さて、「ここらでコラムス」に書いたように、年末の締め切りは絶対でした。
しかし、作っているゲームはダメ出しをくらい、何もない状態から、1ヵ月ちょっとでコラムスを完成させなくてはなりません。
…いや、実際にはコラムスの基本ルール部分くらいは使いまわしましたから、何もなかったわけではないのですけど。
#基本ルール程度なら、3日もあれば作れるのだけど。
まず最初におこなったのは、「初代コラムスのルールを、基本的にそのまま使う」という確認でした。
ルールって重要な部分だから、試行錯誤していると時間ばかりが過ぎていきます。
「そのままでいい」と役員は言いましたし、実際「ここらでコラムス」の時に、ルールをいじることの難しさを経験していました。
でも、新ゲームを出すのですから、何か「新しさ」を演出しなくてはなりません。
そもそも、コラムスが好きな人は、コラムスの何が好きなんだろう?
「ここらでコラムス」の開発初期に、企画Mがコラムス関連の資料をあさっていました。
その時には深く考えなかった資料もあるのですが、ここにきて考え方をまとめるのに役立ちます。
まずは、業界紙に載っていた「償却率ランキング」。
ゲームセンターにとって、基盤を購入するのは投資です。投資に見合うリターンが無くてはならない。
購入した「原価」に見合った金額を回収する、「償却」の期間を比較したランキングでした。
人気ゲームでもバカ高ければ、償却に何カ月もかかってしまいます。
一方、安いからと言って買っても、誰も遊ばなければ、やっぱり償却に何カ月もかかってしまう。
初代コラムスは、何カ月もの間ぶっちぎりの1位でした。
元々安い基盤で、ヒットしてすごく出回ったために中古価格も安い。
その後も人気が持続しているので、購入して2ヵ月もすれば償却できてしまう。
コラムスには「コラムス2」や「スタックコラムス」もありますが、そうしたものはランキングに入っていません。
初代コラムスだけが支持されている。
店舗に新ゲームを買ってもらうとしても、「償却率ランキング1位の正当な続編」なら説得力があります。
ここら辺が、役員が「コラムスのままでいい」といった理由のようです。
では、お店に置いてあるコラムスを、いったい誰が遊んでいるのだろう?
これも、週末にMが店舗に出向いて、一日中観察していたんだそうです。
店舗にもよるかもしれないけど、新宿の店舗では夕方4時ごろに、出勤前の水商売のお姉さんが遊んでいる率が高かった。
どうも「ゲームがやりたい」というより、時間があるのでちょうどいい暇つぶしを探しているようなのですね。
「ここらでコラムス」は、この頃王道だった「キャラクターを立てた対戦パズル」で考えていました。
このときの想定年齢層は、20代男性のゲームマニア。
しかし、水商売のお姉さんターゲットに考え直します。
開発期間も短いし、役員は「コラムスのままでいい」と言いました。
でも、何か新しい要素は必要だ、と皆の(というか、Mと僕の)意見がまとまりました。
初代は、中古だから償却率がいい。新しく開発してかなうわけがない。
なら、基本的にはそのままだけど、グラフィックなどは今の性能で思い切って作り直そう。
初代が好きな人からは、よく「コラムス97は視認性が悪い」と批判を受けます。
宝石が煌めくせいで、色がわかりづらくなっているのね。
でも、これは結局、「突き詰めたゲーム性」を考えるゲームマニアの意見。
初代は中古で安いんだし、メガドライブ版も出ています。
初代がいい人は初代で遊んでもらうことにしましょう。
想定ターゲットは、水商売のお姉さん。
そんなにゲームが好きでもなくて、暇つぶしで遊ぶだけ。
だから、美しい世界観で楽しんでもらえればそれでいい。
遊んでいて心地よい時間が過ごせるように。
美しく、きらびやかな画像と、心地よい音楽、効果音…
新しいコラムスは、多少ゲーム性が犠牲になっても「美しさ」を追求する。
開発期間が短いから、ぶれている余裕はありません。
この時点で、方向性は決まりました。
ST-V の高解像度モードを使い、宝石をとにかく美しく描こう、と決定します。
グラフィックは、「ここらでコラムス」で描いてもらったものを、高解像度で綺麗に描きなおしてもらって…
と、ここで一つ問題発生。
グラフィックを担当してくれていた女性の先輩が、会社を辞めることになったのです。
実は、以前から視力が急激に落ち始めていて、「グラフィックの仕事を辞めないと失明するかもしれない」と医者から言われていたのだとか。
コラムスが終わったら辞めよう…と考えていたらしいのですが、区切りを迎えたのは事実なので、ここで仕事を辞める決心をしたのでした。
代わりに、別の先輩Sさんがアサインされます。
「期間が短いので」という理由で、仕事が速い人。
Mから「とにかく美しい宝石を表示したい」という話を聞いて、S先輩は「おぅ、任せとけ!」と二つ返事。
「ここらでコラムス」で描いた絵を参考に、32x32 ドットで、宝石一つは 32 色以内で、6種類+魔宝石を…
という説明に対しS先輩から逆提案。
「アニメーションさせるから使えるコマ数教えろ。」と。
とにかくできるだけコマ数が欲しいのだそうです。
ざっと計算して、32コマならメモリに入りますね。と伝えると、じゃぁ後はいいもの作ってやるから待ってろ、と。
もう、細かな指示はなくて全部お任せです。
2~3日だったと思いますが、絵が仕上がって来ました。驚くほど美しい絵でした。
そして、宝石が回転して輝くようになっていました。
「宝石っていうのは、煌めくから美しく見えるんだ。動かさずに表現できるわけないだろう?」と。職人です。
1つの宝石に何色、ではなく、全体で 256 色に収めていました。ST-V の性能としては、それで問題なし。
光を表現する白などは共通になるので、この方が使える色数がずっと増えるのです
ただ、実際の宝石らしいカットにしたら、宝石が少し小さめに見える、という問題が出ました。
ここで、Mの判断で全部の宝石を 40x40 に大きくすることにしました。
画面に並べるときは 32x32 を基準にして、周囲の石と少し重なることになります。
宝石は全部描きなおしですが、3Dモデルなので、再レンダリングするだけです。
この際、「少し重なる」のがおかしくならないように、真横ではなく少し上から見る視点に変えています。
宝石が積み重なっているのを斜め上から見下ろしている、という視点なのね。
ちなみに、32コマで動くのは「半回転」分だけです。
裏と表は同じ形、という前提で、一周は 64コマで回ります。
アニメとしてはかなり滑らか。
宝石は、当初全部同じ角度で回っていました。
画面上に結構たくさん表示されるから、それぞれが別に回転、なんて手間をかけてなかったのね。
でも、Mが「落ちてきて接地した時のままの角度で回し続けられない?」と言います。
えー、処理能力が…と言いつつ、しばらく考え、1時間後には「できた」と動いている画面を見せます。
それぞれの宝石を回しているのではなくて、画面全体に対してたった1つの回転角度と、それぞれの宝石の「角度差分」があるだけなんだけどね。
そうしたら今度は開発後半になってから「一部の宝石だけ回転速度変えられる?」と聞かれます。
レベルアップ時の演出で、数字が横から飛んできて、当たった宝石が速く回る、ってしたいそうです。
うーん、これもしばらく考えて作りました。
回転が速くなるのは、1段の最大6個だけ。それほど処理能力に影響しない。
ここだけ角度差分をいじって、回転速度をあげました。固定の「差分」を保持しているだけだったのに、固定じゃなくなった。
他にも、「消える直前だけ回転が速くなり、遠心力で割れるような感じで」とか「接地した瞬間、列全体が少し沈み込む」とか、非常に細かな演出が入っています。
設置時の宝石の沈み込みなんて、気づいた人少ないんじゃないかな。
初代コラムスは、宝石を「回転」させる際に、宝石自体は 16dot なのですが、8dot 単位でスライドします。
3つ縦に並んでいるのが、それぞれ下にずれる。一番下は上に行く。
この際、一番下は「真ん中で切れて、上にワープする」ように表示されるのね。
これは、メガドライブのハードウェアではやりやすい処理内容です。
宝石を全部背景画面に描いているので、8dot 単位なら処理しやすい。
コラムス 97 は、宝石をすべてスプライトとして表示します。
そして、スプライトは「半分に切る」なんていう器用な表示は出来ない。
ここで、コラムスを作る前に「画面効果」をたくさん作って遊んでいた経験が生きました。
画面効果として「普通じゃない表示」を実験したために、何をどうすれば変なことができるか、をすぐに思いついたのね。
ハードウェアの話になってややこしいので詳細は省きますが、サターンには従来のハードでの意味の「スプライト」はありません。
ただ、テクスチャを高速で画像バッファに転送するハードウェアがあるだけで。
そのままではゲームを作る際に使いにくいので、これをスプライトとして扱えるような仕組みをライブラリで持たせています。
ライブラリには「スプライト」を認識するためのデータを渡してあって、番号を渡すだけでスプライト表示ができる。
このデータをいじると致命的におかしなことも起こるので、普通はこのデータはいじらない。
でも、理解していじれば、いろんなことができる。
具体的には、「スプライトの縦サイズ」を変えてやれば、途中までを表示できる。
また、「テクスチャの開始アドレス」を縦サイズと共に適切に変えてやれば、スプライトの途中から下だけを表示できる。
これを使って、スプライトを任意の位置で切って表示しています。
1dot 単位で自由に切り出せるので、初代コラムスの 8dot よりも滑らかに動かしています。
魔法石出現のタイミングを教えるゲージも、同じ方法で 1dot 単位で自由な長さの表示を行っています。
横方向にはサイズを自由に変えられないので、90度回転して表示しているのだけど。
コラムス 97 、僕がかかわったゲームの中で、一番思い入れのあるものです。
なので、数回に分けてみっちり書こうとおもいます。
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