次女が小学校の課題で、「早口言葉教えて」と言ってきた。
長男、長女も国語でやった「言葉遊び」の単元なんだけど、上の子たちはそんなこと聞いてこなかった。
でも、次女の先生は「早口言葉を知っている人がいたら聞いてくるように」と宿題(?)を出したらしい。
当WEBサイトではコンピューターやテレビゲームの話が多いのだけど、僕はゲーム全般が好きだし、ゲームに限らず「遊び」が好きだ。
言葉遊びももちろん好きで、WEBサイト作成初期には「言葉遊び」のコーナーを作ろうと思ったくらいだ。
だけど、言葉遊びって、せいぜいが集めて列記する程度で、それを面白いと感じるかどうかは個人のセンスによるものになってしまう。
それは誰にでもできることで、「僕」がやる必要はない。
やるなら、その言葉遊びがどう面白いのか、どこら辺に鑑賞ポイントがあるのか…など、踏み込んで解説したかった。
ただ何となく面白いと思う、というポエムから、誰もが納得できる科学的解説へ。
それなら、わざわざ書く理由がある。
でも、これも、しばらく考えていたらある程度の「類型」が見えてきた。
つまり、類型ごとに解説したらおしまいになってしまい、わざわざ「コーナー」を設けても、わずかなページ数で終わってしまう。
そんなわけで、言葉遊びコーナーは作らなかった。
さて、そんなわけで、いい機会なので早口言葉をある程度解説しながら書いていこうと思う。
おそらく、中には「著作権のある早口言葉」もあると思うのだけど、僕が記憶している形で書くので、申し訳ないのだけど出典を示せない。
もしご存知の方がいたら指摘してほしい。
まず、前説から。
早口言葉の意義から言えば「言いにくい」ことが大切だとは思う。
だけど、それだけで早口言葉とするのは、僕個人としては好きではない。
言葉遊びなのだから、「遊び」の部分が欲しい。
言いにくいだけでは、活舌をよくするための練習文句なだけで、実用性一辺倒な気がするから。
ただ難しい言い回しを集めただけではなく、全体に文章になっていたり、ストーリー性を感じられるとより良い、と思う。
言いにくい言葉でストーリーを作るなんて言うのは、ある種のダブルミーニングであり、作者のセンスを感じられる。
§破裂音を活かしたもの
口から息を吐きだしながらも、口腔内のどこかで空気をふさぎ、圧が高まったところで開放することで音を出す。
こうして作られる子音を「破裂音」と呼ぶ。
「た」行の子音 t は、舌の先を歯茎に押し当てて空気をふさぐことから「無声歯茎破裂音」と呼ぶ。
「か」行の子音 k は、舌の根本を上あごの喉の付近の柔らかい部分(軟口蓋)に押し当てて空気をふさぐことから「無声軟口蓋破裂音」と呼ぶ。
舌の先と元の部位で、「圧に耐える」程度のしっかりとした力で、似て非なる動きをしないといけないので、交互に並べられると発声が難しい。
ここに「母音」を示すための口の形をコロコロと変えてやると、舌も口の形も忙しいことになり、かなり難度の高い早口言葉になる。
(となりの たけがきに たけ たてかけたのは たけ たてかけたかったから たけ たてかけたのです)
古くから知られる早口なのだけど、長い時代を生き残るだけある傑作だと思う。
竹立てかけた (take tate kake ta) は、子音 t k と母音 a e の組み合わせを変えながら畳みかけるフレーズになっている。
これを中心に文章を組み立てながら、全体として「自分のしたことを言い訳している」ようなストーリーを作り出している。
(かんだかじちょう かどのかんぶつやで かったかちぐり かたくてかめない かえしにいこう)
こちらも同じように、k の音を中心にまとめてある。
でも、t の畳みかけのような「攻撃」はなく、早口言葉としての難易度も低め。
でも、こちらの楽しさは、フレーズのアタマが「か」で揃えられていることだろう。
非常に調子が良くて、言っていて楽しい。
ちなみに、最後を「返しに行こう」で終わらせずに、
「返しに行ったら 勘兵衛のカミさん 帰ってきて カリカリ噛んだら カリカリ噛めた」
というのも聞いたことがある。
勘兵衛って急に登場した人物が何者かわからないし、「カリカリ」に至っては無理やり「か」の多い音を集めただけにも思える。
そんなわけで、後半のこの部分があると、かえって言葉遊びの面白さを失っている気がする。
僕としては、「返しに行こう」で終わるほうが好き。
(となりのきゃくは よくかきくうきゃくだ きゃくがかきくや ひきゃくもかきくう ひきゃくがかきくや きゃくもかきくう きゃくもひきゃくも かきくう きゃくひきゃく)
最初の2フレーズで終わっているのが普通だと思うのだけど、「飛脚」の乱入によって急に難易度が増す。
もっとも、いたずらに引き伸ばしているだけの感じもしなくはない。
早口言葉は「言いにくい」ことが面白いのであって、言えない場合に「長すぎて覚えられない」という別の理由があるのは美しくない。
(とうきょう とっきょ きょかきょく)
これも有名なもの。短いのだけどよくできている。
先に書いた「長すぎて覚えられない」とは言わせない。
それでいて十分言いにくいし、言葉としても非常に自然なものだ。
もっとも、「特許庁」は存在するが「許可局」というものはないし、「東京」のように地域ごとの機関もない。
それでも「ありそう」な言葉だから面白みがあるのだけど。
さらに続けて「局長 今日 急遽 休暇許可 却下」と続けるのを見たことがある。
これもよくできているが、「東京特許~」に関しては、シンプルなのに十分難しいことも評価ポイントだと思うので、個人的には短い方が好き。
(くうきょな きゅうしゅうくうこう きゅうきょく こうきゅう りょかくき)
今から 30年近く前だったと思うのだけど、深夜のラジオ番組で、新作早口言葉を募集したらしい。
毎週リスナーからのハガキが寄せられ、DJが一生懸命早口を読み上げる。
僕はそのラジオ番組を聞いていないのだけど、秀逸な「新作早口言葉」も生まれている、ということが新聞のラジオ・テレビ欄の囲み記事になっていた。
そこで紹介されていたものが、上の早口言葉。
だから、これを考えた人か、ラジオ番組が著作権を持っていると思う。
バックグラウンドまで説明すると、当時は「九州に国際空港を作ろう」という計画があった。
それを取り入れた時事ネタでもある。
ちなみに、ラテ欄の記事でもう一つ覚えているのは「ゴルバチョフ書記長の子 子ゴルバチョフ書記長」というものだ。
こちらも時事ネタ。
§摩擦音を活かしたもの
口から息を吐く際に、空気の流れる部分を非常に狭くしてやると、流れる空気と周囲との摩擦によって音が出る。
これを摩擦音という。
さ行の子音「s」は、舌の先と歯茎の間にわずかな隙間を作って発声することから「無声歯茎摩擦音」と呼ぶ。
日本語では子音の後には基本的に母音が来るため、さ行の発音の際には、「わずかな隙間」を作った後に、母音の発生のために「解放する」必要がある。
さ行の音が連続すると、わずかな隙間…塞ぎすぎても、開きすぎてもダメだという難しい舌の位置を繰り返し作らなくてはならなくなるため、発声が難しくなる。
(しんしゅん しゃんそんかしゅ さんそん しゃんそんしょー)
短いフレーズだけど、よくできた早口言葉だと思う。
摩擦音に加え、「ん」という鼻音を混ぜている。
鼻音は鼻に息を抜くことで出す音なので、口で出す摩擦音の s と合わせると、空気の流れの制御がややこしくなる。
(実際には、ややこしすぎるため鼻に息を抜ききらず、喉の奥で空気を止めるくらいで発音することになる)
「山村」を入れずに「新進シャンソン歌手」にしたり、いろいろなバリエーションがあるのだけど、シャンソン歌手がショーを行う、というストーリー性がある。
(ししなべ ししじる ししどん しししちゅー いじょう ししししょく しんさいいん ししょくずみ しんあん しししょく しちしゅちゅうの ししゅ)
僕個人としては、最高傑作だと思っている早口言葉。と言っても難易度はそれほど高くない。
「七種中の四種」は言いにくいけど。
最高傑作だと思うのは、よくもこれだけ「し」を並べてストーリー性のある文章を作ったな、という感心。
これは、子供の頃(多分1979年)東京タワーに行ったときに、NEC の出店していたブースでもらった下敷きに書いてあった。
早口言葉をたくさん書いた下敷きで、楽しいので長い間大事にしていた。
紙下敷きだったので、最後にはボロボロになって捨てたけど。
出典となる書籍名も書いてあったので、蒐集した昔からの早口言葉と、著者の方による新作があったのだと思う。
そして、上記はおそらく新作と思われる。
実は「神田鍛冶町~」のロングバージョンと、「隣の客は~」のロングバージョンも、この下敷きで知った。
こちらは、根幹部分が古いものなので、バリエーションを蒐集したのではないかな、と思っているのだけど、著者による追加かもしれない。
だとすれば、著者の方に著作権があるはずなのだけど、すでに情報がないのでよくわからない。
ここでは「引用した」ことにしたいのだけど、引用であれば元の書籍の情報を書かないといけない。
情報知っている方がいましたら、教えてください。
(古本が入手できそうなら読んでみたいし)
§言葉自体が面白いもの
早口言葉の体裁は取っていながら、その言葉自体が面白いだけで、早口としては難易度低い、というものも多い。
だけど、「言葉遊び」なので、それもまた面白いと思う。
(このくぎ にくいくぎ ひきぬきにくいくぎ にくいくぎ ひきぬく)
これ、コント 55号の萩本欽一さんが、コントでやっていたと思うんだ。
どんなコントだったかは忘れた。舞台上で次郎さんに、いろんなセリフを教えた通りに言わせるのだけど、その中に急にこれが混ざるの。
次郎さんは、急に言われたことに対して「え?」ってなるのだけど、欽ちゃんが感情を込めて一語一語を説明して覚えさせ、無理やり言わせる。
釘を抜こうとしたけど、上手く抜けなかったことで釘を憎むのね。
でも、最終的にはその釘を引き抜く。…というストーリー。
だから、最初の「憎い釘」と、2番目の「憎い釘」では、感情が違う。
最初は、引き抜けなかったからちょっと憎んでいるだけ。でも、最後は憎さの感情が募り、思い切って引き抜いてしまう感じ。
(なまあたたかい かたたたきき)
一応発音しにくい t や k の音を混ぜてるのだけど、早口言葉というより「想像するとなんか嫌」なものを想起させる遊びが含まれている。
これは、大学時代に友人から教わった。
(おあやや おやに おあやまり)
これ、何の漫画で読んだんだったかな…昔少女漫画にあったフレーズ。
ストーリー上は、マイフェアレディっぽく、訛りを矯正させる訓練ではなかったかな。
#マイフェアレディでは、「スペインの雨は主に平野に降る」
"The rain in Spain stays mainly in the plain." を練習するシーンがある。
早口言葉というより、ai の発音が悪かったので、rain Spain stays mainly plain という ai (ay) を多く含む文章を作ったもの。
「親」ではなく「八百屋」にするものも多いようです。
でも、「親」のほうがなんか緊迫した事情がありそうで、そんなことを想像するのもまた楽しい。
(ばす がすばくはつ)
これ、子供の課題だったのでここで止めましたけど「ブス バスガイド」って続けるのも有名だと思います。
t k の連続と同じで、b も g も破裂音なのでそれなりに言いにくいです。
§同音異義語を混ぜる
同音異義語というのは、同じ音を言うだけなので、早口言葉としてはそれほど難しくありません。
でも、そこに「同じ音なのに意味が違う」という、感覚の崩壊(眩暈)が入る。
この眩暈は、言う人よりも「聞かされる人」の方に強く出るように思います。
早口でまくし立てて、同じ音がいろんな意味で出てくる言葉を聞かされる。
冷静に考えれば意味が分かるのだけど、早すぎて意味が分からない。その混乱を楽しむわけです。
早口言葉と言っても、聞く方が意味を取れるかどうかを試すものになっている。
言葉遊びとしては面白い。
(うりうりが うりうりにきて うりうれず うり うりうりかえる うりうりのこえ)
「瓜」と「売り」を組み合わせて「瓜売り」。
そして、そこからストーリーを展開しています。
覚えてしまえばいうのは簡単。でも、瓜売りの寂しそうな後姿が思い浮かぶと、何とも言えない哀愁があります。
結構好き。
(すももももも ももももも ももも すももも もものうち)
「も」って、連続するとそれなりに言いにくいです。
口を閉じて開いて、を繰り返さないといけないからね。
でも、それ以上に、同じ音の連続を楽しむ意味合いが強いかと思います。
接続詞の「も」と、「桃」を組み合わせて意味のある文章にした感じ。
意味を出すために「スモモ」も組み合わせていますが、この「す」をできるだけ感じさせないように最大限離して配置してあるわけです。
(ははのははは ははは ははは ははははとわらう)
こちらも同じく、接続詞の「は」を活かした遊び。
実際には「わ」という発音になるので、発音するよりも文字に書いたほうが面白いです。
(うらにわにはにわ にわにはにわ にわとりがいる)
こちらは、文字を見るとかえって面白くないかも。
一応有名な早口言葉ではありますが、「にわ」の音の意味がどんどんずれていく。
その眩暈を楽しむものかと思います。
裏に鰐・埴輪 庭に埴輪 …って、さらに意味をずらして描かれたイラストを見たことがあります。
これは早口言葉ではなく、意味をずらして遊ぶゲーム、という本質をとらえていると思います。
(きしゃの きしゃが きしゃで きしゃした)
これは早口言葉というより駄洒落の範疇か。
「ハイカラさんが通る」に出てた気がする。
ワープロの性能がまだ十分でなかった頃は、文字変換のテストなんかにもよく使われた文句です。
文法解釈・意味解釈まで入り込んでいると正しく変換できるけど、単に文字を見るだけだと、こうした同音異義語は変換できないから。
§早口言葉のゲーム性
早口言葉の紹介としては、ここまで。
子供の課題に付き合って思い出した(書き出した)フレーズを元に書いたので、マイナーどころを中心にそろえています。
あまり有名なもの「坊主が屏風に~」とか「蛙ぴょこぴょこ~」、「赤巻紙~」とかは入ってない。
4つに分類したけど、漠然と思っていたことについて、書きながら分類してみた程度なので、あまり厳密性はない。
だいたい、「早口言葉」というものの定義すら曖昧なので、厳密に分類すること自体に無理があるだろう。
以降は分類とはまた違う話。
ある程度の長さを持つ早口言葉の場合、見事言えた際に「調子が良い」ことは大切だと思う。
調子のよい言葉って、言っていて気持ちいいのだ。声に出して読みたい日本語。
「神田鍛冶町~」とかは、頭が「か」で揃えられていて、読んでいてリズムが出て気持ちいい。
でも、簡単には言えない。気持ちいいのが途中で言い淀むと、「失敗した」感が出る。
何度かやって、最後までやり通せれば、「やり切った」感が出る。
以前どこかで書いたけど、僕は、「目的」に対して「障害」が設定されたら、それはもうゲームだと思っている。
早口言葉は「調子のよい言葉を気持ちよく言い切る」ことに対し「舌が回らない」という障害がある。
十分ゲームの要素を満たしている。
でも、だからこそ「いたずらに長く、覚えるのが難しいだけ」とか「調子が悪く、言えたとしても気持ちよくない」ようなものは、あまり面白くないと思う。
ストーリーがあることを面白いと感じるのも、本質的にはストーリーによって「覚えやすさ」も出来上がるし、調子も良くなるからだ。
落語の「寿限無」や「ん回し」なんかも、同じような構造だと思う。
ただ、これは「調子がいい」のだけど、長くて覚えにくく、言いにくいわけではない。
だから、「早口言葉」とはまた違うものだ。
同じ「言えるかどうか」のチャレンジでも、記憶力が試される。
まぁ、これも厳密に区別する必要はない。
全部ひっくるめて「言葉遊び」だし、遊びというのは本来自由なものなのだから。
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