執筆環境 XANADU
目次
trackback
すでにブームは過ぎた感じですが、トラックバックと言うシステムが流行ったことがありました。
全く異なる2つのページ間で、両者のシステムが対応していれば、双方向のリンクを可能とするための仕組みです。
自分の管理するページからは当然リンクを作ることができます。WWWが双方向でないのは、自分の管理「していない」ページにリンクを作れないためです。
そこで、相手のシステムにリンクしてほしいというリクエストをだし、自動的にリンクを作ってもらうための仕組みがトラックバックでした。
これ、スパムに利用されただけでした。WWW でのリンクは、何らかの表示を伴う必要があるため、商品の宣伝文を相手に送りつけて表示してもらい、興味を持った人が商品の購入ページに飛べるように出来るのです。
もちろん、文章の内容は全く関連性がありません。
Xanadu のリンクは、必ずしも表示されません。双方向リンクの場合、特別な操作によって「閲覧中のページを引用しているページの一覧」などを得ることができるだけです。
文章内容に強い興味を持った人なら他の関連文章を探せますし、そうでない人は関連文章の存在を知ることもありません。
そのため、無差別な広告が表示されることは無く、スパムは意味をなさないでしょう。
もちろん、Xanadu のシステムでも関係のない文章へリンクすることは可能でしょうが、先に書いた著作権管理システムがあるため、リンクを「する側」は相手に対してお金を払わなくてはなりません。これは、スパムを排除する何よりも強力な盾となるでしょう。
Wiki
個々人のサーバーに文章を置くのではなく、集中管理で、版の管理があって…という部分で、「すでにWikiがある」と感じる人も多いようです。
もしも、「全世界の WEBページが」、一つのサーバーの Wikiで管理されていれば、かなり Xanadu に近いかもしれません。
しかし、現在はそうではありません。
Wiki の代表の一つである Wikipedia でも、間違った記述が多数あり、間違いだと指摘しているページも多数ありますが、Wikipedia を読む人には「間違いである」という情報が届きません。
双方向リンクがないためです。単一サーバーなら、すべてのリンクを把握できるため、逆方向へのリンクを抽出する方法だって用意できるでしょうけど!
また、Wikipedia でも、外部リンクとして示された資料が「リンク切れ」なのは非常に良くあることです。
これも、単一サーバーなら完全管理できるのでしょうが、404 は WEB の仕組みでは絶対に無くすことができません。
そのほか
ここまでに挙げた「WEB 上のサービス」だけでなく、今後も含めて Xanadu の機能に類似したサービスは、多数あるでしょう。
そして、そうしたサービスが普及した後で Xanadu を知った人にとっては、Xanadu は「作成するのに時間がかかっている間に、すでに先を越された残念なシステム」であり続けるかもしれません。
ただ、一つ勘違いしないでほしいのは、WEB 上で実現された数多くのシステムは、Xanadu に触発されて作られた側面がある、ということです。
WWW との比較で機能説明をする際に書いた通り、Xanadu の中で、一番簡単な部分だけを実装する形で WEB が作られました。
ただ、Xanadu には無くて、WEB には存在したものが一つあります。それが「Common Gateway Interface (CGI)」という仕組みでした。
Xanadu は単一サーバーモデルですから、そのサーバーは厳重に管理されます。しかし、WEB は分散サーバーモデルなので、サーバーごとに何をしようとも自由でした。
そして、CGIは「サーバーの機能を自由に拡張する」ための仕組みです。サーバーにアクセスがあった時点で、サーバー上でプログラムを動かし、動的にページを生成することができました。
Xanadu を知っている人にとって、WEB は Xanadu の残念なサブセットでした。
しかし、WEB には CGI があります。これは Xanadu にはないもので、WEB を拡張できます。
さっそく、数多くの「WEB フレームワーク」が作られました。それが Trackback システムを備えた Blog システムや、Wiki の正体です。
これらは巧妙に、 Xanadu の機能を、わずかづつでも実現しようとしています。
Xanadu は○○に先を越された、のではなく、○○を作り出すヒントをあたえ、形を変えて少しづつ実現されてきている、とするのが正しいのです。
(2014.6.28 の追記はここまで)
理想郷はどこに…
こんなXanaduですが、では実際にどこにあるのかといえば…残念ながらまだ出来上がっていないのです。
1967年に構想が発表されたのですから、もう30年以上も開発が続けられていることになるのに、まだ完成しないのです。(…テッドは「60年に構想した」と主張し、すでに40年たっていることになっています。まぁ、漠然とした構想くらいはその頃からあったのかもしれませんが…)
完成しない理由は明らかです。考えられるすべての問題をあらかじめ解決しておこうと、大きなシステムを考えすぎたのです。
テッド・ネルソンの語る夢物語に惹かれ、多くの会社が彼に投資しました。CADシステムの開発会社として有名なAutoDesk社がXanaduプロジェクトに多額の投資をし、失敗したのは有名で、テッドは「詐欺師」扱いされたそうです。
Project Xanadu自体は現在も続いています。
WWWの普及以降は、WWWの足りない点をどうすれば補えるか、ということで、WWWにXanaduを持ち込む方法を研究しているようです。
また、テッド自身が設立した会社、The Xanadu Operating Company (XOC)がプログラムの試作を続けており、オープンソースでXanaduのサブセットを公開しています。実際閲覧・執筆環境は動作するようです。
Xanaduは「見果てぬ理想郷」なのか、それともいつか手に入るときが来るのか…それは誰にもわかりません。
しかしこれが、コンピューターの進む道を示し、社会に大きな影響を与えたのは確かなのです。
openXanadu
以下、2014.6.10の追記です。
その後、閲覧・執筆環境を配布していたページは閉鎖。(元は、上記文章中からリンクしていました)
当時の状況はWiredに詳しいです。
オープンソース化されたものを元に、2007年に XanaduSpace と言う名前で一度リリースされている。
そして今度は名前を openXanadu に変えて再リリースされたようで、GIGAZINE が詳細を報じています。
…GIGAZINE の記者、理解していないのがよくわかる記事。
まぁ、openXanadu も、WWW との違いを表現したいのか、中途半端に変なビジュアルに走っているきらいがあります。
そして、openXanadu ではまだ、一番重要な「単一サーバーによる未来永劫の記事保存」は作っていない様子。
Xanadu の夢は、どんな文章でも「引用」(リンクではない)できて、そのために勝手にコピペされる著作権問題は起こらない、というもの。
この先に、課金システムも備わることで、引用であっても著作権者に正しくお金が入るようになります。現在問題を数多く指摘されている、「まとめ」サイト問題は Xanadu にはないのです。
でも、openXanadu にはそれらは存在しない模様。事実上「WWW を再発明してみた」程度。
着実に一歩一歩進んでいるのだろうけど、まだあまり魅力を感じない。
まだまだ Xanadu は見果てぬ夢のまま、のようです。
参考文献 | |||
林檎百科〜マッキントッシュクロニクル〜 | SE編集部 | 1989 | 翔泳社 |