現代のグーテンベルグ聖書
歴史の話をずっと書いてきたけど、見ていない時代のものを書くというのはすごく疲れます。
最初は興味があったから調べて書いていただけだったのだけど、調べれば調べるほど、もっと知りたくなってしまって文章がまとまらない…
で、申し訳ないですが歴史の話はちょっと横に置いといて… (^^;
久しぶりに、自分の使ってきた懐かしいマシンの話題でも書こうかと思います。
200LX 総合目次
第1回 現代のグーテンベルグ聖書
第2回 DOSを覆い隠せ!
PC を携帯する
というわけで、現役で使いつづけているマシンの中ではおそらく2番目に古い、HP200LX の話題です。
表題とした「グーテンベルグ聖書」というのは、最初の活版印刷で作られた本です。グーテンベルグが活版印刷を発明する前は、本を作るには手で書き写して写本をつくるしかなく、1冊の本は家が一軒買えてしまうほど高価なものでした。
しかし、活版印刷により事態は変わります。本の値段は下がり、誰でも読むことが可能なものになりました。大切に鍵のかかった部屋に置いておかないでも、持ち歩いて読んでよいほどに。
グーテンベルグは、持ち運びやすいように聖書を「馬の鞍袋にちょうど納まるサイズ」に作り上げました。このサイズはこの後ひとつの標準となり、現在は「フォリオサイズ」と呼ばれています。
話をHP200LXにもどしますと、このマシンの値段は、当時としては非常に低い価格に抑えられていました。さらに、持ち歩きやすいようにサイズは「胸ポケットにちょうど入る」サイズに作られているのです。
電源も、普通の単三乾電池2本で20時間動作します。重さも当時としては驚きの 312g(電池込み)でした。
グーテンベルグ聖書は、「本を携帯する」という、新しい時代を作り出すきっかけとなりました。そして、HP200LX は、コンピューターを携帯する時代を作り出すきっかけとなったのです。
HP200LX のハードウェア
200LX は今でこそ貧弱な性能ですが…1994年の発売時点ですでに見劣りのするスペックでした。
当時の標準的なパソコンとして93年末発売の PC-9821Ap2と、200LX、LX シリーズ初代となる 95LX 、それに 200LX のベースとなった IBM-PC/XT のスペックを、表にして比較してみましょう。
PC-9821Ap2 | 200LX | 95LX | PC/XT | |
---|---|---|---|---|
発売年 | 1993 | 1994 | 1991 | 1983 |
CPU | i486DX2(66MHz) | 80186相当(7.9Mhz) | 8088相当(5.4Mhz) | 8088(4.8Mhz) |
メモリ | 3.6M | 1/2/4M (ロットによる) | 512K/1M (ロットによる) | 256K (最大増設640K) |
表示 | 640x480 256色 640x400 16色 (モード切替) | 640x200 2色 320x200 4色 (モード切替) | 240x128 2色 | 640x200 2色 320x200 4色 (モード切替) |
OS | DOS/Windows 3.1 | DOS(ver.5) | DOS(ver.3) | DOS(ver.2) |
200LX は XT をベースにしているとはいっても、XT よりは良くなっています。とはいえ、同時期のデスクトップ機に比べると性能は雲泥の差…
こんなに性能が低くても名機と呼ばれるのは、200LX が「携帯できるパソコン」という明確な方向性を持っていたためです。
ノートマシンというのは当時すでにありましたが、移動できるだけで「携帯」とまでは行かないものでした。200LX はポケットに入れやすいサイズ・重量に設計されていましたし、立ったまま入力しやすいように設計されていました。
その設計の犠牲となって各部はプラスチックで破損しやすく、トラブルが絶えなかったとしても、携帯できるパソコンを求める人にとっては、200LX は他に変えられるものがない名機なのです。
本体サイズ
200LXの本体サイズは、閉じた状態で 幅158x奥行き86x厚み26mm となっています。
何気なく見れば「ふぅん、確かに小さいね」というくらいのサイズなのですが、実はこの数字は「絶妙な」バランスを生み出しています。
奥行きの 86mm という数字は、普通のシャツの胸ポケットの幅でちょうど入るくらいのサイズです。ポケットに入れるとき、幅158mm というのは「上にはみ出る」のですが、これはそれほど問題のあることではありません。
200LX では、「PCを携帯する」というのが鞄に入れて持ち歩けるという意味ではなく、いつでも取り出せる位置にあるということです。
200LX 以降さまざまな携帯PCが作られましたが、胸ポケットに入る大きさに作られている物はありません。他機種は、すべて「鞄に入れて持ち運べる」サイズに作ってあるのです。一度使ってみるとわかることですが、これは使い勝手に大きな差を与えます。
幅の 158mm というのも、実は入力時に重要な意味を持つ絶妙なサイズとなっています。詳しくは次の「キーボード」の項でお話しましょう。
キーボード
200LX のキーボードは、賛否両論別れる所です。「あんなもので入力する事は出来ない」と言いきる人もいますが、多くのユーザーは「慣れればまったく問題無し」と言います。
「慣れれば」というのが重要で、通常のキーボードとは違う物だ、というのは事実でしょう。
まず、配置が違います。キーボードをコンパクトにする時、まずはテンキーが削られる事が多いのですが、200LX ではテンキーを残して、英字配列上段の数字キーを無くしてしまいました。
ここらへん、200LX が「高級電卓」として開発されているためで、ポケコンと同じ発想でしょう。
通常数字キーが並ぶ所には、独自のアプリケーションキーが並びます。また、キーボード右端の方の記号類は、テンキーのShift状態などに移動しています。
ここで重要なのは、このような「配置替え」は大胆に行われているものの、根本的に「無くなった」キーはないと言う事です。200LX を PC として見た時、すべてのキーがそろっているというのは、あたりまえなようで実は重要な事です。
200LX のキートップは 7mm と小さいのですが、キーとキーの間に十分な余裕を持って配置されています。このため、間違えずに「ひとつの」キーを押すために使える面積は 14mm 確保されていて、隣りあったキーを間違えて押す事が無くなっています。
200LX のキーは、「本体を両手で持って、親指でキーを押す」という設計思想で作られているそうです。立ったままでも使える、まさにどこでも使えるコンピューターと言う発想です。
ここで、本体の幅が 158mm であるということが重要になってきます。このサイズであれば、両手でしっかりと本体を持った時に、親指がすべてのキーに届くのです。…ただし、大人のアメリカ人男性の手であれば。
日本人の手では、「しっかりもつ」と中央にまで親指が届きません (^^; ただし、「軽く持つ」ようにすれば問題はありません。
最後に、キー配置の特徴として、右上に寄せられたカーソルキーを挙げておきます。通常、PCのキーボードではカーソルは右下にあるのですが…
実はこの位置を持つと、縦でも横でも200LX の重心を支えられるようになっています。
ゲームはもちろん、テキストビュワーなど「カーソルのみで操作出来る」ソフトは数多くあります。カーソルキーを使う時に最も安定する、というのは、使い勝手を十分に考慮した上での配置変更と言えるでしょう。
画面
200LX は PC/XT 互換機です。なので、画面も CGA となっています。
…と言っても、日本では XT 互換機に馴染みが薄い(XT の時代、日本では PC-9801 が普及していました)ので、まずは CGA の説明からしましょう。
CGA は、白黒 640x200 dot 、もしくは4色カラー 320x200 dot を表示出来る画面アーキテクチャです。200LX も、この両モードに対応しています。とはいっても、カラーは出ないので白黒4階調となりますが。
ともかく、200LX の画面は、「CGA です」の一言で終わりです。表示からメモリマップまで、何一つ特徴はありません。
実は LX シリーズ最初の機種であった 95LX では、XT 互換を謳いながら画面だけは非互換でした。ちょうど 98HA がそうであったように。
その点、200LX で「完全な XT 互換」が実現されていたことは非常に重要なのです。