2019年10月31日の日記です


月白青船山  2019-10-31 15:00:28  その他

久しぶりの書評。


以前同じ人の作品を読み、面白くてそれも書評として書いたのね。

普通に本を読んでも書評を書こうとは思わないのだけど、以前の本は…こう、なんというか、本を読みながら本の「外」を思ってしまう、不思議な構成だったから。


以前読んだのは、「かはたれ」「たそかれ」という、2冊のシリーズ作。

不思議な構成と書いたけど、誰でも読んで不思議を感じられるわけではない。


舞台が架空の町なのだけど、明らかに僕が住んでいる町。

そして、登場する場所がいちいち、知っている場所。知っているのだけど、そこは架空なので微妙に違っていたりして、眩暈を感じられた。


そして、今回読んだ「月白青船山」。



先に書いた「かはたれ」シリーズの舞台は、「散在が池」と「青船」だった。

池は、少し名前が違うが実際に「鎌倉湖」としても知られる場所で、鎌倉湖行きのバスは JR「大船」駅から出ている。


つまり、架空の地名「青船」は、大船だ。

そして、「青船山」を舞台にした新作(今年刊行の本だった)。

読んでみたいと思った。




先に、ざっくりとストーリーを紹介しよう。


東京に住む兄弟が、夏休みの間だけ、親戚の家に預けられて鎌倉へやってくる。


本当は海外出張中のお父さんを訪ねて家族でオーストラリアに行くはずだったのに、お父さんが病気になり、母だけが向かったのだ。

楽しいはずの夏が、友達もいない、それほど親しくもない親戚の家で過ごすことに。


しかし小学校5年生の弟は、同学年の鎌倉在住の少女と出会う。

彼女もまた、家の都合により少し離れた学校に通っていたため、夏休みは友達と遊べない。

家庭の事情もあり、彼女も寂しい気持ちを抱えていた。


そして、中三の兄も合わせて、彼女の案内で近所にある「青船山」で遊んでいるうちに、不思議な場所に迷い込む。

平安時代末期の村だった。


そこで、3人はその村が「時間が止まった」場所であることを知る。

状況を戻し、全ての人が幸せになるためには、失われた瑠璃を探さなくてはならない。

村人は時間が止まっているがゆえにそれができず、願いが彼らに託される。


その後、彼らは現代に戻ってくるが、託された願いがそもそもどういうことなのか、意味を探り始める。




全体に、鎌倉に伝わる伝承、実際の地形などを組み合わせた、なぞ解き話だ。

小学生向けだから、その謎もそれほど難しいわけではないし、推理というよりは冒険物(行き当たりばったりで謎が解ける)だ。


「かはたれ」シリーズに比べると、架空の町、という感じは少なく、出てくる場所がほぼ実在。

お寺とか、神社とか、「伝承」に関係しそうなものはともかく、大船に実在するお菓子屋さん(粟船堂)まで出てきたのにはちょっと笑った。


そして、その分「現実との違いに眩暈を感じる」という楽しさは、残念ながら少なかった。


現実と一番違うのは、主要舞台である「青船山」かな。

位置関係や記述から、これは「六国見山」。


小学生でも簡単に登れる気軽な山、というのはそのままだけど、地形は結構違う。

…とはいえ、それなりに現実に存在するものも出てくるのだけど。




「かはたれ」「たそかれ」もそうだったのだけど、この作者は「寂しい人」を書くのが上手なようだ。


このお話も、寂しい人が多い。

そうではないように見えていても、人物像が明らかになるにつれ、どこかに陰が出てくる。


「瑠璃」を探す冒険は、次第にそれらの人の希望へとつながっていく。

願いを託したのは平安時代の人々なのだけど、それが現代に生きる人々へも希望になっていくのだ。


最後は、大団円。

実際の伝承を基にした…実在の歴史上の人物で「不幸だった」人々も含めて、幸せになったことが示唆される。

歴史はもちろん変えられないから、おそらくそれは死後の世界で幸せになったのか、現在とは違う世界線での話なのだろうけど。




先に書いたように、多数の伝承が組み合わせられて話を形作っている。

しかし、どこまでが史実・伝承で、どこまでが作者の想像による架空のものなのか、どうも判然としない。


「かはたれ」は、町自体が都合よく架空のものになっていたので、現実との違いを楽しむことができた。

しかし、「月白青船山」は町などの描写はかなり現実に近い。

事実が多いからこそ、伝承も本当っぽく見えるが、それも作者の狙いだろうか。


どうもこの作者、事実と架空を自在に操り、境界線がわからない。

非常に巧妙に作られた、良作だと感じた。




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