先日、ゲーム業界が風営法の下でどんな努力をしてきたか、というような話を書きました。
でも、一番大切な事を書いてないのに気が付いた。
現場である「ゲームセンター」の努力を書いてませんでした。
一応、8号営業のままでなし崩しに景品を出してしまう、という話は書きました。
これもゲームセンター運営の努力ではあります。
ゲームマニアって、ゲームすること自体が楽しいのね。
ゲーム自体が趣味なので、趣味にお金を払うことになんのためらいもない。
でも、ゲームマニアなんて人口のほんの一部です。
そこだけを相手に商売をしていても先細りになってしまう。
じゃぁ、ゲームマニア以外もゲームセンターに来てもらうためにはどうすればいいか、というと、お金を払った見返りに何かが手元に残るようにするのです。
これが景品の払い出し。でも本当は風営法で禁じられています。
この方法を取るのは無理がある。
風営法が定められた当時、「賭博ゲーム機」が問題となっていました。
改造されたテレビゲーム機で、1プレイ千円。(30年前の話なので、いまよりずっと価値が高いです)。
大抵はポーカーやブラックジャックなど、すぐに勝負がつくカードゲームで、勝てば払い戻しがあります。
ここで重要なのが、当時は「プログラム」というものが今よりもはるかに理解されていなかったこと。
カードゲームなのだから、カードゲームと同じ確率で動いているのだろう、と考える人が遊ぶわけです。
ポーカーもブラックジャックも、本来ならば親が多少有利な程度で、子でも十分に勝てるゲーム。
だから「勝てるかも」と考えて遊び始めるわけですが、プログラム的に子はほぼ勝てません。
ただ、全く勝てないとすぐにやめてしまいます。10回に1回くらいは勝てるようにしてある。
そうすると、「ちゃんと勝つときもあるから、今まではちょっと運が悪いだけ。」と考えて遊び続けてしまうのです。
何十万もすった挙句、確率がおかしいのではないかと気づいて文句を言っても遅いです。
こんな違法な賭博を運営しているのはヤクザ絡みです。
自分が運が悪いのを人のせいにしてインネンを付ける気か、と絡まれて殴られ、謝っても慰謝料と称してさらにふんだくられます。
これが、テレビで摘発のニュースをたびたびやっているのに、だまされる人が後を絶たない時代があったのです。
#いまのオレオレ詐欺みたいなもんだ。
8号営業は、法律上次のように定められています。
・スロットマシン、テレビゲーム機その他の遊技設備で本来の用途以外の用途として射幸心をそそるおそれのある遊技に用いることができるもの(略)を備える店舗(以下略)
この、「本来の用途以外の用途として~」というのは、上記のように改造した賭博機を言っています。
もう一つ、風営法が定められた当時、ゲームセンターが不良学生のたまり場になっていることも問題でした。
学校サボって、行く場所もないからゲームセンターに溜まる。
ゲームセンターは結構音がうるさいため、外に音が漏れないように常に扉が閉められています。
そして、画面に光が反射して見えにくくなるのを抑えるために、窓にポスターを貼ったりして光をさえぎっていて、中が見えづらいです。
これが、サボっていて隠れられる場所を探す学生には格好の隠れ家だったわけです。
普段はサラリーマンも来る場所ですから、灰皿もあります。
不良学生ですから、タバコも吸います。
でも、彼らだって(暇つぶしに)ゲームを遊ぶので、店舗からすればお客様。
店としては追い出すこともできません。
賭博ゲーム機と不良学生。…他の要件もあったのかもしれませんが、ここら辺がゲームセンターに風営法の網がかかる原因となっていました。
ならば、これらのマイナス要因を払しょくすれば、風営法の枠を外してもらえるかもしれません。
それは無理だとしても、イメージを好転させればお客さんも増えるでしょう。
これから10年間、ゲームセンターは地道な努力を続けます。
昼間学校があるはずの時間に、学生服で来店するお客様は、一旦私服に着替えるか、午後3時以降に再来店していただくようにお願いして帰ってもらいます。
未成年と思われるお客様が煙草を吸っているのを見かけた際には、未成年が煙草を吸うのは違法行為であることを明示したうえでやめていただきます。
雰囲気を明るくするため、灰皿に吸い殻などがある際は速やかに片づけ、新たな灰皿に交換します。
ゲーム中のお客様の場合も、さりげなく灰皿を交換することがあります。
#この時、灰が飛ばないように別の灰皿を上からかぶせて運ぶ、など作法も細かい。
普通の蛍光灯ではなく、映り込みの少ない特殊照明を導入して店内を明るく保ちます。
店舗の立地によっては、さらに踏み込んで明るい雰囲気づくりに勤めています。
女性客にも楽しんでもらえるように、占いゲーム機などを充実させたのもこの時期。
子連れでも楽しめるように、「アンパンマンのポップコーン工場」とか、「わくわくトーマス」とかが作られたのもこの時期。
この路線は、UFO キャッチャーとプリント倶楽部の登場で完成形を見たように思います。
…結局「景品を出すゲーム機」なのだけど。
お金を払う以上、何かが手元に残る、というのは強いです。
ちなみに、風営法で禁じられているけど、UFO キャッチャーは業界の自主規制を前提に黙認されています。
(風営法前から、お菓子などを取るクレーンゲーム機は存在したが、風営法ではこれらは問題とされていなかった、というのも黙認の理由の一つのようです。)
また、プリント倶楽部は必ずシールが出てくるので、景品ではなく「自販機」扱い。
8号営業の枠の中で問題なくお土産を持たす方法としては、うまい落としどころでした。
このブームの時期、入り口にはUFOキャッチャーとプリクラを置いて子連れ・女性客でも遊べるように考慮し、中に入ると各種テレビゲーム、さらに奥には見た目も華やかな大型メダルゲーム機、という店舗レイアウトが非常に多かったと思います。
まぁ、本当に大型メダルゲーム機まで置けたのは大手が運営する大規模店だけかな。
とはいえ、小さな店でも、ある程度このフォーマットに従っていたように思います。
多分、「店舗の努力」で状況が改善していったのは、このあたりまで。
バブル景気の後押しもあって、売れないゲーム機でも「雰囲気のために」置いておく、という余裕が許された状況も幸いしていたと思います。
先に書いたプリクラ・UFO キャッチャーブームのころ、同時に対戦格闘ゲームのブームも進行していました。
でも、まだスト2が大人気ではあったものの、それ以外にも多数のゲームが元気だった時期。
ぷよぷよだってありますし、シューティングゲームだってまだ人気がある。
その後さらに格闘ブームが進み、カプコンとSNKの2大メーカーだけでも多くのシリーズを出し始めます。
そこにバーチャファイター・鉄拳のポリゴン格闘2大シリーズが加わる。
さらに格闘以外にも、バーチャロンなどの対戦ゲームが作られ始める。
限定された店舗面積の多くが対戦ゲームに取られるようになっていきました。
そして、これらの対戦ゲームは、初心者お断りなことが多いです。
ゆっくり遊ぼうとしても乱入されて、すぐゲームが終わってしまう。
女性でも、子連れでも入れるゲームセンターを目指していた一方で、マニア以外はお断りなゲームに人気が集中していました。
プリクラ・UFOキャッチャーを集めた、「プリクラセンター」と化すゲームセンターも現れる一方、対戦ゲームばかり集め、マニア人気を求める店も出始めました。
棲み分けられた、と言えば聞こえは良いのですが、「誰でも楽しめるゲームセンター」を目指していた時代は終わりました。
そして、それと共に集客力も落ちていきます。
だって、ゲームセンターが棲み分けた、ということは、どこかの店に行ってもその店は「同じような機械しかない」ということだもの。
本屋に行くと、普段は手にしないような本を、背表紙だけ見て気になったりするから面白いのです。
そこには偶然の出会いがあり、このこと自体が楽しみになっている。
見知らぬ人との対戦や最新の技術を求めるマニアならともかく、一般の人にとってゲームセンターに求める機能は、そうした「偶然の出会い」なのではないかと思います。
そうでなければ、家のゲーム機とか、スマホで遊んでいればいいんだから。
でも、今のゲームセンターは品ぞろえが薄く、偶然の出会いが起こりにくい。
ゲームが面白かったとしても、それを置いてある空間に面白さが無いので、魅力が半減しています。
もちろん、すべての店がそうだというのではありません。
頑張っているゲームセンターだってある。でも、総じて状況は悪くなっている。
今もこの状況から脱せていない、と思います。
僕自身がゲームセンターに頻繁には行かなくなって久しいので、認識の間違いもあるかもしれないけど。
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申し訳ありませんが、現在意見投稿をできない状態にしています。 【名無しさん】 現状は、品揃えに関しては格ゲー全盛期より悪化してるのではないでしょうか?同じゲーム機が4台単位で並ぶのが当たり前になり、また収集要素やP2W化など、重いゲームが増えてタイトルの掛け持ちが難しいことも影響しています、ゲーム機の撤去が客層の切り捨てに直結するので軽々と撤去できなくなったのも大きいです (2017-09-02 17:40:11) |