昨日の続きです。
話は僕が入社する前になります。
AM1研が作成した占いゲーム機で、「スターライトフォーチュン」というものがありました。
このゲーム機、占いとしては結構人気が出たそうです。
占いゲーム機って…悪く言えばいい加減なものが多いです。占いなんて、適当に書いたってわかりゃしない…というのはある程度事実だから。
スターライトでは、専門の占い会社の方に頼んで占いのロジックを決めてもらい、その結果文章も大量に用意してもらいました。
占いジャンルも大量、占い結果の文章も大量。さらに、結果文章は画面で表示する「概要」と、印刷してお持ち帰りいただく「詳細」が違います。
占いは文章を楽しむもの、という考えで、友達数人で占っても同じものが絶対に出ないように、と多数の文章が用意されていたのです。
とにかく本格派の占いでした。
これが好評で新たな占いを作ろうとしているところへ、オムロンが「一緒にゲームを作れないか」と話を持ち掛けてきました。
オムロンは昔からスイッチ部品などを作っていましたが、この頃からゲームセンター用のスイッチ類の扱いを始めていました。
詳細は知らないのですが、ゲームセンター向け事業の部署を興したので、スイッチに限らずいろいろやってみようとしていたようです。
オムロンからは、医療機器を作ってきたノウハウもあるので、手相などを取ることができますよ、との話があり、これが「新しい占い」の話と結びついたのです。
とはいえ、僕がプロジェクトに配属された段階で、まだ手相を取る機械も、占いのロジックも、何もありませんでした。
プロジェクトは始まったばかりだったのです。
企画として、スターライトでも企画を行ったB先輩が割り振られました。
B先輩、非常に論理的で、的確なアイディアを次々出す方でした。
スターライトでは、本格派を目指して「神秘的な雰囲気」を前面に押し出しました。
これは雰囲気を出す点では成功だったのですが、ゲームセンターの端に置かれることが多い占い機としては地味すぎて、気づかれにくいものでした。
また、発売後の「反響」として、深刻な人生相談なども寄せられたようです。
それだけ信頼された、というのは嬉しいことではありますが、残念ながらセガはゲーム屋です。人生相談には乗れません。
もっとゲームとして気軽に楽しんでほしいのですが、本格的な雰囲気を出したが故の悩みです。
そこで、手相占いでは明るいポップな雰囲気で、話の種として気軽に楽しんでもらえるものを目指します。
結果的に、これは大成功でした。
全体として、キャラクターはかわいく。
…具体的なキャラデザインは、デザイナーの人に任されました。
こちらも、実は同期の新入社員デザイナーと、先輩デザイナーの2人。企画も合わせて5人の小さなチームでした。
#音楽は、慣例としてゲームが完成に近づいてから人員が割り振られます。
少し赤ちゃんっぽい感じに描いた男の子と女の子をメインキャラに据え、ゲーム内では必要に応じて「筋肉男」「オールドミス」など、極端な性格付けをしたキャラが数人います。
というか、占いゲームで「キャラを立てる」ってこと自体が、当時としてはあまり前例がなかったように思います。
ちなみに、紙切れなどのエラー時には「貧乏神」と呼ばれる謎のキャラが現れます。
ゲームセンターの店員とかでない限り、見たことある人はあまりいないはず。
この貧乏神がふらふらと歩いていくと、歩いた後にお花が咲く。
画面端まで行くと逆端から出てくるのだけど、今度は花に触れると花が散っていく。
…なんて謎の演出なんだ。
この演出はデザイナーの先輩の指示だったように思います。
企画のB先輩は、エラー画面なんてあまり出ないから適当でいいよー、って何も決めなかったのではないかな。
占い監修は、スターライトに引き続き「ディメーレ」という占い会社。
この会社、今では代表者である「ステラ薫子」さんの名前に変わって存続しています。
占い師としては、実際の手相を見ながらでないと文章が書きづらい、というので、AM1研全員の手相がコピー機で取られ、それを見ながら文章を書き、その後で各種手相パターンに応じて分類・修正していく…という作業が行われました。
ゲーム全体の雰囲気に合わせ、明るい口調で言いにくいこともズバズバ言う、というような文体で書かれた文章は、やはりものすごいデータ量でした。
企画課の方で、直接関係なくても手が空いている人はみんな協力して誤字・脱字のチェックを行ったようですが、少しくらい誤字があっても許してあげてください…
しかし、ディメーレの文章は的確で、スターライト・手相、後に作られるもう一つの占いの3部作の評判をいまネットで調べてみても「非常に良く当たっていた」という評価が多いです。
占いのアルゴリズムなどはディメーレがすべて決め、セガとしてはそれをゲーム機の形に組み上げただけ。
良く当たったのであれば、それはステラ薫子さんの力によるものです。
オムロンから手相を実際に取れるハードウェアが送られてきました。
手をカメラで撮影し、生命線・頭脳線・知能線…などの形を分類し、数値化して返してきます。
ただ、このハードの速度が想像以上に遅かった。オムロンの営業氏の最初の約束では15秒程度でとれるはずだったのに、最大1分程度かかるようになっていました。
急遽、この「解析時間」をごまかすための策が練られます。
解析前に、撮影した手の画像を取り出せるようになっていました。
そこで、手の画像を画面に表示し、それをあたかも現在解析しているようなグラフィックを表示します。
…ここら辺、完全に僕のアドリブで作りました。
解析している風の「スキャンライン」を表示したり、エッジ抽出して掌の「線」を際立たせたり。
たしか、まだ稼働している頃にネットで見た感想で、「こんなに荒い画像で手相を検出しているようだが、微妙な手相なんかは潰れてしまうのではないか」とか言っている人もいたように思います。
ご安心ください。あの画像は完全フェイクです。
本当は別ハードウェアの中で時間をかけて丁寧に解析しております。
ところで、ゲーム作っていると、エッジ抽出みたいなグラフィック処理はそれほど使わないものです。
周囲からどうやっているのかと不思議がられましたが、実のところこれもバイト時代にプリンタドライバ書いた延長で、グラフィック処理に興味を持っていたので知っていたという…
バイト時の経験が後々まで役に立ってます。
ある程度完成してきてから、音楽が入れられました。
当時のセガでは、音楽はAM2研にチームがあり、1研や3研はそちらのチームに依頼をしていました。
とはいっても、1研担当と3研担当の人は前もって割り振られていて…事実上、各部署の人材が、2研に置いてある機材を使わせてもらっている、という状態。
まぁ、音楽機材は高価なので部署を超えて共有するのが合理的だったのでしょう。
音楽も、同期の新人が割り振られました。
この占いゲーム、計6人のうち3人が新人と言う、新人だらけプロジェクトでした。
#あとでデザインが3人短期で割り振られるけど、そのうち2人も新人でした。
さて、音楽担当の人なのですが、音楽センスが無茶苦茶良くて、しかも占いでは「好きに作って!」という依頼だったので、のびのびと良い曲を書いてくれました。
最初から「占い結果の概要説明を音声で喋らせる」ことが決定していたため、音楽も CD で演奏することになっていました。
だから、System32 の音源の制約などもなく、本当に自由自在。
これを書く前にネットで評判調べたら、「手相解析中の音楽好きだった」「サントラ出すべきだ」というツイートを見つけました。
3年も前の物だけど、なかなか嬉しいことを言ってくれている。
残念ながらサントラは出ていませんが、効果音以外はほぼ CD からの再生だったので、もし入手できればそのままサントラみたいなものです。
ゲームの性質上、中古基板とかは出回ってないみたいだけど、CD だけどっかにあったりしないもんですかね…
僕は開発時に使っていた CD-R を大切に保管しています。
著作権の問題があるのでとても公開できませんが。
ところで、これもネットで調べたら「解説などの音声は声優の千葉繁さんではないか」と書いている人がいました。
正解です。企画のB先輩がアニメ好きで、「この人しかいない」と決めたものです。
収録時には、本来使う予定ではなかった音声もたくさん取れていました。
NG音声や、その際につい口走ってしまった言葉とか…
音楽担当者が、この本来使うはずではなかった音声をリミックスし、音楽の中で使っていたりします。
データ入力時の音楽で、千葉さんのいろんな声がパーカッションのように使われているのです。
「しじみじゃないんだから」って繰り返す部分があって、どういう文脈で喋ったのだろう?
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