Twitter でシャープ公式アカウントがこんなのつぶやいてた。
#なんか強そうな画像貼れ ←弊社にはじめてコンピュータを搬入するところ。1960年 pic.twitter.com/ioT31KVU4j
— SHARP シャープ株式会社 (@SHARP_JP) August 28, 2013
強いかどうかと言うより、僕としては機種が気になった。
1960年当時だと、コンピューターは非常に巨大、かつ繊細な機器だ。
しかし、写真に写っているものは「箱」に収められているようだし、これだけで完成しているような印象を受ける。
とすると、DEC のミニコンピューターかな?
…と思って調べたが、DEC が商業的に成功した PDP-8 を作るのは 1965年だった。
最初は「横倒しにして運んでいる」ように見えた。当時のコンピューターは、大抵縦長だからだ。
でも、よく見ると板にあけられた(おそらく排熱のための)スリットは、この状態で正しそうだ。
横長でこの大きさだと、これは制御卓部分で、コンピューター本体は別に存在するのかもしれない。
運んでいる荷物の一番手前の部分、箱の上側に、斜めになっている部品が見える。
これ、パンチカードを納める読み取り機だな、とわかる。
#知らない人がこの写真見ても思わないだろうけど、特徴のある形状なのです。
となると、その奥にあるのはプリンタか。
排熱のスリットがあるのだから、写真手前が、実際に使うときには「奥」になるのだろうな。
パンチカードを使うのなら IBM だろう、と思って IBM の当時のコンピューターを調べる。
当時なら IBM 709 か、と思ったけど制御パネルは縦型のようだ。写真のものとは違う。
709 のもとになった 704 も調べたが、こちらも違うようだ。
しかし、こういう写真は大抵「制御パネル」や「本体」ばかりで、パンチカード読み取り機やプリンタと言う周辺機器は写真が少ない。
じゃぁ、と考えて「IBM パンチカード読み取り機」で写真検索してみる。
すると、どうもそれっぽい写真が見つかる。写真の元ページを見に行くと、どうやら IBM 407 タビュレーターと書いてある。
そうか! タビューレータか!
コンピューターだと思って探していたからわからなかった。
さすがに背面から撮った写真は見つけられなかったが、左の写真など、横のパネルの開閉部分など同じだとわかる。
多分、シャープ(写真には「~電機」と書いてあるが、これはシャープの昔の企業名、早川電機だろう)に運び込まれたのは IBM 407 で間違いないと思われる。
#この写真はPaulさんのページから引用。個人で IBM650 持っているって…すごい趣味だ。
(リンク先では、もっと大きな元サイズの画像が見られる)
全体像としてはこちらの写真がわかりやすい。
シャープさんの写真とは正反対の位置から写したものなので、同じものであるとわかりにくいけど。
タビュレータは、パンチカードを読み取り、作表(テーブル化、つまり「タビュレート」)する機械。
407 の場合、作表の前段階として集計作業ができるので「会計機」とも呼ばれる。
左端に、パンチカードの束を置く場所がある。シャープの写真では、手前にあった部分だ。
置いたパンチカードは一枚づつ読み取られる。
装置上中央には、プリンタがある。ここで読み取ったデータを直接プリントアウトしたり、もしくは集計した結果をプリントアウトしたりできる。
右端横側にはハンドルが付いている。
この部分、引き出しのようになっていて、開けることができる。
引き出しを開けた状態が、この写真だ。
407 会計機は非常に高機能だったので、どのような作業を行うか、ここの配線を変えることでプログラムできた。
線(コード)を配するため、「コーディング」と呼んだ。
このプログラム方法は、ENIAC などと同じだと思っていい。
#詳細な2つの写真は、コロンビア大学より引用。こちらもリンク先で大きな画像が見られる。
407 会計機は、僕のページにたびたび出てくる書籍「ハッカーズ」の冒頭に出てくる機械だ。
「ハッカーズ」は初期のコンピューターハッカーの生活に迫ったドキュメンタリーだが、最初に扱うマシンはコンピューターではなく、この 407会計機だ。
当時はコンピューターは何百万ドルもするもので、一般人は触ることすら許されなかった。
というか、407も触ることは許されなかったのだが、704本体ほど厳重な管理はされていなかったため、ハッカーたちが夜中に忍び込んで、勝手に「遊んだ」様子が描かれている。
ちなみに、うちにある「ハッカーズ」は第3版第5刷だが、非常に誤記が多い。
407は、話をしている最中に急に「704」と名前が変わったりする。
先に書いた通り、IBM 704 コンピューターと言うものが実際にあるし、704 は 407 を周辺機器として使えるように設計してある。
英語原文を読んでみたところ、「407」の名称は1回だけ使われ、以降はすべて「it」だった。
日本語で「それ」が多いとわかりにくいため、訳者がわかりやすく、すべてを「407号」と書こうとしたようだ。しかし、間違えて途中から「704号」になり、余計に混乱させている。
#そもそも、「407」は機械の型番であり、個体を識別する「407号」ではないのだが。
407 はコンピューターではないが、IBM 704 コンピューターの重要な周辺機器だった。
だから、シャープ公式氏のいう「コンピューター搬入中」は間違いではない、と思う。
もしかしたら、704/709 は導入しておらず、407 だけの可能性もある。
それでも、ノイマン式ではなく、計算式にも制限がある(データ集計しかできない)というだけで、自動計算機(広い意味でのコンピューター)ではある。
なかなか面白い写真を見せてもらった。ありがとうございます。
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