タイガー計算機


タイガー計算機は戦後の日本で爆発的に普及した、手回し式の卓上計算機です。

10桁までの桁数の足し算・引き算機能を持ち、この計算を連続して行うことで掛け算・割り算も可能でした(というか、こちらの使い方が中心なのですが)。


タイガー計算機には、3つの表示部があります。正式な名称は知りませんが、ここでは数値入力窓、回数表示窓、結果表示窓と呼ぶことにします。

左:数値入力窓
 下には値を操作するレバーがある

右:結果表示窓
 小数点表示のプラスチック片がある


それぞれの窓には、数値をリセット(すべて0にする)ためのレバーがついています。 また、数値入力窓に限っては、すべての桁について、0〜9の数字を入力するためのスライドレバーがついています。


計算モード選択スイッチには掛け算モードと割り算モードがあり、実際の計算はこのモードをセットした上で、本体横についているクランクを回すことで行われます。


いちばん右に飛び出ているのが計算用クランク。その下部分についている銀色の板が数値入力窓リセットレバー(クランクを持ったまま親指で押せるように工夫されている)。
 手前左にあるのは結果表示窓リセットレバーで、回数表示窓のリセットレバーはこの反対側にある。


たとえば、ここでモードを掛け算にセットし、数値入力窓に123という数字を入れたとします。ここでクランクを正方向に1回まわすと、回数表示窓には「1」という数字が、結果表示窓には「123」という数字が表示されます。

以後、クランクを回す度に回数表示窓の数字は1づつ増え、結果表示窓の数字には数値入力窓の数値が足されていくことになります。これは、まさに

(数値入力窓)×(回数表示窓)=(結果表示窓)

という計算関係を示すことになります。


割り算の場合はもう少し複雑です。モード選択後、まず、割られる数を数値入力窓に入れ、1回クランクを回して結果表示窓にコピーし、回数表示窓をリセットします。

続いて割る数を数値入力窓に入れ、クランクを逆方向に回します。回す度に結果表示窓の数値は数値入力窓の数値の分だけ引かれていき、やがて0よりも小さくなった時点で、「チーン」と鐘がなります。


この状態は余りが0よりも小さい、つまり引きすぎの状態ですから、最後にクランクを正方向に回します。この時の回数表示窓の数値が商、結果表示窓の数値が余りだということになります。つまり

(最初の結果表示窓)÷(数値入力窓)=(回数表示窓)余り(結果表示窓)

です。


これだけで十分計算は出来るのですが、たとえば123×456という計算があったとすると、456回も(気を利かせても123回も)クランクをまわさねばなりません。さすがにそれは大変なので、タイガー計算機には桁をずらす機能もついていました。

回数表示窓、結果表示窓は、本体から遊離した構造になっており、左右に移動することが出来ます。これをずらして計算を行うと、クランクの1まわしは10回、100回まわすのと同じ効果を持ちます。


実は今回使用したタイガー計算機は錆び付いてこの機能が使えなかったので以下は想像を含みますが、桁移動つまみをつまむ毎に、1桁下の桁に移動したのだと思います。

そこで、上の計算であれば数値入力窓に123を入力し、100の桁になるように結果表示窓の位置を調節した後、クランクを4回まわし、つまみをつまんで桁を移動し、5回まわし、桁を移動し、6回まわす、というどうさで、123×456を実現できるようになっています。

結果表示窓の下には小数点を示す、スライド式のプラスチック片がありましたので、桁移動機能と組み合わせることで固定小数点演算も可能でした。


これは余談ですが、123×198、というような計算を行う場合、クランクを1、9、8回まわしても良いのですが、2、0、と回して、最後に逆方向に2回、という回し方もあります。これは「200-2 を掛ける」という意味になり、ただしく 198 が掛けられます。工夫次第で、クランクを回す数を最小にできるわけです。


さて、さらにこの桁ずらし機能と割算の組みあわせを使い、クランクの回転数を最小にすることを考えると、非常に奇妙な方法ですが、ちゃんと答えを出すことが出来ます。

これは「引き放し法」と呼ばれる割算計算の方法で、割算を機械的に行う時には非常に効率良く答えを求めることが出来ます。


たとえば、 400 ÷ 3 の計算を考えます。

400 の 100の位から 3 を引いていく場合、一回引いただけでは数値は 0 以下にはなりません。2回目で 0 以下となり、「チーン」と鐘がなります。


ここでスイッチをプラスに直し、一度クランクを逆に回して、さらにスイッチをマイナスに戻し、それから桁をずらす・・・・のが本当なのですが、ここではちがう方法をとります。

それは、すべてをそのままに、桁ずらしとスイッチの切り替えだけを行うのです。

今度はスイッチはプラスですので、ハンドルを足すほうに動かします。

さっきの結果で、あまりは「-200」を表す状態(99999999800)になっています。ここに、答えが 0 を超えるまで 30 を足すのです。3×7 = 21 なので、7回足すとあまりが 10 になるはずです。

そしたら、また桁をずらしてスイッチを切り替えます。今度はスイッチはマイナスなので、0以下になるまで引きます・・・


これをくり返すと、クランクを回した数は、正方向を黒、逆方向を赤であらわして274 となるはずです。固定小数点で演算すれば、274.7474・・・と続いてしまうでしょう。

最後に、この結果の黒字で表されている部分から1を引き、赤字の部分を10から引いた数に変えます。

結果は 133.3333・・・ で、正しく 400÷3 の結果と一致しました。


ややこしいように感じますが、実際に操作してみると、正しい数字が表示されるように操作を行うよりも、こちらのほうが簡単なことがわかります。


さらに巧妙な方法で平方根を求めることもできますが、複雑な方法なので、別ページにその方法を示します。


タイガー計算機の歴史

タイガー計算機は 1923年に大本寅治郎によって発明され、「虎印計算機」として発売されています。

当初は非常に高価なもので、普及型で 150円、最高級機で 545円もしています。500円と言えば、当時めずらしかった2階建ての家が買える値段でした。当然、ほとんど売れません。


しかし、1941年、戦争が始まると大量の計算が必要となり、生産が間に合わない程売れはじめます。

戦争後は売れ行きが一時落ちますが、50年頃には景気も回復し、製造コストを下げて安くなったタイガー計算機がまた売れはじめます。

最盛期の1968年頃には年間4万台が売られていました。


タイガー計算機は、無期限の無料修理サポートがついていました。そのため、年間生産4万台とはいっても、実際に稼動していた数はかなりの数になるはずです。

しかし、1970年代に入ってカシオ計算機が廉価な電子計算機「カシオミニ」を発売すると、急に売り上げが落ちます。

当時、20桁のタイガー計算機は¥35,000.- 。それに対して6桁のカシオミニは1万円台でした。


今回使用した写真は私が高校時代にごみ捨て場で拾った機械のもので、現在では私の高校時代の恩師である川崎先生が所有しておられます。

写真撮影のために見せていただきまして、ありがとうございました。

追記 2002.7.30

この記事を書いた時点ではなかったのですが、今は発売元がタイガー計算機についての資料ページを作っています。



参考文献
計算機屋かく戦えり遠藤諭1996アスキー出版局

(ページ作成 1996-10-13)
(最終更新  2007-08-31)

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名前 内容

【十三】 1960年入社で2,3ヶ月勤務しました。ありがたく年金をもらってます。タイガー計算機(株さんおおきにありがとうさんです。 (2008-03-19 17:51:18)

あきよし】 助川さんからは、開平算(平方を開く、つまり平方根を求める)についてのメールもいただきました。自分が理解できたか問い合わせていますが、あっていたら計算方法を書いたページを作ろうと思います。 (2007-08-30 14:54:41)

【助川】 ルートの開閉も出来ます。√2=? (2007-08-29 15:34:35)

あきよし】 ご指摘の通りです。ありがとうございます。修整しました。 (2007-04-09 10:19:40)

【匿名】 誤字 割り算で「400 の 10の位から 3 を〜」とありますが100の位ではないでしょうか? (2007-04-08 00:39:33)

【sorajjii】 年末の整理で、出てきました。1968年頃に廃棄されようとしていた。連乗式20号と思われます。大切に?しまってありました。 (2006-12-31 18:00:32)

【鮎川】 お初です、楽しく拝見させていただいてます。「誤字」 タイガー計算機の歴史  当所>>当初ではないかと (2006-10-10 15:10:31)

【あきらり】 初めまして。私の家には上記の計算機と、それ以前に開発された(っぽい)手回し計算機が一台づつ存在します。この記事を読んで懐かしく思い、いまちょっと遊んでいます(笑 (2005-03-09 06:12:54)

【けんちゃん】 矢頭式計算機は4月7日に小倉の森鴎外記念館に3年間の委託展示と (2004-04-24 04:19:37)

【けんちゃん】 近くに日本最古の手回し計算機があります。矢頭式のものです。 (2004-03-11 08:07:47)

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