地球ゴマの仲間たち

これを書いているとき、世間ではまだ正月です。

正月といえば、最近はあまり見ませんがやっぱり海老一染之介・染太郎師匠。染之介・染太郎師匠といえば、やっぱり曲独楽。曲独楽といえば、地球ゴマが思い出されます(かなり強引な展開)。


そんなわけで、今回は地球ゴマの話です。


最初に謝っておきます。地球ゴマは学校教材用に作られた精密なジャイロなのですが、今回写真撮影に使ったのは、安物のおもちゃである「スペーストップ」という品です。これができが悪くて、ほとんど実験ができないのです。


後で説明するように、ジャイロというのは「回り続ける」というのがなにより重要なのですが、この製品は軸受けの作りがいいかげんで、エネルギーが振動に変わってすぐとまっちゃう。円盤がプラスチックで軽いのも問題なのかもしれない。


さて、地球ゴマと総称される教材ですが、写真のように、独楽の周囲を枠で覆った形になっています。

独楽の円盤部分は枠のなかで回り、軸の回転も枠の軸受け部分で受けられるため、外には円盤の回転は伝わりません。

外部に接する「枠」と、内部の回転が独立しているため、独楽がふらふらとどこかに動いて行くこともありませんし、円盤も長時間回り続けます。


普通の独楽は直立で回ることしかできないのですが、地球ゴマのような構造にすると、斜めに独楽を回したりすることができます。

高速で回転するものは、その回転軸の位置を一定に保とうとする性質があります。そのため、斜めに回してもそこで安定してしまい、倒れないのです。


この写真では、カッターの刃の上で安定させている・・・つもりなのですが、前述のとおりこの独楽はできが悪かったため、あまり安定していません。残念。


実のところ地球ゴマでなくても、出来の良い、軸のしっかりとした重い独楽ならば斜めに回すことが出来ます。染之介・染太郎師匠などがやっている曲ゴマも、こうした性質を利用しています。

この曲ゴマという芸は、江戸時代に鉄芯の独楽が作られるようになって始まったそうです。今では独楽回しの芸ができる芸人は減りましたが、その独楽を作れる職人というのはそれ以上に減っています。

独楽回しの芸人は、自分の独楽を命の次に大切なものとして扱い、手入れを怠らないそうです。


このシルエットは、江戸時代から伝わる曲ゴマの切り絵です。
「季刊 銀花 第三十号」より引用しました。

このような、独楽の性質を利用して同じ姿勢を保とうとする道具を、総称して「ジャイロ」と呼びます。これはギリシア語で「輪」を意味する言葉から来ています。


ローカルな話で恐縮ですが、横浜の洋光台駅前にある「横浜こども科学館」には、さまざまな物理現象を体験できる実験コーナーがあります。


洋光台こども科学館

ここにジャイロの実験、と称して、実はただの自転車のタイヤ(笑)が置いてあります。このタイヤは軸の部分にパイプをはめてあり、両手で持てるようになっています。

床には自由に回転する板(回転座椅子の背中をとったような)が埋め込んであるので、そこに立ってタイヤを持ちます。そして、だれかにタイヤをおもいっきり回してもらいましょう。


これで、あなた自身がジャイロになりました。回転するタイヤは、ジャイロの円盤です。

手でタイヤの向きを変えようとすると、タイヤの向きはたいして変わらずに、下の回転板が回って自分の向きが変わってしまいます。


すごく単純な仕掛けだけど、「ジャイロとはなにか」を理解するにはよくできた施設です。


3軸で自由に動く枠をつくり、このなかに独楽を入れてジャイロを作ります。この独楽を高速で回転させると、ジャイロをどのような向きにむけても、独楽は同じ方向を差し示すようになります。

たとえば、最初に回転軸が南北を向くように独楽を回せば、このジャイロはつねに南北を示し続けます。


これは羅針盤としてつかえます。このような装置はジャイロコンパスと呼ばれます。

こうして作られたジャイロコンパスは、方位磁針とは違い、電磁波によって狂うことがありません。

そのため、ハイテク機械満載の乗り物・・・航空機などで方向を知るために使われています。


現代の航空機ではコンピューターも使われていますし、レーダーのような強力な電磁波を利用した装置もあります。これでは方位磁針は使えません。ジャイロがなければ、正しい方向を目指して飛ぶこともままならなかったでしょう。


また、人工衛星の姿勢を制御するのにも、このようなジャイロコンパスが使われているのだそうです。こちらは、まったく片寄りがないガラスの球を心臓部に使っており、ガラスの球を磨くのに3年もかけるのだとか。


そんなわけで、今回は正月の曲ゴマから人工衛星の姿勢制御の話まで、気の向くままに話題を繋げてみました。


ジャイロは「歯車」ではないけれど、工夫された機械を作るときには結構重要なものです。正月の風物詩、独楽回しと同じ原理の機械が、宇宙を飛ぶ人工衛星のなかでも動いている・・・なんか、ユーモラスで壮大な話だとはおもいませんか?


追記 2002.5.5

記事中ネタにしていた海老一染太郎師匠が、今年2月2日にお亡くなりになりました。

日本の伝統芸能が失われていくようで少し残念です…

今後染之介師匠(実際問題として、主に芸をしていたのはこちら)の単独で活動するらしいので、まだしばらくはあのすばらしい芸を見られそうですが。

染太郎師匠のご冥福をお祈りいたします



参考文献
季刊 銀花 第30号 ガラスの絵1977文化出版

(ページ作成 1997-01-05)
(最終更新 2002-05-05)

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