今日は、ルビク・エルネー(Rubik Ernő)の誕生日(1944)
ハンガリー語の名前よりも、英語表記の「エルノー・ルービック」のほうがわかりやすいかもしれません。
ルービック・キューブの発明者です。
彼は、彫刻家で建築家。
立体造形の専門家、と言ったほうが良いでしょうか。
大学で、立体造形の面白さを学生に伝えるべく教鞭をとっていました。
1974年、彼は、部品が固定されているわけではなく自由に可動し、しかし全体としての構造は決して壊れない、という不思議な造形を作り出します。
全体としては立方体で、1つの面が縦横3つに分かれた9分割になっています。
彼はこれを「マジックキューブ」と名付け、学生に披露します。
多くの学生が、この不思議な造形に深い関心を示しました。
そこで彼は、この構造の特許を取り、プラスチックで大量生産できる形状に改良して、大量生産を試みます。
ところで、当時のハンガリーは共産主義の国です。
共産主義では、すべての経済は国によって統制されます。
どこの工場で、何をどれだけ生産するか、それをどれだけの価格で売り出すか、などは国が決めます。
ルービックは、国の計画にはない「新しいおもちゃ」を製造しようとしたわけで、なかなか協力してくれる工場は見つかりませんでした。
ただ、共産主義と言っても国ごとに体制はまちまちで、ハンガリーは比較的「管理の緩い」国でした。
全ての生産活動が国有なわけではなく、わずかとはいえ民間企業もありました。
ルービックも、最終的には製造工場を見つけ、1977年に「マジックキューブ」を発売しています。
以前書きましたが、共産主義国のソ連で生まれた「テトリス」が最初に市販されたのも、ハンガリーでした。
共産主義国でありながらソ連からの圧力に反発し、最終的にベルリンの壁の撤去や、ソ連崩壊を招いたのも、ハンガリーです。
1979年、マジックキューブが、ドイツのニュルンベルグで行われた、玩具展示会に出品されます。
ここでの展示は好評で、続けてロンドン・パリ・ニューヨークの展示会にも出品されます。
ここで、アメリカのおもちゃ会社が販売ライセンスを得ます。
この際に、「マジックキューブ」という凡庸な名前を変更しようと考えました。
複雑すぎて誰も解けない、という「ゴルディアスの結び目」や、貴重で高価な細工物を意味する「インカの黄金」など、いくつかの名称案があったと言います。
しかし、最終的には発明者の名前を冠した「ルービック・キューブ」となりました。
アメリカでの発売は 1980年5月。
日本でも7月には発売され、入手できないほどの大ブームを起こします。
日本発売以降は、知っている人が多いと思うので説明するまでもないでしょう。
以下は個人的な思い出。
入手困難なほど売れたので、偽物が出回りました。うちにあったのも偽物。
Wikipedia によれば「2月には海賊版が出回る」となっているのですが、購入したのは1月です。
祖父の急死で母の実家に行き、1月だったので集まった親戚からずいぶんお年玉をもらいました。
その帰りに駅ビルのおもちゃ屋で兄が見つけて購入したので、1月で間違いありません
その時点では、「偽物が出回っている」なんて知りませんでした。本物のつもりで買ったのです。
しばらく後に、20円のガチャガチャで、「6面完成法」を書いた小さな紙を売っていました。
あたりだと、20円ガチャのカプセルに入るサイズに小さく作った偽物のルービックキューブが入っているのだけど、この「完成法」も十分なあたりだった。
だって、家に誰も完成できないキューブ(偽物)が転がっているんだから。
#この紙、ある程度後期のルービックキューブ(公式)に付属していたものを、丸パクリして小さく印刷しただけのものだったらしい。
著作権も何もあったもんじゃない、1980年代の話。
ルービックキューブに刺激され、立体パズルゲームが起きました。
うちの家族が面白がって買ってきたので、今でもいろいろ残っています。
3×3ではなく、2×2の構造のものを見つけ購入しました。
…が、これ、「真ん中の列がない」と考えると、ルービックキューブと同じアルゴリズムで解けてしまう。
4×4も、5×5もでました。
でも、これらもちょっと工夫すると、通常のルービックキューブと同じ状況に落とし込めるのですね。
結局、3×3は、シンプルでありながら十分複雑な構造を作っていたと判ります。
同じルービックさんの作品としては、ルービックスネークというのもありました。
正方形を分割した三角柱を回転する関節で繋いだ構造で、正解のある「パズル」ではなく、自由な形状を作って遊びます。
ルービックさんの意図としては、キューブも「いじっているだけで面白い構造」だったのですが、すでに完成させるパズルとしてヒットしています。
それに対し、スネークは正解がなかったため、あまり売れなかったように思います。
あと、ルービックマジック。
板が自由にパタパタと動くパズルなのだけど、発売されたころにはパズルブームも去っていたし、構造的にも子供が紙で作る工作に似ていた。
(子供の紙工作よりも自由度がずっと高いのだけど)
なので、これは僕は遊んでません。
現在は、6面完成にかかった時間を競う「スピードキューブ」という公式競技があります。
昔から速度競技はあったのだけど、今は電子的に時間を計測するので、1/1000 秒レベルで競われます。
…この計測機器、カップスタッキング用に開発された奴だよね、って以前から思ってました。
日本ではカップスタッキングがマイナーなので、すっかりスピードキューブ用の機器だと思われている気がする。
…いや、スピードキューブもマイナーか。
単に工夫したタイマーなので、真似したというより「使えるものだから使った」だけだと思うけど。
同時期に流行した他社製品。
「立体パズルが流行」ということで、工夫を凝らしたものがいろいろ発売されました。
結構類似アイディア多数だったのが、円筒形の上にスライドパズル(いわゆる15パズル)を作ったもの。
ピースは自由には動かず、円筒の長辺方向に動きます。
そして、分割された円筒を回転させることで、周方向にも動かせます。
…やってみるとわかるけど、結局スライドパズルです。
スライドパズルはもともと好きなので、見た目が変わっただけであまり面白いとは思わなかった。
立体でパズルなんだから、と、単に知恵の輪のリバイバルもあったように思います。
今でも売っている「キャストパズル」とか、いったんはこの頃に出てきたのではなかったかな。
(後に再ブームを起こしますが)
任天堂の「テンビリオン」。
これは、ヒットしました。ポストルービックキューブとしては本命だったのではないかと思います。
うちにもなぜか2個ありました。兄弟が多いので、「おもしろそう」で買ってきたのが重複したらしい。
これも、上に書いたような「円筒形スライドパズル」なのですが、一ひねりしています。
なので、あまりスライドパズルという感じはありません。
難易度は「スライドパズルだ」と気づけば難しくありませんが、ひねってあるので気付くまでは難しいです。
この絶妙の難易度が受けて、特にドイツで大ヒットだったそうです。
話はどんどん逸れますよ。
以下はルービックさんの話ではなく、ほとんど雑談。
ルービック・キューブの特許取得は 1975年。
でも、発売は 1977年だし、日本で知られるようになったのは 1980年。
これに対して、日本でも 1976年に同様のおもちゃを考案し、特許を出願している人がいます。
上のリンクを見ると、出願が昭和 51年 = 1976年 とわかります。
公開番号、広告番号のリンクで、特許の概要もわかります。
今では、特許は「公知になっていない技術」にしか与えられません。
しかし、1976年当時では、外国の特許がある(つまり、技術が公知になっている)としても、十分に調査する技術もなく、また法律もそこまで求めていなかったため、特許が成立してしまうのです。
でも、公文書だからこそ、ルービック・キューブのほうが申請が速いとわかります。
そんなわけで、「大ヒットおもちゃを考案していたけど、わずかな時間差で泣いた人」として、この人がテレビ番組に出ていました。
たしか、「小川宏のなんでもカンでも!」という番組だったと思う。
そこで作成した実物も持ってきていたのですが…
発想としては同じなのですが、少し大きくて扱いづらそうなのと、6面に絵を貼っていて「絵合わせパズル」にしてしまっているのですね。
ルービックキューブの各面が「色」だけになっているのには意味があって、絵にすると理不尽な難易度になってしまうのです。
ピースの位置が正しかったとしても、中央のピースが「回転」してしまい、この制御がややこしいのですね。
#ルービックキューブの中央ピースに自分で印をつけて、その回転方向も正確に合わせる…という、あえて難易度を上げた遊びもあるそうです。
なので、ゲームとしてのルービック・キューブは本当によくできていたと思うのです。
ところで、ハンガリーの特許が先に成立していたとしても、国内は国内で特許が成立しています。
そして、特許は国ごとの決まりですから、成立した以上、この特許は有効です。
番組的には「わずかな時間差で泣いた」ことになっていたのですが、今の知識で考えると、それだけではなさそうです。
特許というのは、「見た目」ではなく「技術」に与えられるものです。
#見た目であれば意匠登録とかしないといけない
そして、この特許をよく読むと「球にビスで留める」という構造(技術)を、特許要件にしているのです。
ルービック・キューブを分解してみたことがある人ならわかりますが、中に球なんて入っていません。
なので、ルービック・キューブは、そもそもこの特許に抵触していません。
…書きすぎ特許ですね。
発明者が直接特許を書くと、構造を説明しようとして詳細に書きすぎてしまうことがあります。
その場合、構造を少し変えてやると、特許に抵触しなくなるのです。
#曲がるストローの話とか有名。
蛇腹部分を「六角形に作る」と書いてしまったが、これは使いやすくするために、繊細な加工を工夫した部分だった。
後から出てきた類似商品はそうした繊細加工が無く、みんな丸だったので使いにくいが、特許に抵触しなかった。
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