ようこそ客人。
遠路はるばるこの森まで、
よくぞおいでなさった。
ここは「魔法使いの森」と呼ばれる土地だ。
魔法使い、Wizardとはすなわち、訳の判らぬ呪文を駆使して、驚くべき仕事を短時間にやってのける人々・・・コンピューターの天才のことだ。私はWizardではないが、現在修行の身。この森に身を置いて、天才たちの所業を研究している。
もう、研究の成果は見たかい?
まだ? ならば見てみるといい。興味のない人間にはガラクタのように見えるかもしれないが、このガラクタがなければ今の世界はありえなかったんだ。
容量の小さなコンピューターや、すぐに噛み合わせが悪くなる歯車。それでも、それをどうにかしようという先人たちの・・・魔法のような技術が今の世の中を作り出したのさ。
専門的すぎて良くわからないって? はじめて見る人にはそう見えるかもしれないね。それでも興味があれば、何でも聞いてくれ。すぐに返事は出来ないが、暇を見て必ず答えよう。約束する。
あぁ、そうか。まだ自己紹介をしていなかったな。これは失礼。
僕の名前は新保顕理。しんぽ あきよし だ。まだWizardと呼ばれる存在ではないが、テレビゲームという、おもちゃのように小さなプログラムを作りながらコンピューターの勉強をしている。有名なゲームを作ったことはないけどね。
・・・そうだね。いつかはWizardと呼ばれるようになりたいよ。でも、この森は奥が深くてね。まだ研究しているのは入り口付近だけなんだ。
多くの、本当のWizardたちははるか奥まで足を踏み入れている。それでも、だれ一人として森の奥に何があるのかを知っている人はいないんだ。予言する人はいるけどね。その予言が本当かどうかわかるまでは、50年もかかることも珍しくない。
ほら、君の目の前にあるだろ? WWWって名前のシステムが。それは、今から50年前に、一人のWizardが予言したものだったんだよ。森のなかにあるそれを実際に引っぱり出すまで、50年もかかっちまったんだ。
もっとも、見つかったものは予言のものと多少ちがったがね。
どうした?
あぁ、いまの話で、時間を思いだしたな。もうお帰りとは残念だ。
帰る途中、森のなかで立ちよっていない場所があったら寄っていくといいよ。
それじゃぁ、また。
僕はいつだってここにいて研究を続けている。暇があったらいつでも立ちよってくれよ。そのときも、心から歓迎させてもらうよ。