ハーバード・マーク1
目次
ASCC の内部動作
ASCC は機械的に動作するため、プログラムの実行速度は決して早くありません。
1分に 200cycle …今風に言えば、クロック周波数 3.33 Hz で動作します。1cycle で加減算が1回できました。
歯車を回して計算しているのですから、これだってかなり頑張っているほう。
乗除算は、外付けユニットの能力を借ります。
乗算は最大で 20cycle 、除算は最大で 52cycle かかりました。
(条件により速度が異なり、0 の乗算などは 8cycle で終わります)
同じように、外付けユニットには LOG (114~298cycle)、累乗(172~218cycle)、三角関数(sin)(199cycle)がありました。
それ以外は必要な時だけ接続されました。
72本のカウンタのうち、何本かは特殊な構造になっています。
ペアになっているカウンタがあり、倍精度計算(通常の倍、46桁の精度になる)も出来ました。
また、任意の計算の結果を受けて符号の変わるカウンタや、特定のカウンタの符号によって機械を停止する命令などがありました。
条件分岐はありませんが、これらのカウンタを使うと、条件により計算を少し変えたり(C言語の三項演算子程度のことはできる)、条件停止を行うことができます。
条件停止、または「通常の停止」の後に、人間がプログラムのテープを移動させる使い方が多用されました。
停止位置に応じて、「次のテープの先頭から実行再開」とか、「今のテープを巻き戻して先頭から実行再開」など、プログラム作成中にオペレータ向けの指示書をまとめておくのです。
完全自動ではありませんが、「条件分岐」のあるプログラムを実行できたのです。
計算手順とは、まさに「次にどの命令を実行させるか」を判断する作業であり、ASCC はオペレーターがその作業をしなくてはならない点で、「計算機」にすぎません。
「ハーバード・マーク1」
IBM ASCC は、1944年に完成し、8月7日にハーバード大学に納入されました。
すると、あろうことかエイケンは機械の名前を「ハーバード・マーク1」(Harvard Mark I)と変え、彼が独自に発明した機械として世間に発表するのです。
協力者として IBM の技術者の名前を一人挙げましたが、全面的に技術協力を行い、資金も提供した IBM の存在には一切触れられません。
近年撮られた写真が、Wikipediaに存在する。
上部のロゴに注目して比較すると、改変されているのがわかる。
IBM が AIKEN-IBM になり、名前の最後に MARK I が付けられている。
エイケンは、IBM の機械を「盗んで」、AIKEN が開発した機械にしたのだ。
IBM 会長のトーマス・J・ワトソンはこれに激怒。
エイケンはこの後も改良された機械の開発を続けるのですが(マーク4まで作られました)、IBM はもう手を貸しませんでした。
そして、IBM は威信にかけて、マーク1を超える性能の機械の開発を開始します。
その話は、また別の記事に。
改造
この章、2015.6.5 の追記です。
その後、別の資料で見つけた情報によれば、マーク1は「当初条件判断の方法を持たず、後に追加された」ようです。
条件判断できる命令は2つあります。
1つは、符号だけを別のカウンタに転送する(これにより、単純な計算では求められない結果を出せる)。もう一つは、符号によって停止するか続行するかを判断する、です。
どちらも、特定のカウンタでしか使えない機能で、多少の不自然さは感じていました。おそらく、後から追加された機能なのでしょう。
また、「特定レジスタでしか使えない機能」としては、倍精度演算もそうです。
当初、記事の内容は主に 1946年(完成の2年後)に書かれた、使い方のマニュアルを資料としていました。
2年の間に改造されたものだと思われますが、他に改造個所があるかどうかは、現状判りません。資料不足です。
次の記事:マーク1の詳細
参考文献 | |||
A manual of operation for the Automatic Sequence Controlled Calculator | The staff of the computation laboratory | 1946 | Harvard University Press |
fragment of Babbage's first difference engine | The Collection of Historical Scientific Instruments, Harvard University | -- | Harvard University |
誰がどうやってコンピューターを創ったのか? | 星野 力 | 1995 | 共立出版 |
その他、WEB上の各種ページ |