2018年07月18日の日記です


年棒制  2018-07-18 18:10:20  業界記

たしか1998年の春から、セガでも「年棒制」が導入されました。

多くの社員は今まで通りなのですが、一部の「高度な技能を有している」と見なされた人は、高額な年棒での契約になるのです。

働いた時間とは関係なく、年間の給与が保証されます。


つまりは、いま政治的に話題になっている「高度プロフェッショナル制度」と同じものです。


労働時間とは関係なく給与を決める…残業代を払わないでも良い、というのは、1987年にはすでに成立している法律。


ただ、条件が厳しくて現実的には使いにくい物でした。

そこで、成立から 10年目の 1997年に改正され、使いやすくなりました。


この改正で、プログラマーも適用対象となりました。

具体的には、労働時間に対する最低賃金などの制限がなくなります。



今話題になっている「高プロ制」は、職種制限などを大幅に緩和しようという話。

その代わりに、他の制限がたくさんつけられています。労働条件としては、いまより改善する…はず。働き方改革だそうです。


この制限に意味がない…というような議論もあるけど、今はその話じゃない。

「当時の」法律では、そうした制限もなく、本当に残業代カットに使われるだけだった、ということ。




先に、凄腕プログラマ3人を紹介しました。

3人とも泊まり込んで仕事することも多く、残業代はかなり高額になっていました。


そこで、人事部としてもこの3人に対して、年棒制を持ち掛けたのね。

交渉は個別に行われたので、春に導入されてすぐ、ではなかったと思います。


今の基本給より高額での契約で、裁量労働なので、仕事に支障がない範囲なら休みも好きにとって構わない。

悪くなさそうな話ですし、人事部に「高度な技能を有している」と評価されたわけですから、誇らしくもあります。



でも、年棒制になって半年くらいしたら、みんな「年棒制への移行はしない方がいい」と周囲に言い始めていました。


年棒が決まっていて、残業代を出す必要がない、というのは、会社にとっては仕事を押し付けやすい人材だから。

予定外の仕事をどんどん押し付けられて、残業は増えるのに給与は変わらないのです。

これでは仕事のモチベーションも落ちてしまいます。



僕はこの後会社辞めたのですが、C++ 導入させた先輩も、僕のしばらく後に辞めてしまったそうです。

高い技術力を持った人材を囲い込めなかったわけで、年棒制の導入の失敗例です。




一方、他部署の人から聞いた話ですが、そちらの部署ではほぼ全員を年棒制に移行させたようです。

結局、誰を移行させるかは現場(おそらく部長)の判断だったみたい。


この場合、技能に応じて年棒が決まるので、技能が特に高くない人は、本当に「残業代カット」にしかなりません。



その結果、部員が団結して「残業はしない」雰囲気が出来上がったのだとか。

締め切りが近かろうが、トラブルが起きようが、技能が高い人も含めて、定時になったらみんな帰ります。


スケジュールに明らかな遅れが目立つようになりました。

それによって、部署としてのノルマは達成できず、業績が落ちました。


こちらも、年棒制導入の失敗例。

定時で帰れる雰囲気ができた、というのは悪いことではないですけど。




ずっと後になって、独立して自分で仕事するようになってから理解したのですが、「裁量労働」というからには、仕事内容を自分でコントロールできる必要がありました。


会社で、上司から指示された仕事を行う、という就業形態だと、仕事内容を自分でコントロールできません。

すると、残業の発生も自分でコントロールできなくなりますし、その状況で残業代が出ないのは「おかしい」状況にしかならない。


もっと、大きなくくりで「ミッション」を定めないといけません。

たとえばゲーム作成なら「ゲーム内のボスの動きをすべて担当」とかをミッションとする。


もう少し細かく言えば、最初のボスは仮の動きをいつまでに、次のボスはいつまでに…全部仮の動きができたら、ブラッシュアップをいつまでに…と、仕事内容を「契約前に」決めておく。

その上で、年棒額も提示して、折り合えば契約とする。


これなら、自分の裁量で働けます。

仕事が思ったよりきつくて残業続きになっても、それは自分が最初に契約したのだから仕方がない。


逆に、頑張って予定を前倒しにしたら、仕事を休んで遊びに行ったってかまわない。

年棒になって就業時間は関係ないのだから、昼過ぎで仕事を終わりにしてコンサートに行ってもいい。



本来、「裁量労働制」ってそういうことのように思います。

会社が一方的に残業代カットの道具に使うのはおかしい。


…のだけど、上に書いたように「折り合えば契約」が前提とすると、残業代カットにしかならない契約を呑んでしまった側にも問題がありますね。

労働者側がちゃんと勉強していれば防げることでもあります。



ここら辺、以前に詳しく書いたことがあるので、興味ある方はそちらの記事をお読みください。




昨年の夏から、東京都は通勤ラッシュ時の混雑を緩和しようと、「時差Biz」という取り組みを始めています。

通勤時間をずらすことで快適に働けるようにする、働き方改革の試み。…だそうです。


一応、東京オリンピックの際に外国人観光客が増えて公共交通機関が混雑するだろう、ということも見据えての取り組みなのだけど、これって結局通勤して、決められた時間は働くことが前提。


同時に「テレワーク・デイ」という取り組みも始まっています。

でも、こちらも昨年時点では取り組みが低調でした。


低調な理由は、技術的に「家で働ける」としても、本当に仕事しているのか誰がチェックするのか…なんてところでもめているから。

就労時間で縛ろう、という発想が抜けていません。


こちらに関しても、去年書いているので興味ある方はどうぞ。



20年前から、同じところでぐるぐる回っている気がします。

法律では裁量労働を導入しようと頑張り続けているのに、社会全体が就労時間で縛ろうという体勢から抜け出せません。



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