2019年01月22日の日記です


SEGA TETRIS  2019-01-22 13:44:50  業界記

昨年末に「辞める前に作っていたゲーム」の話も書いたはずなのだけど、大事なのを忘れてました。


SEGA TETRIS。ドリームキャストと互換の、NAOMI 基板で作られたゲームです。

僕は直接かかわっていないのだけど、コラムス 97 の企画者が作っていたので、いろいろと相談に乗っていました。





そもそも、なぜ 1998 年ごろに、「いまさら」テトリスだったのか?


日本でのテトリスブームは、1988年ごろ。

最初に発売されたのは BPS 社から発売された PC 用で、ヒットはしましたが「大ブーム」というほどではありませんでした。


大ブームになったのは、夏ごろにセガから業務用が発売になってから。

その後、BPS から PC の移植であるファミコン版が発売され、ブームが確定的になります。



でも、実は最初の PC 版以外は、全部「海賊版」の扱い。

あまりにも単純なゲームで作りやすかったこともありますが、原作者のいたソ連の著作権管理が甘かったせいもあり、ライセンスがおかしな状態になっていたのです。



セガは、これに気付いてあとから業務用のライセンス料は払いましたが、作成していたメガドライブ移植版は発売中止に。


さらに、業務用の「続編」は作りますが、これには TETRIS の名前を冠していません。(BLOXEED、FLASH POINT)

「類似ルールの別ゲーム」という、まさに海賊版です。




テトリスは、ソ連のコンピュータープログラマーである、アレクセイ・パジトノフが趣味で作ったものです。

当時共産主義であったソ連では、何を生産するにも「国の計画」に基づいて作られ、国有の共有財産として管理されます。


しかし、趣味で作ったものだからこそ、その管理からもれました。

そして、無料で公開されたテトリスは、あっという間に世界中にコピーされます。


すべてが共有財産であるソ連では、こうしたソフトの著作権もあいまいでした。

世界中に広まってから「外貨獲得手段になる」と気づき、後追いでライセンスなどを承認したのですが、そこでも紆余曲折あります。


セガの業務用や、BPS のファミコン版が「海賊版」の扱いになってしまったのも、これが原因。

当人たちはちゃんとライセンスを得たつもりだったのが、得られていなかったのです。



ここら辺の長い紆余曲折は、非常に面白い、壮大なドラマです。

過去に書いていますので、興味がある方はそちらもお読みください




最終的に、1995年ごろに、テトリスの権利は原作者である、アレクセイ・パジトノフの手に戻っています。

そして、96年ごろから「テトリスのライセンス事業」で、複数の会社から、テトリスが発売され始めます。


今度こそ、正式にライセンスされた「テトリス」を作れるチャンスです。

セガでも業務用テトリスを作ろう。そういう決定がなされ、「じゃ、作ってね」と任されたのは、「コラムス 97」を作った企画者でした。



この時、内製するにはプログラマーなどの人数が足りなかったため、「テトリスくらい、外注でも作れるだろう」と、作成は別の会社に任せることになりました。


ところが、コラムス 97の企画者は、「プログラマーと密接に相談しながら企画を作っていく」タイプの人なのね。


外注会社を決めるには、先にある程度企画書を定めないといけません。

そこで、コラムス 97 のプログラマーだった僕が相談に乗って、いろいろと初期の企画を作り始めたのです。




まず最初に行ったのは、テトリスの版権管理団体である「ザ・テトリス・カンパニー」に文句を言うこと。


ライセンス供与する際の、守るべき仕様があるのですが、この仕様が全然ダメ。

そのまま作ったらとてもゲームにならない、という代物だったのです。


というのも、ザ・テトリス・カンパニーの実態は、BPS と考えてよいため。

PC 版のルールを元に仕様を組み立てているのです。




ここで、PC 版とセガの業務用が、全然違うルールであることを説明しないといけませんね。


原作となるテトリスは「上から落ちてくるブロックを、空中での左右移動と回転を行いながら、うまく積んでいくゲーム」でした。


「うまく」というのは、横一直線がブロックで埋まることを意味します。

この時、並んだブロックは消え、それより上のブロックは下に落ちるため、うまく消し続ければブロックの量が増えません。


逆に、うまく消すことができず、ブロックが上まで積みあがるとゲームオーバーです。



PC 版では、基本的にこの原作に忠実に作られていました。

ただし、パズルとしての側面をより明確にするため、一定のライン数を消したら「面クリア」とし、面の最初には適当なブロックが積みあがっている状態で始まったりもしました。



これに対し、業務用は別のアプローチをとっています。

パズルとしての側面よりも「ブロックが落ちるまでに考えなくてはならない」というアクション性を重視したのです。


ブロックの落下速度は、原作でもだんだん速くなります。

しかし、業務用では、空中での操作が不可能になるほど早く落ちるようにしました。


その代わりに、接地してからもしばらくは操作可能としていました。

「空中で操作する」ゲームから、「積みあがったブロックの上で、操作するブロックを転がす」ゲームに変えたのです。




この変更により、回転方法が全く違うものに変わっています。


まず、原作では「回転」の名前にふさわしく、ブロックを回転させる際の中心軸があります。

中心軸となるブロックが動かない形で、周辺のブロックが「回転する」のです。


この結果、回転した結果、元の状態よりも下側にブロックが出現することがあります。


先に書いたようにセガの業務用では、落下速度を速くして、その代わりに接地後も操作可能としています。

この時、下側にブロックがはみ出るような回転方法では、「接地後は回転操作ができない」ことになってしまうのです。


そこで、セガ版では、「ブロックの一番下のラインが変化しないように回転する」ようになっていました。

回転軸は持たず、基準ラインを持つようにしたのです。




しかし、テトリスカンパニーの定めた「テトリスの仕様」では、回転方法は原作・PC 版にそろえることが義務付けられていたのです。


企画者の最初の仕事は「そんな仕様ではゲームが作れない」と文句を言うことでした。

慣れない英語で、なぜゲームが作れないのかを分かってもらうために、細かな説明をする手紙を書きます。


当時はまだ今ほど電子メールも普及しておらず、海外とのエアメールでした。


最初の反応は、「回転方法の仕様変更は許されない。代わりにこれではどうか?」と、回転時にブロックにぶつかる場合は、ぶつからずに回転する位置までブロックが上に持ち上げられる…という仕様の提案でした。


これ、直線ブロックを縦にして、左右どちらかの壁に押し当てて回転させるだけで破綻します。

どんなに上に持ち上げようとも絶対に回転できませんから。


その指摘をすると、「じゃぁ、持ち上げられるブロック数を制限して、その範囲内に見つからなければ回転できないというのはどうだろう?」


これでも駄目です。持ち上がってしまった時点で「接地」ではなくなるため、さらに回転させると再び落下が始まります。

接地してから一定時間は操作可能、という仕様に対して、何度でも「再接地」できてしまうため、永久に操作可能になります。


また、階段状にブロックを積み上げておくと、回転させながらその階段を駆け上れます。

これもまた、「落下するまで」という時間制限が重要なゲームとしては、致命的な欠陥を生み出します。


テトリスカンパニーの提案する仕様には欠陥がある、ということを、また詳細に説明した手紙を書きます。



他にもいろいろな問題がありました。


とにかく、PC 版準拠で作られていたため、「ブロックを速く落とす」ことができませんでした。

ブロックを落とすときは、下方向レバーを入れた時点で、瞬時に接地します。


ブロックの色も PC 準拠で決められていました。

しかし、この色はセガが過去に作り、多くの人が知っている「業務用」と異なるのです。


これらの仕様についても、過去の業務用に準拠させてもらえるように、粘り強く交渉しました。



何度手紙を往復させたでしょう。

最終的には「わかった、我々の提案する仕様には、まだ欠陥があるのを認める。今回は自由に作っていい」という許可を勝ち取ったのです。


その後、テトリスカンパニーの作る仕様は何度かバージョンアップされ、現在では当時よりも柔軟なルールを作りやすいものに変わっています。





上に書いたような、ルールで悩んでいたのはまだ会社で働いていた頃です。

でも、テトリスの話は、「会社を辞めた後」も続くのです。


辞めた後に企画者から電話がありました。

プログラムの問題で悩んでいるので、アドバイスくれないか、って。


ドリームキャスト版を作成するにあたり、通信対戦に対応しようとしたのだけど、どうしてもデータ転送が間に合わない、というのです。



ドリームキャストは、当時としては珍しい、通信対応のゲーム機でした。

コンピューターを電話線に接続する「モデム」を標準装備しており、電気信号を音に変えて伝達します。


当時は最高速度で 56kbps 。1世代前の安いモデムなら 33.6kbps で、ドリームキャストも安いものを搭載していました。


ところで、モデムの世界では、1byte は 10bit。

8bit の情報の始めと終わりに、 1bit の「同期信号」を入れてあるためです。


このため、33.6kbps は、1秒間に 3360byteを送受信できることになります。



で、企画者の話を聞いてみると「毎フレーム、お互いの盤面の形状を送受信したい」とのこと。


テトリスの盤面は 10x20。ブロックの色が7色と「空白」があるので、1マス 3bit で送るとして、600bit。

600/8 = 75 なので、 1フレームは 75byte あれば送れそうです。


1秒間は 60フレームなので、1秒間のデータ量は 75*60 = 4500byte 。

これに対して、先に書いた通り、送受信できるデータ量は 3360byte。


これでは、どうやっても足りるわけがありません。



…と、電話をしながら計算して見せたら、納得してもらえました。


どうにかする方法ない? というので、「キー操作の情報とか、最低限のものだけ送って、送られた側で情報を再構築するのがいいんじゃないかな」とアドバイスしたように思います。

ただ、そのやり方をすると、お互いの間の通信タイムラグで不具合が出るかもしれないから、そこは何とかする必要があると思う、とも。


その後無事発売されたので、通信はなんとかできたのでしょう。





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