2016年01月19日の日記です


マーシャル・カーク・マキュージック 誕生日(1954)  2016-01-19 11:27:39  コンピュータ 今日は何の日
マーシャル・カーク・マキュージック 誕生日(1954)

今日は、マーシャル・カーク・マキュージック (Marshall Kirk McKusick) の誕生日(1954)


といっても、この人のこと、僕はあまり知りません。

ネットで探してみても、Wikipedia で書いてある内容がほぼすべて。


本人のページもありますが、こちらは大学で彼が持っている講義の案内や、趣味のワインの話などが中心。




さて、マーシャル・カーク・マキュージック…以下「カーク」と呼びますが、彼はBSD初期のプログラマの一人です。


彼はビル・ジョイと一緒に、初期BSDを作り上げ、その後も関わり続けています。


特に、BSD初期に使われていたファイルシステム FFS (Barkeley Fast File System) は彼の作品です。

また、FreeBSD で使われていた UFS2 も彼の作品です。(FFS を改良したもの)

さらに、UFS2 を「急に電源が落ちてもファイルシステムが壊れないようにする」改良(soft updates と呼ばれます)も行っています。



余談になりますが、UFS とは「Unix File System」のことです。

ユニックスで使われるファイルシステム、という意味の言葉なのですが、実際に UFS と名付けられたシステムは存在しません。


UNIX にはいろいろなファイルシステムがありますが、全部を総称して UFS 、と呼ぶこともあります。


初期の UNIX では、ファイルシステムは、単に FS と呼ばれていました。

しかし、本家 UNIX の FS なのだからと、これを UFS とする一派もいます。


しかし、一番多いのは、FS を改良した FFS …カークの作ったものを UFS とする場合です。

UNIX の普及期において、BSD の存在が大きかったためです。


カークは先に書いた通り、 UFS2 を作っています。

BSD ユーザーの間では、UFS と言えば UFS2 のことです。



ところで、Linux は MINIX のファイルシステムである ext を改良した、ext2 を初期に使っていました。

この ext2 は、FFS を参考に ext を改良したものです。


ext2 はその後も改良が続けられ、ext4 として近年まで使われていました。

なので、Linux ユーザーであってもカークと無縁ではありません。




しかし、カークの一番有名な業績は、「BSDデーモン」というかわいいマスコットキャラクターを作り上げたことではないかと思います。

(この日記冒頭の画像。クリックで拡大します。)


BSD なんて興味ない、という人でも、一度くらいはこのキャラを見たことがあるのでは?

このキャラクターは、現在も彼が著作権を保有していますが、「著作権を有している」と主張する以上の権利行使をする気はないようです。



すぐ後に追記


キャラクター自体は徐々に作られていったもので、彼が作ったものではない、という指摘をいただきました。

誤った情報を公開したことをお詫びするとともに、追跡調査をいたしました。



先に、カーク自身のページがあると書いたのですが、その中に詳細を記したページがありました。


これによれば、最初に描かれたのは、BSD のバージョンが 4.2 だった時に発行されたマニュアルの表紙だったそうです。



基本的に、UNIX のマニュアルはオンラインの man コマンドで提供されます。


しかし、本の形で情報がまとまっているほうが読みやすいです。

今でも詳細を書いたマニュアルを発行する会社は存在していますし、4.2 BSD マニュアルもそうした本でした。


4.2 BSD マニュアルを発行したのは、USENIX。

UNIX ユーザー・研究者の団体です。



1984年に、USENIXがマニュアルを発行し、注文を受け付けた際のメールが残っていました


この最後の部分で、マニュアルのレイアウト作業を手伝ってくれた人への感謝が述べられています。

そして、協力者の中に「ルーカスフィルム」が入っていて、カバーデザインは「ルーカスフィルムの、ジョン・ラセターが行った」と書かれています。


…僕も、ジョン・ラセターが BSD デーモンを描いた、という話を聞いたことはあったのですが、綺麗に描き直しただけだと思っていました。


どうやら、原画から彼のものだったようです。


ただし、この時点では BSD デーモンは白黒でした。

1989年の冬、カンザス州立大学の UNIX 好きのグループが、おそろいのTシャツを作ろうとしました。


このときに、マニュアルの表紙の白黒デザインに色を付けています。

また、白黒デザインでは素足だったのが、スニーカーを履くようになっています。




BSD の新しいバージョン、4.3 BSD が作られ、「4.3 BSD UNIX OS の設計と実装」という本が出版されました。

複数著者による本ですが、カークも著者の一人に名を連ねています。


この際に、スニーカーを履いたカラーバージョンのデーモンを元に、再びラセターが表紙の絵を描いています。


詳細はわからないのですが、どうやらこのときに表紙の絵を依頼したのがカークのようです。

そして、この絵はカークの著作物となり、現在も著作権を保持している、ということのようです。


#著作権は、著作を行ったものに自動的に発生する権利で、譲渡することはできません。

 しかし、依頼されて著作を行った際、原著作者の同意の元、依頼者が著作権の行使権利を留保することが可能です。



Wikipedia のカークの項目に「BSD デーモンの公式キャラクター画像の著作権を保有」と書かれていたのを見て、彼が作ったものだと僕が早合点した、というのが今回の誤りの原因でした。




ところで、カーク自身は USENIX の会長を務めたこともあります。

1990~92年と、2002~04年に会長職にありました。


4.3 BSD はラセターが描いた、と彼のページに明記していますが、4.2 BSD については誰が描いたのか触れていません。


4.2 BSD のために絵が描かれたのは 1984年で、その時点ではカークは USENIX の役員ではなかったようです。

そのため、誰が描いたのか確信が持てなかったのかもしれません。


先にリンクしたメールによれば、4.2 BSD もラセターが描いたことになっています。




なんで、ルーカスフィルムのラセターが、BSD のマニュアルの表紙なんて描いているんだ?


という疑問もあるかと思います。


ネットで情報を探しても見当たらないので記憶の話になるのですが、間違った記述をしたお詫びもかねて書いておきましょう。

(記憶で書くので、これがまた間違えているかもしれませんが…)



以前に書いた話なのですが、ルーカスはスターウォーズの特殊効果を作り出すために、コンピューターを作っていました


コンピューターというより、今でいうグラフィックボード、フレームバッファですけどね。

この機械の名前が Pixer 1 。後の「ピクサー社」の由来です。


当初は、複数のフィルム画像を取り込み、美しく合成する、という用途で使われていました。


しかしやがてコンピュータープログラムで3D計算を行い、アニメを作り始めます。実験的なものでしたが。


1984年には、その第1作目、「アンドレとウォーリーB.の冒険」が公開されています。

実験的なものなので、劇場公開とかではなくて、CG学会での上映ね。


このときの監督が、ジョン・ラセター。

そして、3Dの計算などは Cray X-MP と VAX11 でやった、と作品の最後に出てきます。




使用「機材」は書かれていても、OS まではわかりません。

しかし、Cray X-MP は Cray 版の UNIX で動きます。


VAX11 のほうは、「PROJECT ATHENA に 10台借りた」と書かれています。

これ、分散コンピューティングの初期の例です。


1983年に始まっているのですが、UNIX を使っていたことがわかっています。

Cray も VAX11 も UNIX を使っていて、接続して作業分担したのかな、と思います。



しかし、VAX11 用の UNIX は、正式には 1984年リリース。

PROJECT ATHENA には VAX11 製造元の DEC も参加していたので、リリース前のバージョンを使えたのでしょう。


しかし、リリース前となると、マニュアルもまだ整っていなかったと思われます。


…いや、大丈夫。VAX11 の UNIX は 4.2 BSD ベースでした。

4.2 BSD のマニュアルがあれば、大体使えます。


そして、この頃 USENIX は、BSD のマニュアル本の出版のために準備をしていたはずです。

まだ出版前だけど、4.2 BSD のマニュアルはすでに存在しているわけです。



ここらへんに、ルーカスフィルム、ジョン・ラセター、USENIX 、4.2 BSD マニュアルのつながりがありそうです。


以下は推測ですが、ルーカスフィルムの技術陣が、マニュアルが必要で USENIX に草稿段階のものを見せてもらったのではないでしょうか。


そして、草稿を読みながら、わかりにくい点などをどんどん質問します。

もっとこう書いたほうがわかりやすいのでは? というような意見も出します。


これが反映される形でレイアウトや記述内容などが見直され、協力者に「ルーカスフィルム」の名前が入ります。

そして、ついでに表紙の絵をラセターが描いた、というわけです。




追記のほうが長くなりました (^^;


しかし、世の中狭いな、という感想。

アンドレとウォーリーBは、以前に見ていて「VAX11 と Cray XP 使ったって書いてある」ことが心に残ってました。


#そういう、古いコンピューター大好きですからね。


以前に Pixar 1 の話書いたときも、別にこんな話を展開しようとは思っていなかった。


でも、思わぬところで話がつながりました。




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