太陽系の惑星たち

目次

サターン

ジュピター

マルス

タイタン

ヤヌス

ネプチューン

ビーナス

プルート


マルス

マルス さて、先に書いた CES を訪れた中山社長と、日米セガの首脳会議には続きがあります。

ジュピターの中止は決定されましたが、メガドライブの市場を手放すわけにはいきません。そこで、メガドライブ用の「拡張アダプタ」を手ごろな値段で作る、という案が日本側から提案されます。


この時点では、ジュピター、サターンに倣い「マルス」(火星)と呼ばれています。マルスとは戦いの神様の名前。強力な「武器」で、アメリカの戦場を勝ち抜こうというのです。


…提案された時点で、アメリカ側技術スタッフはかなりガッカリしたそうです。メガドライブは拡張を行うにはもう非力すぎました。しかし、マルスの開発はアメリカ側に一任されます。これが後のスーパー32X。

以前には「ジュピターが最終的にスーパー32Xになった」という説もありましたが、現在ではこの説は否定される傾向のようです。


先に書いたように会議は1月。発売はクリスマス商戦、とされます。つまり、クリスマス1か月前の11月下旬です。

それまでにハードだけでなく、そのハード上で動くゲームの開発も行わなくてはならないのです。あまりにも時間がありませんでした。そのためか、スーパー32X は非常に単純な構成です。グラフィック画面があって、高速な CPU があれば、あとはパソコンと同じような方法でゲームが作れるだろう、という設計。

CPU はサターンと同じ SH-2 を2つ。ただし、動作周波数は少し遅いです。すでに SH-2 と他の CPU の性能比較は行いましたが、当時のゲーム機の CPU としてはかなり強力。…でも、パソコンと比べるとすでに非力。


パソコンより非力な CPU で、パソコンのような方法でゲームを作る。

メガドライブ本体の VDP 出力との重ね合わせもできますし、パソコンよりゲーム向けの機能が使える、とも考えられますが…

パソコンのような手法で作るなら、パソコンで作った方が市場が広いです。メガドライブの VDP をメインで作るなら、メガドライブ用に作った方が市場が広いです。


クリスマス商戦では、日本ではサターンが発売されましたが、アメリカではスーパー32Xが発売されます。この時点でアメリカでのサターン発売は半年後、と予告されていました。半年で旧機種になってしまうハード、と最初からわかっているのです。

しかし、サターンは先に書いたように、アメリカでは「非常に高価なもの」と受け止められていました。スーパー32X は、十分に安価で、すぐに手に入ります。


発売前に、アメリカでは100万台を受注したそうです。しかし、セガのアメリカ支社では十分な数を作ることができず、発売日に60万台を出荷しました。

…そして、半年後の販売台数の集計は、66万台です。初日に買った人以外は、ほとんど買わなかったのです。

スーパー32Xは、多くのユーザーの期待を裏切るものでした。現在でも、ゲーム業界最悪の周辺機器と呼ばれています。この結果、発売日に手に入らなかった人は入手予定をキャンセルしたのでした。

スーパー32X は在庫を抱え、発売から1年たたないうちに製造を中止することになりました。


タイタン

タイタンタイタンは土星最大の衛星の名前です。

サターンの周辺を廻るもの。…サターンと互換性のある業務用基板の、開発中の名前でした。

サターンはあくまでも開発コードネームで、発売時には違う名前になる予定でした。しかし、開発中から雑誌で「サターン」として知名度が高くなってしまったために、そのままサターンで行くことに…しようとしたら、サターンの商標はすでに取得されていることが判明。

仕方なく、「セガ・サターン」が正式名称となります。


タイタンもこれを受け、他社の商標とぶつからないような「長い名前」に変更されます。具体的には、「セガ・タイタン・ビデオゲームシステム」となる予定でした。

しかしこれは長すぎるため、正式名称は頭文字で ST-V とされます。


名前がぶつかりそうな時、「とりあえず長くしとけ」は技術者の悪い癖だと思う。
その挙句頭文字をとって ST-V というのは…札幌テレビとかぶってるけどよかったの?

当時、SNK のゲーム機ネオジオが「駄菓子屋ロケーション」と呼ばれる独自の戦略で売り上げを伸ばしていました。

ネオジオは、家庭用にも発売されていましたが値段が非常に高く、一方でゲームセンター用とするには機能が微妙…という機械でしたが、駄菓子屋のような子供が集まる場所に設置する方法に活路を見出していたのです。


ネオジオは、ゲーム機の稼働率を上げるため、複数のゲームカートリッジを基板に挿し、お客さんが遊びたいゲームを切り替えられるシステムになっていました。

別に駄菓子屋のために考案したわけではないようですが、これが店舗の狭い駄菓子屋にマッチ。

狭いと「複数の台数は置けない」ですし、「1台の稼働率を上げたい」のですが、1台で複数のゲームが遊べるシステムなら、この要求を満たせるのです。


ST-V も、この市場に入り込むべく作られた機械です。

ですから、システム ROM では、ネオジオのように複数のカートリッジを挿して管理できるようになっています。ソフトウェアも、必ず「ゲームの切り替え」に対応することが求められました。


駄菓子屋に売り込むための戦略商品として作られたのが「バーチャファイターリミックス」でした。

ゲームセンターで実績のあるタイトルを、廉価な ST-V に移植すればキラーソフトになりえるだろう、と言う判断でした。




ところで、ST-V の基板には、カートリッジを差し込むコネクタは1つしかありません。また、このコネクタを複数もつ ST-V 基板は作成されていません。


海外には熱心なファンがいて、非常に珍しいが 4slot の基板があるとか、6slot を見たとか、怪情報が飛び交っています。

その一方、ST-V は 1slot の基板しかなく、マルチカートリッジは計画だけで実現されなかった、と言う話もあります。

どちらの説でも「マルチカートリッジ用の ST-V 基板が試作されたが、製品化されなかった」ということで話が落ち着いているみたい。


どうしてそうなるかな…4つ・6つの slot がマザーボードについている、というのはネオジオの話です。ST-V はネオジオを真似ていましたが、ハード的には関係ありません。

ST-V では、標準の 1slot 基板で複数ゲームを動かせたんですよ。これに関しては噂などではなく、実際起動していたのを確認しています。


ST-V のゲームを開発していた会社にいた頃、カートリッジではなく、ROM を多数搭載できるボードがありました。ゲームのデータを ROM に納め、ボードに挿して ST-V の拡張コネクタに接続すると、ゲームを動作させることができました。

このボードにも拡張コネクタがあり、複数重ねて並列接続できるようになっていました。これにより複数のゲームを搭載した「マルチカートリッジ」状態に出来ました。


この ROM ボードは開発専用だったようで、ST-V のゲームが ROM で供給されたという話は聞きません。


開発は、Flash ROM カートリッジを使うことで行われました。完成すると同じ内容を EP-ROM に入れ、上記 ROM ボードで動作を確認した上でセガに納品します。(ROM 作成機材がない場合、Flash ROM カートリッジのまま納品、も可能でした)
セガでは EP-ROM を元にマスクROMを大量生産し、カートリッジ化してくれました。

拡張コネクタに ROM を搭載してゲームを起動できた、ということは、カートリッジ搭載も可能だったように思います。なので、ST-V は 1slot しか持っていないが、複数 slot に「拡張できた」のではないかと信じています。


じゃぁ、なんで当初予定通りマルチカートリッジ化しなかったの? 詳細は闇の中ですが、可能性は2つあります。


まず、技術的に何か問題が生じた可能性。ROM ボードで複数ゲームの起動が実現されたから、カートリッジの複数搭載も可能…と思っていたら、カートリッジと ROM の何らかの微妙な違いで、実現できなかったのかもしれません。

カートリッジの中には、ROM だけでなく、わずかな「回路」が入っています。これが何か作用して、ROM ボードなら複数ゲームの搭載ができたのに、カートリッジではできなかった可能性があります。


もうひとつは…当時お会いしたセガの営業の人から聞いた話ですが、セガでは「売上」ベースの営業ノルマが課されていたらしいのです。

そうなると、ST-V よりも MODEL2 などの高価なボードのゲームを販売するほうがノルマ達成しやすくなります。1台の基板に複数のソフトを載せる駄菓子屋よりも、何台も基板を買ってくれるゲームセンターの方がありがたいです。

ゲームの本数を売る、小さな契約でも1契約を大事にする、と言うノルマなら、駄菓子屋でも積極的に営業を行ったでしょう。しかし、売り上げベースなら駄菓子屋を廻るなんて馬鹿げています。ゲームセンター相手でも、「1枚の基板で複数のカートリッジが動く」なんて機能が実現されたら、基板の売り上げが落ちます。

マルチカートリッジの基板が開発されていたとしても、営業にとっては敵ですね。

もし基板が存在しても黙殺して販売しなかったでしょうし、ゲームセンターなどから問い合わせられても「まだ開発できていない」で押し通したでしょう。


ともかく、理由はわかりませんが、ST-V のマルチカートリッジ機能は使われませんでした。システムロムの設定項目として、ひっそりと眠っているだけです。


ゲームセンターに置かれたVFリミックスは、もの悲しさを誘いましたね…

すでにバーチャファイター2が稼働している横で、「コレジャナイ」感を漂わせていました。駄菓子屋だったら子供が喜んだのでしょうけど。




ところで ST-V の機能ですが、「完全互換」ではないです。先に書きましたが、CD-ROM の替わりに、ROM を搭載します。

当然、CD-ROM からデータを読み込むためのバッファ RAM もありません。

そもそもバッファ RAM と同じバスに ROM が搭載されているので、読み込み終わっているつもりで ROM を読めばよいだけの話です。


とはいえ、ST-V では CD-ROM の大容量は使えませんし、BGM を CD-ROM から流すこともできません。


一方で、ROM なので読み込み時間がありません。読み込み時間がないと言うことは、必要ならどんどんデータを更新できるので、場合によってはサターンで作れないようなゲームも作れます。


つまり、ST-V とサターンは、非常に互換性が高かったけど完全互換ではない、という当たり前の話。


互換ハードと言われても、ST-V で作られたゲームをサターンに移植できなかったり、サターンに作られたゲームを ST-V で発売する際に音声や動画が大幅にカットされたりすることがありました。



サターンから ST-V への移植は多くないですが、それなりにありました。

もっとも、業務用では絶対 CD-ROM が使えないというわけではなく、「スポーツフィッシング」では ビデオ CD を使っていたようです。ドライブを接続することは出来たんですね。


こんな違いはありますが、主な違いはデータ保持の方法だけ。

機能的にはサターン互換、同じ性能の業務用基板です。


よく「サターンを拡張した」とか「上位互換」と言われるのですが、互換で同じ性能です。

大事なことなので2度言いましたよ。


当時、プレステをベースにした業務用基板をナムコが作っていて、そちらには拡張されたものもありました。だからサターンも同じように上位互換、と勘違いされたのかも知れません。


また、セガ社内でも拡張していると思っている人が多かったようです。


セガの業務用部署で ST-V のゲームが作られ、それをサターンでも出すことになった時、業務用のチームから家庭用のチームに、プログラム一式の引継ぎが行われたんだそうです。

業務用のプログラムは、後でサターンに移植することを考えて ROM の使い方などを「CD-ROM でも再現できるように」制限していました。だから、何も考えずにベタ移植できるはずです。


でも、ゲームが動作している画面を見て、家庭用チームは「すみません、サターンはST-Vより性能低いので、この移植は無理です」って言ったとか。


社内で、直接扱っていた人すら勘違いしているのだから、ST-V は拡張されていた、という噂が広まっていても仕方がないですね。




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(ページ作成 2013-11-22)
(最終更新 2016-01-22)

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