2017年07月06日の日記です


セレンディピティ  2017-07-06 18:23:40  その他

20世紀最後の年、2000年のノーベル賞受賞者は、日本人の白川英樹博士だった。


導電性高分子…電気を通すプラスチックの発見による受賞。


いきなりの余談なのだけど、会社の同僚で仲の良かった奴が、「なんでプラスチックに電気通したくらいでノーベル賞なの? 電気通したいなら金属使えばいいじゃん」と言っていた。


そこで、「プラスチックは透明だから、液晶ディスプレイが作れた」と言ったら、驚いた顔で無言になり、一瞬後に「その発明はノーベル賞もんだ!」と納得していた。


#いつの時代もそうだけど、日本でのノーベル賞の報道は、その受賞研究とかが紹介されず、交遊録とかばかり。

 だからその知人が不勉強だったわけではない。

 

 ちなみに、「ポリマー充電池」などもこの物質の応用で、軽くて自在な形にできるのでモバイル機器に活用されている。




さて、白川博士を紹介したいのではなくて、博士の受賞スピーチに出てきた「セレンディピティー」という言葉の話。


これ、博士のスピーチ以前は、日本人のほとんどが知らない単語だった。

当時、この耳慣れない言葉を、多くの新聞などで「セレンディップの三人の王子、という童話のように、思いがけない幸運に出会うことを意味する言葉」と解説していた。


今では、「セレンディピティー」という言葉を、多くの日本人が知っている。

でも、相変わらず、言葉の元となった童話がどんなものかは知らない。


どんなお話なのか気になっていた。

セレンディピティーという言葉は中世に作られたというような解説も読んだことがあったので、そのころのお話なのかな、とも。



先日、子供を図書館に連れて行ったとき、児童書のコーナーに「セレンディピティ物語 幸せを招ぶ三人の王子」という本を見つけた。


喜んで借りてきた。本の前書きにも、白川博士のスピーチの件が書かれている。


元は、5世紀ごろに成立したお話だそうだ。まだ日本が中国から「倭」と呼ばれていた時代。(倭の五王の時代)

童話というよりは民話だな。誰かが作ったものではなくて、自然発生的にまとまったお話。


セレンディップ、という国の三人の王子が主人公だけど、セレンディップというのは、セイロン、スリランカのその頃の名称だそうだ。


16世紀…大航海時代のさなかにはヨーロッパに物語が伝わり、イタリアで本として出版されている。

異国情緒あふれる物語として楽しまれたようだ。



そして18世紀、正確には 1754年に、イギリスの小説家が友人への手紙の中で「セレンディピティ」という造語を使っている。

子供の頃に読んだ、セレンディップの三人の王子にちなんだ造語だとして、その言葉の意味も定義している。


これが広まり、20世紀中ごろにはイギリスではよく使われる言葉になる。

その後徐々に世界に広がり、20世紀の最後の年に、やっと日本にも入ってきたというわけだ。




話を急に変えるのだけど、少し前に、インドネシアの影絵芝居を見た。


本来一晩中語り明かすことが多い物語で、ストーリー性よりも「一晩中語り続ける」ことが重視されている節がある。

影絵の人形を使ってはいるが、一人芝居。だから、思い付きで話は転がっていくし、いくらでも引き伸ばせる。

もっとも、大まかな骨子は決まっていて、驚きの展開とかにはならないので、見るほうも長い話の途中で寝ても大丈夫。


当然話はグダグダなのだけど、そんなことはどうでもいいのだ。

夜通し続けるような祝い事の席で、これも起きている人がいる限り、「にぎやかし」に上演を続ける、ということが重要なのだから。




で、「セレンディップの三人の王子」にも、同じような雰囲気を感じた。

スリランカからインドのあたりが舞台で、次の王位継承者にふさわしい人格を備えるために、王様の命令で旅に出た三人の王子が主人公。


一人は知恵者。一人は勇敢で、一人は工作技術に長けている。

三人が力を合わせながら難題を切り抜けていくのが見所。


旅の目的は「島の周りに生息する竜を退治する薬を手に入れるため」なのだけど、行く先々で様々な人に会う。

それらの人の悩みを解決するために走り回り、時には命を懸け、決して自分たちが王子だとは明かさない。


ピンチにあっても、ご都合主義的展開で必ず成功する。

そして、当初の予定になかった「すばらしいもの」が成功報酬としてついてくる。


隣国の傲慢な王様は、彼らの働きに改心したばかりか、是非妹と結婚してやってくれないか、と申し出る。

さらに隣国の女王は、国を襲う怪物を退治した彼らに結婚を申し込み、一緒に国を治めてほしいと頼む。


女王には生き別れの妹がいたが、傲慢な王様はそうとは知らずに、偶然会った彼女に恋していた。

行方知らずの妹を見つけ出し、王様に合わせるとともに、その生い立ち語りから女王の妹であるとも判明する。



結局、竜を退治する薬を見つける、という旅は失敗に終わっている。

でも、探索は失敗だけど、目的は果たす。


薬の秘密は仙人が知っているのだけど、彼らは仙人に礼儀を尽くし、無理に秘密を奪おうとはしなかった。

仙人はこれに感心したのか(彼は一切喋らないので理由は不明のままだけど)、仙人がいたるところに薬をまき、国は平和を取り戻す。



こうして旅は終わるのだけど、旅の最中に、王子であることを隠し、粗末な身なりをしていた彼らに優しくしてくれた女性がいた。

貧乏ではあるが、非常に聡明な女性。


王子の一人は、彼女に恋をし、身分を隠して彼女の元に通い、結婚の約束を取り付ける。

これで、主要な登場人物全員が結婚相手を見つけ、幸せになる。



旅の目的は失敗に終わるけど、そんなことよりも多くの幸せを見つけて結果オーライ。

…これが「セレンディピティ」という言葉の元となった物語の骨子だ。




なかなか面白かった。

ご都合主義とか、途中納得いかない部分もあるけれど、全員が幸せに終わる物語というのはいいもんだ。


五世紀に成立した話が今でも伝わっているというのだから、インド文化は懐が深いと思う。



ちなみに、読んだ本はアメリカ人が話をまとめて本として出版したのを、日本語訳したもの。

古いお話なので亜流は山ほどあると思うし、お話ごとに細かな部分は違うんじゃないかと思う。


先に書いたインドネシアの影絵といっしょで、骨子くらいしか決まってないんじゃないかな。




同じテーマの日記(最近の一覧)

その他

別年同日の日記

14年 【訂正】NOP命令が作られた日


申し訳ありませんが、現在意見投稿をできない状態にしています


戻る
トップページへ

-- share --

0000

-- follow --




- Reverse Link -