2018年06月13日の日記です


携帯電話コンテンツ  2018-06-13 11:52:47  その他

急に昔ばなしなのだけど、僕は1999年に独立して個人会社を興し、フリーのプログラマを始めた。

最初は、当時流行していたので WEBページ作成サービスを始めるつもりだったし、実際いくつか作った。


でも、そうした中で「携帯電話用の WEBページ」の仕事を依頼された。

しかも、ゲーム関連の仕事経験者を求めていた。


i-mode 発売直後、まだ携帯電話自体がそれほど売れておらず、話題にもなってなかったころの話。

作ったコンテンツは、まだ数少なかった i-mode エンターテイメントコンテンツの中では、それなりに人気となった。




その後 i-mode はブームとなり、その仕事の際に知り合った人が、携帯電話向け専業で会社を興したいので参加しないかと誘ってきた。

僕自身の会社もあるので、社員になるのではなく「外注会社として参加する」形式をとらせてもらった。


i-mode は大ブームとなり、早々に大企業や著名人、有名コンテンツ(キャラクターなど)の使用が無くては入り込みにくくなっていた。

そこで、まだコンテンツが手薄だった AU(当時はまだ IDO) の EZweb 向けにターゲットを絞り、数本のコンテンツを作った。


何本かは大ヒットと呼んでも良いだろう、という程度に人気が出て、i-mode でもサービスを開始できた。

つまりは「有名コンテンツ」と認められたのだ。


DDI Poket …のちの Willcom や、Softbank でもサービスを開始できた。




日本で iPhone が発売されたのは、2008年のこと

もう10年前だ。


当時僕は W-Zero3 を使っていて、スマートフォンの限界を理解している…つもりだった。


当時の携帯電話向け WEB サービス、特に店舗などで使える「クーポン」を配布するようなものは、i-mode / EZweb / Softbank を IP アドレスで識別し、それ以外の環境ではアクセスできなかった。


携帯電話は、必ずキャリアの電波を利用してアクセスを行う。

この際、キャリアがインターネットプロバイダ(接続会社)の役割を果たすため、IPアドレスの範囲指定で携帯電話を認識できた。


しかし、スマホは WiFi接続もできるため、IP アドレス識別は使えなかった。

そもそも、W-Zero3 はキャリア電波を利用したとしても Willcom であり、「携帯大手三社」ではないため携帯電話と見なされないのが普通だった。



すでに携帯でのクーポン使用、席の予約などは当たり前の社会インフラになりつつあった。

これが使えないというのはとても不便で、スマートフォンは「携帯電話としては使い物にならない」ものだった。


さらに、当時の iPhone は PC を持っていることを前提に設計されていた。

なにかと「PC と接続して作業する」ことを求められる、パソコンのデータを持ち出して便利に使うための機械だった。


パソコンを持っていないけどメールをしたいから i-mode を使う、というユーザー層は結構多く、そういう人たちはスマートフォンに手を出せるものではなかった。


これらの理由から、iPhone も当初は「面白いガジェット」扱いで、使う場合でも i-mode などとの2台持ちをするのも普通だった。



だから、急には携帯電話コンテンツもなくならないだろう、と判断した。

既存コンテンツのほうでまだ行いたいこともあり、開発力の都合…事実上僕一人しかプログラマがいなかったので、スマホのコンテンツ開発に力を入れる余裕はなかった。


しかし、この判断は失敗だった。


iPhone をはじめとするスマートフォンは、確かにしばらく使い物にならない状態が続いていた。

しかし、2009年には docomo が、2010年には au も、android スマートフォンを発売。


もちろんすぐに普及はしなかったのだけど、先に書いた「クーポン」などの社会インフラも、急激にスマートフォンに対応し始める。

とりあえず、IP アドレス識別は無くなり、いわゆる「キャリアメール」以外のメールアドレスも使えるようになっていった。


iPhone 自体の使い勝手も改善され、PC なしでもそれほど問題なく使えるようになっていった。


この流れは、docomo が iPhone を発売した 2013年で完成したように思う。

社会インフラも、8割がた IP アドレス識別をやめ、スマートフォンに対応した。

もはや2台持ちなど必要なく、i-mode 時代のサービスは不要になったのだ。




もちろん、僕らの会社も 5年間何もしなかったわけではない。

携帯電話向けのコンテンツを、スマートフォンでも見やすいように、ユーザーインターフェイス改修などを行っていた。


それでもまだ、流れが読み切れていなかったんだ。


携帯電話コンテンツは、すべてキャリアが用意した「公式メニュー」の下に入っていた。

この公式メニュー入りというのが何よりも良い宣伝方法で、特に AU は、「人気順」になっていた。


初期のコンテンツが少ない頃に入り込んだ僕らのコンテンツは、人気で1位になった後、「1位だから」という理由で、特に宣伝をしないでも人気を維持できていた。



各キャリアは、スマートフォンでも同じように「公式メニュー」を展開した。

ユーザーインターフェイスの改修は、「スマホ向け」ということで公式メニューに掲載される条件だった。

これで、携帯コンテンツの時と同じような流れが維持できると考えたんだ。


しかし、キャリアの公式メニューなんて、ほとんどだれも使わなかった。

スマホで重要なのは、アプリストアだった。

たとえ内容が WEB アクセスするだけの専用ブラウザに過ぎなかったとしても、まだアプリが少ないうちにストアに並べたところが人気を独占した。




というわけで、5年前くらいを境に、急激に売り上げが下がった。


2013年ごろ、僕がこの WEB ページに急に力を入れていた時期がある。

あれは、減った収入を補うために WEB 広告でどの程度儲かるか見てみたかった、というのと、どこかほかの仕事を探すための技術的デモンストレーションの二つの意味があった。


でも、このページ内容のままでは大して広告収入は入らなかった。

本気で広告収入目指すなら、自分の趣味は抑えて、みんなが見たがっている情報…フェイクニュースでも何でも流さないとだめだ。



半年もすると生活費に困るくらい売り上げが落ちたので、決断した。

それまでは、皆で設立した会社の仕事を最優先で考えていたけど、優先順位を変えさせてもらおう。


フリーを辞めて、どこかの会社に就職するつもりだった。

そうなれば、もうそれ以外の仕事はできない。それでも生活を守る方が大切だ。



…が、妻に「せっかく会社を持っていて、家で働ける環境も整えているのに、就職するのももったいないよ」と諭された。

方法はいくらでもある。就職は最終手段だと考えて、在宅でできる仕事を探すことにした。



幸い、いい仕事が見つかった。今はそちらの仕事がメインになっている。

でも、最初から急に軸足を移したわけではなく、最初は以前からやっている携帯コンテンツ会社の仕事も半分くらいの比率でやっていた。




生活が成り立たないので、別の会社の仕事を受ける、ということはちゃんと会社メンバーに伝えた。

その時一緒に、赤字で続けるよりはコンテンツの終了も考慮したほうが良いのではないか、ということを、社長に対して進言した。


でも、最後の決断は社長に任せた。

社長は、もう1本、その時作りかけだったスマホコンテンツを作り上げてから決断しようと決めた。


これは、単に決断を先延ばしにしただけではなく、社長の身銭を切ってでも、僕らを雇い続けるという決断だった。

報酬はとても安く、実際働く時間に見合っていなかったのだけど、そこまで意思があるのであればと、続けることにした。



このコンテンツは、申し訳ないが完成に時間がかかった。

先に書いた通り僕しかプログラマがおらず、僕はほかの会社の仕事も同時進行していたためだ。


さらに、コンテンツの性質上、ひとりで iPhone 版 / Android 版 / WEB 版、そしてそれらと通信するサーバーを構築しなくてはならなかった。

WEB サービス構築は慣れているが、スマホアプリは不慣れであることも、なかなかプログラムが進まない理由だった。


とにかく時間も手も足りない。「とりあえず動く」ようになった時点で完成とした。これが1年ほど前。

そして、公開して1カ月くらい様子を見たが、売れる兆しは全くなかった。

完成度が低いのはわかっていたので、申し訳ないが自分でも売れないだろうとは思っていた。



でも、社長はもう少し別のこともやりたいと、手間がかからずにできそうなことをいくつか試した。

そして、前年度が終わるころ…今年の春になって、事業を縮小することを決断した。




携帯サービスは続いていたのだけど、契約者はすごく少なく、運用コストを考えると赤字を垂れ流していた。

各キャリアの公式サービスとなっている以上、これらを辞めるにしても急にやめるわけにはいかない。


書類手続きや、ユーザーへの告知などを粛々とこなし、最近になってやっと閉鎖できるようになったので、少しづつ閉鎖していった。


意外だったのは、すでにほとんどユーザーがいないと思っていたのに、そのわずかなユーザーには熱烈に支持されていたのだ、ということ。

閉鎖告知を出してから、初期のころから使っています、というユーザーからの「今までありがとうございました」というメールが次々と舞い込んだ。


毎日わずかな時間だけどコンテンツをチェックする習慣になっている、という人もいて、その人からは生活の一部を奪ってしまうことになり申し訳ない。

後継サービスはないのですか、という問い合わせも多かったのだけど、それもない。

申し訳ないが、他社の類似サービスを自分で探して使ってほしい。



そして、今日先ほど、最後の一つを停止させた。

これで自分が作ったキャリア公式サービスは、すべて終了となる。


すでに役目を終えたものだと思っているのだけど、少し寂しい気分もあり、こんな日記を書いている次第だ。




コンテンツは終了しても、残務整理がまだあるので、会社業務としてはまだしばらく続く。

また、会社を終了させてしまうつもりはない。


先に書いた「できの悪いスマホアプリ」は、まだしばらくサービスを残しておこう、ということになっている。

すでに売り上げを期待しているわけではなく、他の会社と何か共同でやる時に、名刺代わりくらいにはなるだろうという判断。



社長は、サーバー管理などがあるために就職することもできず、貯えを切り崩しながら生活していたそうだ。

(キャリア公式コンテンツでは、サーバー停止時に数時間以内の復旧が求められていた。万が一に備えるため、24時間常に待機していなくてはならない)


コンテンツ終了で生活基盤を整えられるようになるので、安定したらまた何かやりたいらしい。

別に喧嘩別れするわけではないので、その時にはまた協力したいと思っている。




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