腕時計型端末
目次
Ruputer
さて、時代は一気に下ります。その間にも、腕コン・腕ターミナルの後継に当たる機種は発売されていますが、「プログラムができる」リストコンピューターの後継はなかなか現われません。
14年後の 1998 年、セイコーインスツルメンツ(元セイコー電子工業)が、「世界初の腕時計型コンピューター」を発売します。
それが、Ruputer でした。
16bit CPU とメモリを備え、単体でアプリケーションの実行が可能です。
メモリは、CPU が直接扱うメインメモリと、データを置くストレージに別れており、ストレージはファイルによって管理されます。
そして、そのファイルを扱うための OS も搭載しているのです。
腕時計サイズの中に、コンピューターとしての特徴をちゃんと収めてありました。
…ポケコンよりも、ずっとコンピューターらしいと言えるでしょう!
リストコンピューターの時代は OS は一般的ではなく、Z80 を直接駆動するだけでも十分に「コンピューター」と呼べました。
しかし、Ruputer の時代は Z80 の直接駆動なんていうのは、組込み機器で使われる「マイコン」であり、コンピューターではないのです。
Ruputer は OS とファイルシステムまで備えた、という意味で、この当時のコンピューターらしい要件を満たしていました。
ハードウェア
まずはハードウェアの紹介から行きましょう。「腕時計サイズに納めた」というハードウェア要件が一番重要な特徴ですから…
表示
画面表示は 102x64dot。
白黒2値ですが、グラフィック表示も可能です。
12x12 ドットのJIS第2水準の日本語フォント(アスキー部分の横幅は6ドット)を持っているため、横16文字、縦に5行表示できます。
フォントセットには、シフトJIS の空き領域を使って絵文字が定義されています。(左図:クリックで全部表示)
これらは内蔵アプリであるスケジュール帳やアドレス帳で使うことを想定しているようで、天気を示す記号やレジャーを示す記号、十二支や人の顔、表情など…DoCoMo 、KDD、J-PHONE(いずれも当時)の絵文字をいいとこどりしたようなものが入れられています。
シフト JIS の空き領域を使用する、と言う方法も i-mode にそっくりです。
…いいですか、大事なことだから繰り返します。
Ruputer の文字セットには、当時の携帯電話に使われていたものにそっくりの絵文字が、i-mode にそっくりの方法で収められています。
ただし! i-mode が開始されたのは 1999年。他社も同年中に追随しています。
Ruputer は 1998 年に発売されており、それらに先駆けた形です。i-mode 「が」そっくりなの。
これは、もっと歴史に刻まれて良い事実かと思います。
ところで、えーっと、セイコーインスツルメンツって千葉の美浜区の会社なんですね。
文字コードで F88F の部分…美浜区周辺に在住の、国際的に有名なネズミさんとしか思えない絵柄が入っているんですけど、いいんですかね (^^;;
入力
Ruputer の画面下には、カーソルポインターと呼ばれるスティックが付いています。
写真(クリックすると大きくなります)では、黄色い部分。上下左右に動かされたことを検知できます。
…残念ながら「押し込んで決定」はありません。押し込んで決定できるジョイスティックって、2000年のプレステ2が最初じゃなかったかな。
(業務用ゲームで、「引っ張ってダッキングできる」ジョイスティックはありましたね)
これ以外に、表示部左側に1つ、右側に3つのボタンが並びます。表示面の端にボタンの「意味」が表記されていますが、順に説明して行きましょう。
まず、右側中央は EL ボタン。バックライトを点灯させます。
昔の腕時計によくあった「押している間点灯」というハードスイッチではなく、OS がソフトで制御しています。
押すと一定時間点灯するのだけど、この一定時間は調整可能。
白黒液晶時代らしい機能で、これは現代にはちょっとないかな。
その上にあるボタンは少し大きめに作ってあるのだけど、決定(ENTER)ボタン。
先に書いたジョイスティックで選んだあと、このキーで決定します。
「選んで決定」が離れたキーに割り振られているのがちょっと使いにくい。一番よく使う操作なのにね。
当時の機械的な仕組みとして仕方がないとはいえ、これはちょっと Ruputer の魅力を半減せていた部分。
一番下にあるのはメニューボタン。
実のところ、アプリに開放されたボタンで、アプリごとにどう使うかは自由です。
まぁ、一般的には名前の通りメニューを表示します。Android のメニューボタンと同じ。
そして、左側に独立しているのは、FILER ボタン。現代的には「HOME」です。
OS の基本画面に戻り、起動するアプリなどを選べるようになります。
なお、このボタンを長押しすると、どんなアプリを使っている時でも、OS の機能で時計表示を行います。
ちゃんと腕時計としても使えるのです。
(ボタンを離して1秒すると元の画面に戻ります)
タッチパネルではないので「選択と決定」があることを除けば、現代のスマホと同じような操作体系になっていることがわかるかと思います。
ソフトウェアキーボード
文字入力が必要な際は、ソフトウェアキーボードが表示されます。
ひらがな/カタカナによる 50音表、QWERTY キーボード表示による半角・ローマ字入力、テンキー表示による数字入力と、絵文字や記号の入力ができます。



実機スナップショットではなく、マニュアルに掲載された図のスキャンデータです。申し訳ない…
先に書いたジョイスティックで文字を選び、決定ボタンを入力…を繰り返す必要があります。
さらに、ひらがな/カタカナ/ローマ字入力の際には入力後に漢字変換できますが、単漢字変換です。
流石に、入力は「可能」ではあるが、基本的にはパソコンで入力したデータを持ち歩くビュアーだと思ったほうが良いのでしょう。