以前に、ST-V のテコ入れ策の話を書きました。
ST-V は、サターン互換で安く作られた基盤で、カートリッジ交換で簡単に別のゲームにできる、という特徴を持っていました。
基盤販売の際にも、「今後もカートリッジが供給される」という約束で売っていました。
しかし、ST-Vはサターン互換であるがゆえにゲームセンター用基板としては性能が低く、その性能の低さをカバーするために余計な労力をかける必要がありました。
さらに、そうして苦労してゲームを作っても、販売されるゲームカートリッジの単価は低めで割に合わないのです。
このため、ST-V ゲームの供給は先細りでした。
このままでは、「カートリッジが供給される」という約束を守れません。
そこで、サードパーティが作ったサターン向けゲームの人気作を、ST-V に移植してもらうことにしました。
しかし、この戦略もすぐに行き詰ります。
家庭用って、最低でも数千本、という単位で作ります。
そして、それで開発費用が回収できる値段をつけるのです。
だから、ヒットしてそれ以上売れれば、売れた分は丸儲け。
これに対して、ゲームセンター向けって、最低 300本とか、場合によっては 150本とか、そういう単位です。
もちろん単価は高いのですが、家庭用のヒット作を持っているようなメーカーが、労力をかけて移植するようなメリットがないのです。
じゃぁ、メーカーにとってのメリットを作り出せばよい。
サターンの「人気作」を移植してもらうのではなく、「発売前の作品」を移植してもらう戦略に変わりました。
今も昔も、家庭用ゲームの売れ行きは、どれだけ宣伝できたかで決まります。
残念ながら、ゲームの面白さと売れ行きは、あまり関係ないのです。
今なら、宣伝媒体として「試供版を配布する」などの方法があります。
実際に遊んでもらい、面白さを知ってもらうのが一番の宣伝。
しかし、ネット普及前の当時はそれもできませんでした。
そこで、ST-V への移植です。
家庭用ゲームソフトは、1本 6,000円程度します。内容がわからないまま買うには躊躇する金額。
これを、ゲームセンターで1回 100円で遊んでもらえば、宣伝としてはかなり効果があります。
セガは当時 3000店のゲームセンター直営店を持っていましたから、その1割、300枚程度を世に出すことは保証できました。
移植の手間に見合うほどの売り上げかどうかは微妙なところですが、これが宣伝になって家庭用が売れてくれれば、十分採算に合います。
多分、レイディアントシルバーガンがこの最初の例ですが…あまりうまくいったようにも思いません。
せっかく人気があったのに、なぜか家庭用の販売枚数が低く抑えられてしまったから。
でも、エランドールもこれに続く例として、サターン向けに作っていたゲームを、ST-V に移植して先行販売したのです。
サターン版は、年が明けた 1999年の1月発売。
ST-V 版は、たしか 1998年の初冬ごろだったと思います。
これがね… 見たことある人どれくらいいるんだろう?
見ていたらレア。内容覚えていれば、珍しいものを見たと自慢できます。
すごい出来のゲームなんです。悪い意味でですが。
なんでも大会を行うことで有名なゲームセンター「ミカド」で、エランドール大会を行った時の動画が配信されてました。
実況付きですが…ひどいな。「ゲームが破綻している」とか「素人が作った格闘」とか言われてる。
まぁ、否定できません。作った人見てたら申し訳ないけど。
ポリゴン格闘です。
竜に乗って空を飛んで戦います。
しかし、竜に乗っている意味が感じられない… 3Dの意味が感じられない…
一応、とってつけたような3D感、竜に乗っている感じはあるのですが、それがゲームの戦略に結び付いていない…
ちなみに、バーチャファイター3が 1996年、鉄拳3が 1997年のゲームです。
そして、1998年に発売されたのがエランドール。
性能の低い ST-V だから…とかいう話以前に、システム面などで、発売時点で「古臭い」ゲームでした。
これ本当に発売するんですか? …みたいな、失礼なことを営業の人に言ったと思います。
営業の人が見つけて、移植も頼んできたゲームだから。
営業の人としては、それに答えず(?)、「いやー、このゲーム、事実上一人で作ってるんですよ」って、完成度が低いことの言い訳を始めました。
その場での話だけなので詳細はわからないのですが、プログラマーが一人で頑張って、長い期間をかけて完成したゲームなんだそうです。
サターン発売のかなり初期段階から開発してきたのだとか…
発売「前」だったのか、「直後」だったのかは忘れましたが、その段階からの開発ということは、まだ SGL はなかった、ということ。
3D計算をして、ポリゴンを表示し、モーションをつけてアニメーションするライブラリから自作し、格闘ゲームの体裁まで作り上げた、ということ。
サターン初期のころから開発してきた、ということであれば、ゲーム内容の「古臭さ」も納得できます。
「ポリゴン格闘」というジャンルが形成されつつあるころ、ポリゴンを使いながらも事実上は2D格闘、というゲームもいくつも作られました。
そうしたゲームの一つなのです。ただ、発売が3~4年遅かっただけで。
ほとんど知られていないゲームですが、そのマイナーさが却って物好きの心をくすぐるようです。
先に書いたように、ミカドでも大会が行われたりしてますし、このゲームについて書かれたページも結構あります。
多くは、ネタとして「ひどいゲーム」だという話で書かれていますが、冷静に良いところを書いているページもあります。
せっかくなので、そうしたページをいくつかリンクしておきましょう。
・その1
多分、一番「ほめて」いるページです。
ほめているというか、馬鹿にせずに真面目に攻略記事を書いている。
それでも、全体に「ダメゲーム」だという空気感で書かれているのですが…
・その2
いかにダメなゲームであるかを伝えている感じですが、記事としては冷静です。
残念であることを含め、当時の雰囲気がよくわかるというか。
・その3
画像をたくさん入れています。
…この画像、綺麗だな。記事の中でも、画面だけは綺麗だ、という扱いになっています。
実際動いているところ見ると、モーションがくがくだし、とても綺麗だとは思えないのですが。
これらの記事を読むと大体わかりますが、「プログラムの出来はともかくとして、格闘ゲームとしてつまらない」という評価ですね。
どのキャラクター使っても、ほぼ同じ操作で同じような技が出るだけで、性能の違いがあまり感じられないし。
当たり判定はやたら大きく、ガードも回避も不可能な技が多いし。
で、最後に疑問なのですが、これ、ST-V で先行発売して、宣伝効果あったのでしょうか…?
ゲームセンターで遊んだ人が「面白かった」と思える内容なら宣伝になるでしょうが、「つまらない」と思わせてしまう内容だと、逆効果なのでは…
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