執筆環境 XANADU
目次
著作権の管理
WWWの普及以来、さまざまなところで著作権の問題が発生しています。電子データはコピーが簡単なため、これはあらかじめ予想されていた事態ではありますが…
Xanaduでは、最初からシステムに著作権管理の概念が導入されています。
まず、情報が引き出せるのはサーバーからブラウザまでで、ブラウザから別の場所にデータを移すことは出来ません。
データのコピーは出来ませんが、「一見コピーしたかのような」動作は可能です。
Xanaduでは、文章の中に他の文章の一部を表示する、「引用」という機能があります。これはリンクのようなものですが、ジャンプしないでもその場で表示されるところが異なります。
ただコピーできないだけ、というのは著作権管理とはいえません。
Xanaduではもちろん、著作物を読んだ人に対して、著作者が「課金」出来るシステムが備わっています。
その際に、この「引用」の本当の意味が出てきます。著作者に対して支払われた著作権料のうちいくらかは、自動的に「引用」した文章の著作者にも支払われることになるのです。
もしも人の文章をまるっきりコピーした盗作を作れば、その著作権料は、盗作の作者ではなく、本当の著作者に支払われることになります。これは非常に理にかなった著作権管理です。
強力なリンク
引用はリンクの一形態です。WWWではリンクは「他のページにジャンプする」というような形でしか示されませんが、Xanaduにはいろいろなリンクがあります。
WWWでは、リンクは基本的にページ単位です。ページ内に「アンカー」を指定しておくとページの途中にジャンプすることは出来ますが、せいぜいそこまでです。(このページで言えば、一番上に用意された目次で飛べる場所以外には飛べません)
Xanaduでは、文字単位で好きな位置にリンクが可能です。これは単に機能の問題ではなく、「一度出版された情報は永久に変更されない」というポリシーがあるから可能になる芸当です。
すでに紹介した版の管理も、特殊なリンクの形態と考えられます。ほとんどが以前の版の引用で、書き換える部分だけが存在しているのですから…
WWWでは、リンクは一方的に張るような片方向のものでした。しかし、Xanaduのリンクは双方向です。リンクを張ると、その先のページを読んでいる人にも「リンクが張られている」ということがわかるということです。
ある文章があって、そこに賛同や反論のリンクを張ることが可能…と考えると、これは結構恐ろしいことです。しかし、非常に有用でもあります。
版の管理が特殊なリンクであるということは、ある文章を読んでいる人は、双方向リンクによってその文章の「新版」や「旧版」も自由に取り出すことが出来るということにもなります。
強力な執筆環境
このように強力なリンクがあるのは良いのですが、これだけややこしいものを、WWWのように一生懸命タグを書いて制御しなくてはならないのでしょうか…?
もちろんそんなことはありません。Xanaduはもともと「閲覧のためのシステム」ではなく、「執筆環境」を目指して作られているのです。WWWとの最大の違いはこの点となります。
Xanaduでは執筆環境と閲覧環境の間に垣根はなく、出来上がりのイメージのまま執筆が可能です。
これは、著作権管理でコピーが出来ない、という問題に対する答えでもあります。
Xanaduで何か文章を書いていて、他の人の文章から一部を引用したくなったとします。
このとき、コピーしたい文章を「コピー」する操作をしたとすると、Xanaduは自動的にそれを「引用」として処理します。
執筆中の文章の中に、コピーした文章は確かに表示されます。しかしそれはコピーではないので、著作権には違反しません。コピーできないからといって使い勝手が落ちることもありません。
理想郷はどこに…
こんなXanaduですが、では実際にどこにあるのかといえば…残念ながらまだ出来上がっていないのです。
1967年に構想が発表されたのですから、もう30年以上も開発が続けられていることになるのに、まだ完成しないのです。(…テッドは「60年に構想した」と主張し、すでに40年たっていることになっています。まぁ、漠然とした構想くらいはその頃からあったのかもしれませんが…)
完成しない理由は明らかです。考えられるすべての問題をあらかじめ解決しておこうと、大きなシステムを考えすぎたのです。
テッド・ネルソンの語る夢物語に惹かれ、多くの会社が彼に投資しました。CADシステムの開発会社として有名なAutoDesk社がXanaduプロジェクトに多額の投資をし、失敗したのは有名で、テッドは「詐欺師」扱いされたそうです。
Project Xanadu自体は現在も続いています。
WWWの普及以降は、WWWの足りない点をどうすれば補えるか、ということで、WWWにXanaduを持ち込む方法を研究しているようです。
また、テッド自身が設立した会社、The Xanadu Operating Company (XOC)がプログラムの試作を続けており、オープンソースでXanaduのサブセットを公開しています。実際閲覧・執筆環境は動作するようです。
Xanaduは「見果てぬ理想郷」なのか、それともいつか手に入るときが来るのか…それは誰にもわかりません。
しかしこれが、コンピューターの進む道を示し、社会に大きな影響を与えたのは確かなのです。
参考文献 | |||
林檎百科〜マッキントッシュクロニクル〜 | SE編集部 | 1989 | 翔泳社 |