今日は、コンラッド・ツーゼの誕生日(1910)。
いつかは取り上げたいと思いつつ、いまだに取り上げていなかった人の一人です。
コンピューターは主にアメリカで発展してきているのですが、彼はドイツ人。
そして、アメリカのコンピューター史とは独立してコンピューターを作成しています。
ツーゼは、自分の名前(Zuse)の頭文字を取った、Z シリーズ計算機を作っています。
ただし、いずれも「電気計算機」ではありますが、「電子計算機」ではありません。
Z1 の完成は1938年。
22bit 浮動小数点の計算機でしたが、完成したものの部品精度の問題で動作が不安定で、実用に至りませんでした。
機械式で動作し、駆動力に電気を使用しています。
パンチテープにより計算手順をプログラム可能でしたが、条件判断などがないため、現代的な意味でのプログラムが組めるわけではありません。
機械式ではありますが歯車式ではなく、2進数を使用しています。
そして、2進数を使用した世界初のコンピューターと一部の人たちが主張する ABC マシンの完成は1942年。
完成と言いつつ、Z1 も ABC も実用にならなかった(つまり未完成で終わった)のですが、このことをもって Z1が世界初のコンピューターだと主張する人もいます。
ちなみに、僕はプログラム内蔵型の電子計算機でないとコンピュータとは呼べない、と考えているので、私見ではこれは世界初のコンピューターではありません。
Z2 は1939年。Z1 より単純化して安定動作を目指しました。16bit の固定小数点演算を行います。
リレー式回路で、機械式のような精度問題は生じず、正しく動作しました。
Z3 は1941年。Z2 の成功を元に、リレー回路で Z1 に再挑戦したものです。
22bit の浮動小数点で、プログラムには相変わらず分岐は無いものの「条件実行」が可能になりました。
後にこの「条件実行」文によってチューリング完全であることが証明され、「工夫すれば」現代のコンピューターと同等のプログラムが組める、と判りました。
そのため、ENIAC (1946)以前の、世界初のコンピューターだと主張する人もいます。
しかし、僕はプログラム内蔵型の電子計算機でないとコンピュータとは呼べない、と考えているので(以下略)。
この後、1943年にベルリン空襲があり、Z1~Z3 は破壊されます。
ツーゼは Z4 を作成中でしたが、設計図を持って避難します。
Z4 は1945年。
32bit の浮動小数点に拡張され、命令も単純な四則演算だけではなく、各種関数が使えるようになっています。
分岐命令が追加されたのは特筆すべきことでしょう。これにより、プログラムの幅がずっと広がりました。
プログラムは相変わらずパンチテープですが、出力はタイプライターでの印字が可能になっています。
Z4 もまだ、ENIAC 以前に作られたものです。
ENIAC は歯車計算機を模して10進演算で、プログラムを配線によって行っていました。
Z4では2進数で、パンチカードでプログラムが可能です。
これらの特徴だけ見ると、ENIAC より Z4の方が、ずっと近代的なコンピューターに見えます。
そのため、Z4が世界初のコンピューターだと主張する人もいます。
しかし、僕はプログラム内蔵型の(以下略)。
この後も、Z5、Z11、Z12…と、ツーゼのコンピューター作成は続きますが、とくに有名なのは Z4 までです。
というのも、1980年代になり、コンピューターが普及してから「ENIAC以前に孤独にコンピューターを作成したドイツ人技師がいた」という美談が広まったため。
ENIAC以前だった、という限定が付かないと面白くないため、有名なのは Z4 までなのです。
そして、「コンピューターだった」と強調されたため、完成しなかった、ただの計算機である Z1 すらもコンピューターだったと主張する人が多いのは先に書いた通り。
ツーゼは、土木設計技師でした。
土木設計では強度計算などで非常に複雑な計算が必要で、彼はそのために計算機を作成しようとしました。
真空管を使えば高速化できる、ということを示唆した友人もいたようですが、当時の真空管はとても高価で、自費で計算機を作成していた彼は「現実的でない」とリレー機械式を貫き通しました。
そのため戦後ヨーロッパでは Z4 は量産され、普及しています。
僕は再三書いた通り、Z1~Z4 はコンピューターとは言えない、と考えています。
しかし、戦時中で他のコンピューター学者との交流がなかったために、大変独創的な仕組みを作り、動作させていることは称賛に値します。
また、プログラム可能な計算機…現代的なものではないにせよ「コンピューター」として最初に普及したのは Z4 である、というのは紛れもない事実なのです。
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