが片方で 50W 。普通は両側が同時に点くので、これだけで 100W。


カーナビは…10A と書いてある。これは、「10A のヒューズの電源を使え」程度の意味のようだ。

実際に計測すると、電流が多いときでも 2A 行かない程度らしい。


12V * 2A = 24W だ。


多分大電力を使ってそうな電装系はこの程度。

だけど、電装系は非常に多く、それぞれが地味に少しづつ電力を使うだろう。



ここでは、使用電力が 100W = 0.1kW、ということで考えてみる。

昼間の走行で、ヘッドライトはつけていない、ということだな。



前方の信号が赤になっているのを発見し、アクセルペダルから足を離し、回生ブレーキを5秒使って停止した。

この時、1.6kW * 5秒で、8.0kW秒 の発電がおこなわれている。


信号で停車してから発進するまでの時間を、仮に 30秒と考えよう。

0.1kW * 30秒で、3.0kW秒 の電力が消費されている。


大丈夫、発電分はまだ残っている。


そのまま、次の信号まで1分 = 60秒走ったとしよう。

この間もイグニスでは充電は行われない。走行中の発電は燃費を落とすためだ。


0.1kW * 60秒で、 6.0kW秒 の電力が消費される。



信号で止まることでまた回生ブレーキが働くわけだが、ここで区切りとしよう。

発生した電力は 8.0kW秒 で、使用した電力は 9.0kW秒 。エネルギー収支はマイナスだ。



実際には、電力が足りなくなれば走行中に発電を行ったりもするから、困ることはないと思う。

しかし、「電力が余っているとき」しかモーターアシストされないので、アシストはあまり期待できない。


夜間ならヘッドライトでさらに条件が悪くなる。

発電できない停車中はこまめにライトを消すよう心掛けたほうが良いだろう。


一方で、下り坂で回生ブレーキを長く使った、などの好条件の後なら、アシストがちゃんと働いてくれる。


だから、絶対にアシストが行われない、というほどでもない。

期待しないで、使えたらラッキー、くらいに考えておくのが良いと思う。



▼アシストの効果


最後に、アシストの効果がどの程度か、という話。


イグニスのエンジンの最大出力は、67kW 。これに対して、モーターの最大出力は 2.3kW。

モーターの力は 1/30 しかない。アシストしても効果は「わからない程度」だという人もいる。


しかし、それはエンジンがモーターよりも高回転で回せるからだ。

回転させる力「トルク」に、回転数をかけたものが出力。


発進時に必要なのは、回転させる力「トルク」だ。

じゃぁ、トルクで比べると、エンジンは 118Nm、モーターは 50Nm 。

半分くらいのパワーを出せる。


さらに、このトルクを出すために「効率的な」回転速度は違う。

モーターのほうが、より低速の時にパワーを出す。発進時に向いている。




途中で書いた話なのだが、


・トルクコンバーターがロックアップされていない 20km 以下は効率が悪い。

・エンジンは、低速回転だと効率が悪い。発進時などはこの状態。

・アシストが効くのは、リチウムイオン充電量が3の時


というのを思い出してほしい。


じゃぁ、発進時にアシストが効いていたのだが、そのアシストに電力を使ったために途中で充電量が2に落ちてしまい、アシストが打ち切りになった、という状況だとどうなるか。




モーターアシストはごく自然なもので、状況のディスプレイ表示でもしていなければ、存在を感じることはあまりない。


最初からアシストされていなければ、パワーが足りないので無意識にアクセルを踏み込むだろう。

最後までアシストされていても、十分なパワーが得られているので、無意識に軽めのアクセルになる。


どちらも、運転慣れしていれば無意識にやってしまう程度のアクセルワークで、アシストの効果を実感するようなことはない。


ところが、始動時でロックアップまで至る前で、さらに上り坂の途中でアシストが切れたりすると、露骨にパワーが落ちるのを感じるのだ。


つまるところ、アシストははっきり認識できるほどのパワーが出る。

ただ、普段は制御がうまいので、アシストに気づきにくいだけだ。


もっとも、こんな雑妙なタイミングでアシストが切れることなんて、おそらくそう多くはない。

1か月の間に、この状況で「アシストを実感した」のは、1度だけだ。

普段使いで問題になるようなことはないだろう。



さて、アシストにそれなりに効果があるとなると、できれば「ここ一番」の時にアシストを使えるように、電力を取っておきたいのだが…


アシストを「効かさない」のは簡単で、たとえアシストを使えるときでも、エンジンが2000回転を超えることがないようにゆっくり発進すればいい。

先に書いたように、20km 以下の時はエンジンのパワーが出にくいようで、もたもたした発進になるのだけど。


でも、そうやって電力を取っておいたとしても、走行中も電装品に電力を奪われてしまうし、気づくと充電量が2に落ちていることになる。

なかなか狙ったタイミングでアシストしてもらうことは、できない。


マイルドハイブリッドでのモーターアシストは、よくできていると思う。

でも、よくできているからこそ、運が良いときくらいしか使えないというのが残念でならない。




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