ゴミ拾い下山

御殿場口下山道登るときに使った道は、「富士宮口登山道」でした。ここはいちばん簡単に登れ、初心者にも人気がある登山道だそうです。

しかし、富士宮口は、登山道と下山道が同じ道になっています。また、登りやすい固い地面は、くだりでは膝に衝撃が来て結構疲れるとか。


ところで、富士宮口の隣りにある御殿場口は、富士宮とは正反対で地面がやわらかく、降りるには良いが登るのは大変という道です。地面が砂のようにやわらかいため「砂走り」とも呼ばれます。


当然この2つを組み合わせれば「上りやすく、下りやすい」コース設定が可能で、実際人気が有るそうです。富士宮口5合目の駐車場に車を置いている場合でも、6合目で連絡しているのでちゃんと元のところに戻れます。僕らもこのコースを通ることを計画していました。


しかし…写真を良く見てください。「御殿場口下山道」としっかり書いてあります。本来登山道なのに…いまは事実上下山コースになっているとはいえ、下山道という標識を作るのはあんまりだ。


とにかく下山開始。実はまだ朝の6時半です。御鉢巡りと言う観光コースも回ったし、日もずいぶん昇ってきた印象だけど、いつもなら寝ている時間帯。

下山を開始してすぐに、岩の間にゴミを発見。拾います。…実は、今回の登山では「余裕があったら下山しながらゴミを拾おう」と決めていました。

最近はゴミ拾い登山なんてものもあるようですが、そんな崇高なことをする意志の強さを僕は持ち合わせていません。でも、「登山」が目的なので、後処理に過ぎない下山の最中にちょっとボランティアをするくらいならいいかな、と思っています。


結構これが疲れる仕事で、まったく写真をとらずに下山してきてしまいました。ゴミが捨てられている現状の写真を撮ってくれば良かったと後悔しています。


最初のうちはそれほどゴミはありませんでした。というか、まだ慣れていなかったので見えていなかったのかも知れません。

ゴミを拾うつもりで歩き始め、目が慣れてくるとあるわあるわ…。「茶色い岩」のなかに「茶色い錆びた鉄片」や、「茶色い栄養ドリンク瓶のかけら」が混ざっていても、探すつもりで無いと目に入らないでしょう。しかし、探せば確実に有るのです。

ゴミ拾い下山を考えていたときは、「ガムの包み紙やタバコの吸殻、ペットボトルがちょっと転がっている程度」を想定していました。しかし、事実は違いました。一番多いのはガラス瓶のかけら、次に多いのが錆びた空き缶です。


いまどき瓶ジュースなんて売っていません。空き缶も、印刷を見ると明らかに古いものばかりです。最近は「ゴミを持ち帰ろう」との呼びかけが徹底しているので、多くのゴミが20年以上前のものみたい。

今は御殿場口登山道は主に下山に使われるようになり、多くの山荘が閉鎖されてしまっています。下山では休憩する人も少なく、採算に合わないのでしょう。しかし、ゴミが多いのはこうした閉鎖山荘の下です。

そういえば、昔聞いた話では、山荘で買ったジュースの瓶を「下に投げて割る」ことも、登山の楽しみの一つだったとか。富士山のゴミ問題が騒がれ始めるより前の話ですね。その後、今でも経営されている山荘ではイメージの問題も有って清掃されているのに、閉鎖されてしまったところの周辺はそのまま…ということなのでしょう。


ただ、みんなが古いゴミではありません。9合目の廃墟となった山荘の前では、土に埋まりかけたビニール片を発見。引っ張ってみると土の中からずるずると大きなものが…。コンビニ袋に入った、コンビニ弁当の容器でした。それほど古くはなさそうです。土に「自然に埋まる」ほど古いものではないので、故意に埋めたのでしょう。

ガラス瓶や空き缶など、古いゴミは「それが悪いこととは思わずに」捨てられたものが多いようです。これは時代の流れというものがあるのである程度仕方の無い話です。

しかし、新しいゴミには明らかに二つのパターンがありました。一つは、なぜ捨ててあるのかわからないもの。まだお茶の入ったペットボトルや、中身の入ったポケットティッシュ、免許証まで落ちていました。これらは「捨てた」のではなく、「落とした」のでしょう。これも仕方の無いこと。

もう一つのパターンは、吸殻、ガムの包み、キャンディーの包みなどです。これらの多くは、握りこぶし大の岩の下に隠されています。捨てることに罪悪感を感じるから隠すのでしょう。悪いと思っているのなら捨てるな、と言いたいです。


8合目 赤岩八号館8合目の赤岩八号館につきました。なんか看板らしきものが無かったので、「八合目焼印」の看板を撮影 (^^;

週末からの登山客ピークのシーズンをひかえて、店員総動員で山荘壁のペンキの塗りなおしを行っていました。

このとき7時40分。お腹がすいてきていたので昨日の残りのカニパンを食べたいと思っていたのですが、ペンキ塗り中ではなんか休憩できる雰囲気ではありません。

すでに大きくなってきたゴミの袋を持って歩いているのに気付き、店員が驚いた目で見ています。ついで「ご苦労様」の声。僕らもまさかこんなことになるとは思わないで気軽に始めたんですけどね。



ゴミ拾い下山は続きます。ガラス瓶と同じ系統ですが、結構多いのが陶器のかけら。江戸時代から富士登山はあったのだから古いものでも驚きはしないぞ…と思ったのですが、妻が言うには「昭和40年くらいのものじゃない?」とのこと。妻の実家が昔小料理屋をやっていたので、その頃に作られた食器は見慣れているそうです。

あと、実はガラスよりも缶よりも多いのが…「沼津土木事務所」に回収していただきたいゴミ!

沼津土木事務所は、どうやら富士山の登山コースの整備をしてくれている公共団体のようです。コースを示す新しい看板はもちろん、朽ちて壊れた看板にも名前がかかれていました。他にもコースを示すロープを張り替えた後に古いロープが残されたままだったり、看板などの整備関連で使われたとしか思えない針金だとかがかなり転がっていました。

コースロープなんかは一部土に埋め込まれ、個人の力では掘り出せないです。朽ちた看板もコンクリート製のものなどあり、とてもボランティアレベルでの回収は無理。

足袋だとかも落ちていたのですが、こんなものを履いて富士山に来るのも土木関係の人では? まぁ、この程度のものは回収しておきましたが、公共団体の人がまず率先してゴミ掃除の意思を見せてほしいと思います。


ところで、ゴミ拾いを始めてしまうと、ちょっとしたゴミでも気になります。今回「ちょボラだから」と自分を納得させて拾わなかったゴミ多数…

一つは、「土木事務所系」の個人で拾うには重過ぎるゴミ。もう一つは、登山道からあまりにも離れたところにあるゴミ。それに加え、朽ちた山荘の周辺など、あまりにもゴミが多すぎてどうしようもなかったところです。


7合5勺 砂走り館7合5勺にある山荘についたのは8時13分でした。さすがに腹が減りました。朝御飯は4時だったのだし、昨日から御飯少なめ。でも、手持ちの食料はカニパン1枚だけ…二人で分けて食べます。

山荘で何か買う、という手も有るのですが、「早く下山していいもの食おう」ということで意見は一致。ゴミ拾い下山を続けます。ここから先は、いよいよ砂走りだそうです。「急転直下直線道砂走入口」と書かれた看板が有ります。


さすがに砂走りに入るとゴミが少ないです。ここらへんは降りていくのが楽ですし、楽しんで降りていく間は散らかすゴミも出ないのでしょう。

7合目 日之出館砂走りは歩きやすく、どんどん下っていくことが出来ます。たった5勺はあっという間に下り終え、7合目の山荘が見えてきます。


7合目では、登ってきて休んでいるというグループと出会いました。御殿場口は降りるには良いけど、登るのは辛そう…

ゴミの山を見て「拾ってきたんですか!?」と驚いているので、これはまだほんの一部、と答えます。どんなところに落ちてるの?と聞かれたので…ちょうど山荘の下を見ると、この山荘も他と同じように、山荘の下にはガラス瓶の破片が山ほどありました。営業中の山荘の周囲に落ちているのは珍しいですが。

見ちゃったからには回収しないと気がすまない。しかし、ここはあまりにも量がありました。山ほどのガラスの破片に、山ほどの錆びた空き缶。ほんの一部を拾っただけで、新しいビニール袋一杯になってしまいます。…ちょボラなんだよぅ。許してよぅ、と誰へともなく言い訳して途中で切り上げます。



しばらく進むと、砂礫の量がどんどん増えてきます。実は、ここらへんが本当の「砂走り」。砂のように細かな軽石が多いため、足への衝撃が少なく走って降りても安心です。

しかし、トレッキングシューズとはいえくるぶしまでは無いタイプの靴を履いていた僕には、砂礫が靴に入ってきて痛いです。しばらく降りては靴に入った小石を出し、しばらく降りては靴に入った小石を出し…という感じで降りていきます。埒があかないので、途中からは我慢して「砂の上をはだしで歩いているみたい」な感覚で降りていきました。


何度目か立ち止まったときに、妻が「それ、もうだめだね」と急に言います。何の話? と思ったら、僕の持っていたゴミ袋の底が破け、ごみが点々と落ちていたのでした…

僕の持っていたゴミ袋には、ガラス・瀬戸物・鉄片を入れて居ました。どうもガラスがビニールを突き破ったらしく、小さなガラスが少しづつ落ちていたのです。

ゴミ拾いのつもりが巻き散らかしてたら世話ありません。紙ゴミしか想定していなかったので、2重にするほど袋を持ってきていなかったのですが…汚れた下着を入れていたビニール袋があったので、それを使って補強することにします。

ところが、リュックへ下着を移し変えている作業中、急な突風が。靴下がコロコロと転がっていきます。登山道を外れ、坂を転がり落ち…岩に当たって止まりました。


僕としては、登山道を大きく外れるのは危険なので、諦めようと思いました。しかし妻は「靴下がどうとかではなく、あんな大きなゴミを残すのは嫌だ」ということで、取りに行くと主張。まぁ、登山道を外れると行っても危険はなさそうななだらかな道でしたし、戻りやすそうなコースもあるので取りに行きます。


このすぐ後には、いよいよ「大砂走り」が有ります。3年前に富士登山に「失敗」した時に大砂走りを体験したのですが、ここは非常に楽しい下山道です。火山灰混ざりでさらにクッションの効いた砂の上を思い切り走ると、1歩で3〜5mも進むことが出来るのです。

が、今回はそちらにはいけず、丘を登って宝永火口に入ります。火口の上は強風が吹き荒れていました。体を低くして、這うようにしないと大げさではなく吹き飛ばされそうです。ただでさえ強い風が突風に変わったそのとき…

ウィンドブレーカーのポケットに入れてあったポケットティッシュが吹き飛ばされました。ポケットの中のものを奪い取るほどの風の強さって、想像つきますか?

実はこのティッシュは、途中で拾った「ゴミ」。誰かが落としたのでしょうがまだ新しかったのでポケットに入れて使っていました。しかし、それをもう一度ゴミにしてしまったわけで…ゴミ拾い中にゴミを出してしまうのはなんだか申し訳ない気分。


火口へ降りる道は、これもひたすら長い砂礫の道です。ただ、砂走りよりも道が狭く、岩も多いため僕は怖くて速度が出せませんでした。…妻はどんどん駆け下りていきましたが。

30分くらいかけて下り、宝永火口の底に置いてあるベンチで一休み。火口の底は、周囲を切り立った崖に囲まれています。

宝永火口底より


ここで一休みする人は多いようで、目の前で4人くらいのグループがタバコを吸っています。気持ちよくお休みのところおせっかいとは思いますが「吸殻もって帰ってね」と声をかけると、こちらが手にしたゴミの山を目にして素直に「はい」と言ってくれます。うむうむ。

宝永火口は宝永噴火で出来た火口です。宝永噴火は富士山が(今のところ)最後に起こした噴火で、非常に激しいものだったそうです。…と、ここまではうろ覚えながら知っていた知識。

実際の火口に下りてみると、案内板がありました。宝永噴火は非常に激しいものだったのですが、それは普通では考えられない形の噴火だったから。実は、宝永火口は3つの噴火口がつながっています。そう思ってよく見渡せば、たしかに底が3つ有ります。

3つもつながった火口は頂上のものよりも大きいです。すぐ隣りの御殿場口の「大砂走り」も、宝永噴火の火山灰が積もったものだそうです。


さて、ここまで来ればゴールは目の前。とりあえず火口の底から出なくてはなりません。

御殿場口登山道から火口までは砂礫の道でしたが、火口から富士宮口登山道まではしっかりとした岩場の道です。上りやすくてありがたい。


なつかしの6合目火口を登りきると、遠くに6合目の山荘が見えました。昨日通ったなつかしの場所です。やっと帰ってきました。

6合目から5合目駐車場はすぐ。なんか少年団が登っていたので、「ゴミを捨てるな」と教え込む意味でも最後までゴミ拾いしながら降りました。引率の人たちからは「ご苦労様」とねぎらわれましたし、「ゴミを拾う人がいた」というだけでも、彼らの勉強にはなったでしょう。

駐車場着は10時30分。ふつう3時間でおりると言われるところを4時間かけておりてきました。ゴミ拾いをしようなんて思ったあまり1時間余計にかかったわけですが、ただ降りるよりも達成感が得られたと思います。

(ページ作成 2002-08-10)

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