前回で98HAの問題点を数々指摘しました。しかし、けなすためにわざわざ古い機械を引っぱり出してきたのではありません。98HAには、それなりにユニークな設計思想が読み取れるのです。
98HAの内蔵ソフト 98HAのDOS環境 MS-WORKS
98HAは、当時流行していた「電子手帳」に対する、NECからの回答でした。シャープが先陣を切り、カシオが競争に火をつけたこの流行に、NECは完全に乗り遅れた形になりました。
そこで、1から新しい設計の機械を作るよりも、すでに実績のある9801を気軽に持ち運べる大きさに収めてしまえ・・・というのが98HAだったのではないでしょうか。
(PC電子手帳 PC-ETというのもありますが、あちらはNECホームエレクトロニクスだと思いました。同じNECグループですが、別会社です)
そのため、98HAは電子手帳的なスケジューラーをROMに内蔵しています。さらに、内蔵こそしなかったものの、本体に標準添付でIC-CARD版のMS-WORKSが付属していました。
また、そのフォルムもそれまでの「コンピューター」のイメージをくつがえすように、微妙な曲線を多用したデザインとなっています。
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未使用時、蓋(ディスプレイ)を閉めたところです。大きな曲線がアクセントとして入っているのがわかると思います。また、左右部分はすこし膨らみをもった曲線で構成されています。(カメラの樽型歪みではありません) 蓋部分手前には「HANDY98」というロゴが、(写真の状態では)上下逆に刻印されています。これは、使用時に使用者以外から正常なロゴが見えるようにするためです。(ソフトカバーにも同じロゴが入っています) また、実物を見るとわかるのですが、すべての角は大きく面取りされていて、一層98HAを曲線的なものに見せています。 |
もち歩くことがカッコいい・・・そのカッコよさは、いわゆるビジネスマンの「格好良さ」ではなく、オシャレとしてのカッコよさです。98HAの目指す到達点は、どうもそこにあったようです。
しかし、このような「カッコいい」携帯機は、時期早焦でした。当時はもちろん、いまでもこのような設計のマシンはあまり見かけませんし、ユーザーも求めていないようです。
98HAの電源を入れて最初に見る画面は、MS-DOSのプロンプトではありません。電子手帳を目指したパソコンらしく、カレンダーと時刻が表示されるようになっているのです。(当然、レジューム機能を使用すれば別の画面から始められます)
この画面は「Handy98メニュー」と呼ばれるもので、ここから各機能を呼び出せるようになっています。MS-DOSへもここから行くことが出来ますが、その話は後にしましょう。
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Handy98メニューの画面。画面右側に大きなカレンダーが、その上には時計がある。カレンダーにはスケジュールのある日を示す機能も付いている。 左側にはファンクションキーで何が出来るかの表示が並ぶ。F1でスケジューラー、MS-Worksが使用できる状態ではF2でWorks起動、F3でWorksのRAMドライブへのインストールとなっている。F10はMS-DOS。 |
Handy98メニューには「スケジューラー」機能がついています。(実際にはこの機能は別ファイルとして提供されていますが、画面デザインなどは統一されており、使用者には違和感なく使えるようになっています)
このスケジューラーは当時の電子手帳に比べれば遥かに優れたものでしたが、パソコンのスケジューラーソフトと考えるとお粗末なものでした。
1日の中を時間単位でスケジュール閲覧・書き込みをする機能を中心に、週単位、月単位でもスケジュールを確認できるようになっています。が、それだけです。「とりあえずダブルブッキングしておく」とか「長期に渡る計画を、期間で指定する」ような機能はありません。
ただ、携帯パソコンの特徴を活かし、時間が来ると電源を切っていてもアラームを鳴らしてくれる機能が、優れているといえるかもしれません。
98HAを特徴づける内蔵ソフトは、この「メニュー」と「スケジューラー」のみです。 あとは「ROMに焼かれている」という意味で内蔵なだけで、98HAならでは、というものはありません。
まずROMに焼かれたソフトの中でも特殊な位置付けである、システムメニューから紹介しましょう。このプログラムは98HAのBIOSに内蔵されており、特に禁止しない限り、CTRL+GRP+HELPのキーを押すことで呼び出し可能です。
その内容は、実は単なるディップスイッチ設定です。当時の9801シリーズはディップスイッチでシステムの動作を切り替えるのが普通でしたが、98HAでは小型化のためにディップスイッチをメモリにもっているため、このような方法を取っているようです。
ROMドライブにはMS-DOS3.1のフルセットが焼かれています。通常のMS-DOSのセットだけでなく、N88(86)-日本語BASICまで入っています。
ただし、通常のBASICではなくBASIC(LT)と、最後に余分なものがついていますが(笑)(LT互換機なのであたりまえですが、BASICも9801との互換性は高くありません)
Handy98メニューから呼び出されるのは、MS-DOSの「メニュー」プログラムです。コマンドラインで使用するためには、さらにここからコマンドラインに降りなくてはなりません。
メニューには良く使う機能が登録されていますが、特に「CONFIG.SYSの変更」と「AUTOEXEC.BATの変更」は、メニューに用意されたプログラムを実行しなくてはなりません。
使いなれたエディタを使えないのは歯がゆいところですが、98HAではこれらのファイルがROMに焼かれていることを考えると、書き換えられるだけでもたいしたものです。
どうやら、通常状態ではROMの内容を、書き換えられたあとではRAMの内容を読みに行っているようです。詳しい仕組はわからないのですが、そのために専用のプログラムが必要なのでしょう。
漢字変換は悪名高い「NEC AI漢字変換」ではなく、その1つ前のバージョンである「NECかな漢字変換」が使われています。実のところAI漢字変換よりもかな漢字変換のほうが使い勝手が良いため、これは良い選択です。辞書はROMにもっていますが、ユーザー辞書や学習効果を記録するためにSRAMも併用します。
98HAには標準状態でMS-Worksが付属します。これはMicroSoftがWindows普及前に力をいれていた統合化ソフトウェアで、専用のウィンドウシステムの上で、ワープロ、表計算、グラフ作成、データベース、通信の5つの機能を使うことが出来ました。
IC-CARDに収められたプログラムは98HA用にカスタマイズされたものでしたが、ソフト自体は珍しいものではないので、くわしい説明は割愛します。
98HAはフロッピードライブをもたないため、フロッピー1枚分のRAMドライブを内蔵しています。このドライブは2HDまたは2DD互換で使うことが出来ます。また、RAMドライブを使用しない場合にはメモリをEMSメモリとして使用することも可能でした。
ここで、98HAのメモリ構成をさぐっておきましょう。
まず、98HAがもつDRAMは全部で2Mバイト、SRAMは256Kバイト、ROMが2Mバイトです。
このうち、DRAMの640Kはメインメモリとなり、残りの1408Kのうち1280KはRAMドライブとなります。
SRAMは96Kほどを漢字変換の学習メモリにつかい、残りの160Kをスケジューラー用に割り振っていました。
最後にROMですが、漢字フォントに256K、漢字辞書に768K、ROMドライブに1Mが割り振られます。ただし、ROMドライブの一部(7ページ目)はユーザーからは見えず、BIOSとして使用されています。
これらのメモリのうち、メインの640K以外は、16K(ROMドライブは64K)ずつ区切られ、1MしかないV50のメモリ空間の上位アドレスに割り振られています。一度にアクセスできるのは16K(64K)づつなため、すべてのメモリをアクセスするにはIOポートを介してバンクを切り替えなくてはなりません。
ここで気になった方もいるでしょう。DRAMの余った128Kは何処へいったのか?
これはシステムメニュー(どこでも起動できるディップスイッチ設定)が画面を破壊しないように、起動時に画面を退避するメモリになっています。
実際にはシステムメニューを使用することはほとんどないため、間違えてメニューを起動しないように割り込みを殺した上で、デバイスドライバを作成してこのメモリをディスクとして使っている人も多く存在しました。(ハードウェア的には、RAMライブに連続して見えます)
また、その場合は普段は見えないようになっている(ディスクイジェクト状態の)スケジューラー用メモリドライブをイジェクト解除し、併用する人も多かったようです。
スケジューラーメモリはSRAMで構成されているため、通常のRAMドライブと異なり、バッテリー切れでも内容が消えないのが魅力でした。(当時128Kのメモリカードは3万円程度はしたはずですから、本体内のSRAMが使えるというのは魅力的でした)
すこし流れからそれますが、LTとHAのBIOSにだけ存在する、「疑似TEXT-VRAM」を扱うファンクションの仕組を紹介しておきます。
通常の9801では、テキスト画面はアスキーコードを格納するメモリと、その属性を格納するメモリにわかれています。1つの文字はこの両方からとられた1byteづつ、合計2byteで表示されます。
このうち、属性bitは以下のようになっていました。
| bit7-bit5 | カラー( bit7:G, bit6:R, bit5:B) |
| bit 4 | バーティカルライン |
| bit 3 | アンダーライン |
| bit 2 | リバース |
| bit 1 | ブリンク |
| bit 0 | 1:表示 0:非表示 |
これに対して、98HAではハードウェアの制約でブリンク表示は出来ません。カラーも当然ありません。バーティカルラインとアンダーラインも用意されていなかったようです(これはハードの問題ではなく、BIOSサポートの問題)。
結局リバース表示と、表示/非表示bitだけが残ります。
98HAでは、これらのTEXT-VRAMと同じ構成のものをメインメモリ上に確保し、アクセス後にBIOSを呼び出すことで画面上に文字を表示することができました。
その際に、通常の9801では常に「表示」であったbit0を利用して、無駄な描画を省いています。その仕組は、一度描画した文字については、このbitを「非表示」にするだけです。
これでBIOSを呼び出されたときに「非表示」のキャラクタを無視すれば無駄な描画はなくなりますし、文字が書き換えられたときは、9801の慣習にしたがってbitは「表示」にセットされるはずです。
その最後の証拠がこのBIOSファンクションの存在なのです。
断片的な情報をすべて伝えようとしたため、今回は文章量が多めとなってしまいました。
私個人としては、98HAを入手してしばらく持ち歩いていたものの、あまりにもデータ信頼性が無い(バッテリー切れでデータが消えてしまう)ために、最後にはROGUE専用機となっていました。
いつでもどこでもROGUEが遊べる、というわけで、友人には結構受けましたが、結局のところそれゆえに大学の部室に置きっぱなし・・・という運命。電子手帳替わりに使うのには、ちょっと厳しかったようです。
| 参考文献 | |||
| TheBASIC 100号記念号(1991年9月号) | 1991 | 技術評論社 |
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