長男(8歳)が興味を持っているので、ケミストリークエスト(以下ケミクエ)を買った。
元はと言えば、読売KODOMO新聞についてきたおまけだ。
このカードゲームを、枚数を減らして「体験」できるようにしたもの。
僕も以前から話は聞いていて興味あったが…この体験版、長男は喜んで遊んでいたが、正直なところ僕にはつまらなかった。
ここで疑問が生じる。
1) 体験版として枚数を減らしたからつまらない。
2) 体験版だから、十分面白さが伝わるように作っているのだが、つまらない。
1 なら、商品を買えばもっと楽しめるだろう。
2 なら、買うほどのものではない、ということになる。
体験版の何がつまらないかというと、ゲーム上の選択肢が皆無なのだ。
お互いカードを切ってならべ、選択肢のないルールによって機械的にゲームを進めるだけ。
調べてみるとこのゲーム、商品版でも「つまらない」との評判が多い。
でも、商品版では選択肢が生じる工夫があるようだ。
先日、ピューロランドに行った際に、平日なので長男はいけなかった。
長女・次女だけ、どきどきマジカルマーチ(参加費600円)を楽しみ、お土産(300円未満)を買ってきて、さらにマクドナルドでハッピーセット(350円程度)を買った。
合計で1200円ほど。埋め合せで長男にケミクエ(実売1000円強)を買ってやってもよいだろう。
さて、G.W. 中に購入して、遊んでみた。
ケミクエには3つの遊び方がある。
といっても、全然違うゲームではなく、難易度に応じて「入門編」「基礎編」「初級編」となっている。
(中級以上のゲームセットは、現在製作中だそうだ)
入門編と基礎編は細かなルールは違うが、基本的に同じ。
…運のみゲームだ。選択肢のないルールによって機械的にゲームが進む。
それでも、体験版よりはカードが多いため、多少は選択の余地が生まれる。
体験版よりは楽しい。
選択の余地がない、というのは、ゲーム慣れしている人ならすぐに「最善手」が確定してしまい、考える余地がなくなってしまう、という意味だ。
小学校3年生の長男は、まだ最善手がよくわかっていないので、十分悩んで楽しんでいる。
その程度の年齢なら楽しめる、という意味でもある。
一応、ここでゲームのルールを解説しておこう。
水素、炭素、窒素、酸素の4つのカードを使ってゲームが進む。
2人対戦で、それぞれ同じ枚数づつのカードを持つ。
これをそれぞれ3枚場に出す。合計で6枚だ。
この6枚で、分子を作る。水素2個なら「水素分子」、酸素2個なら「酸素分子」になるが、炭素2個では分子にならない。
(炭素は分子ではなく、結晶を作るためだ)
分子がよくわからなくても大丈夫。4つの元素で作れる代表的分子を記した「ヒントの書」が付属しているから、これを見ながら作れるものを探せばよい。
分子を作るときは、「少なくとも1枚づつ両者から出す」という決まりがある。
作った分子のカードは取得できる。
最終的な勝敗は、「取得した分子カードの枚数」で決まる。
つまり、少しでも大きな分子(多く原子を使う分子)を作ることが目的だ。
使ったカードは補充し、交互に繰り返し、どちらかが手詰まりで何も作れなくなるまで続ける。
さて、「選択肢がない」ということを説明しよう。
6枚の中で作れる分子を探すが、目的は多くのカードを集めることなので、大きな分子が作れればそれを作ることになる。
同じ大きさの分子であれば、窒素を使うもの、炭素を使うものを優先した方がよい。
このことは、何回かゲームを遊べば気づく。
窒素が入る分子は少ないから、使えるときに使ったほうが後で制約されることがなくなる。
炭素では、最低限の「2個」の分子すら作れなくなるため、増えすぎると追い込まれる。
こうなると、選択の幅が非常に狭くなって、機械作業になる。
上に書いたのは「入門編」ルールで、基礎編では少しルールが変わる。
まず、6枚全部を選ぶことはできなくなる。
相手から「1枚」だけもらって、自分の3枚と組み合わせる。最大4原子までに制約されるのだ。
ただ、この状況では分子が「作れない」状況が生じやすくなる。
その場合、完成していない分子を「結合中」として保持できる。これが入門編と基礎編の最大の違いだ。
(作れる分子がある場合は、結合中にはできない。すぐ完成する分子を先に作らなくてはならないルールだ)
結合中は、まとめて一つの原子と同じ扱いになる。
(ゲーム上は、代表して「結合中」カードを原子を置く場所に置き、その下にカードをまとめて置く)
自分の側に結合中の束がある場合は、特殊ルールが適用される。
通常は、「分子が完成できる場合は、その分子を作らなくてはならない」という縛りがあるが、結合中の束に原子を追加する場合に限り、その結果分子が完成しなくてもかまわない。
もちろん、結合中を無視して分子を作ってもよい。
分子も作れないし、結合中にも足せない、という状況下で、新たな結合中を作っても構わない。
相手の結合中の束は、「まとめて1枚」という扱いなので、自分の手番で奪っても構わない。
ただし、この場合も「完成できる分子が優先」のルールは残っている。
相手の結合中の束を完成させられる場合か、分子を作ることができないときのみ、相手の結合中の束を奪えることになる。
…ややこしい? 遊んでみると、それほどややこしくないから大丈夫。
この「結合中」ルールがなかなか楽しく、非常に大きな分子を生成することもできる。
ただ、しばらくすると気づく。大きな分子を作るメリットは、「まったく」ないのだ。
通常なら、相手から1枚、自分側から1~3枚出すので、2~4原子の分子を作れる。
4原子は運がよくないと作れないので、平均して3原子だろう。
結合中にしてしまうと、結合中をまとめて1枚とするので、相手から1枚、自分側から1~2枚で作らねばならなくなる。結合中は、使える手が狭くなるのだ。
となると、早く結合中の束を完成させたくなるが、結合中の束に「追加できる」原子というのは、すでに存在している原子の制約を受ける。
そのため、1~2枚追加するのが精いっぱい、という状況だ。
1手で3枚使うのが平均手なのに、1手で1枚まで落ち込むわけだ。これよりは、2原子の分子でも作れるなら、そちらを作る方が得策となる。
ただし、相手から「結合中を奪う」場合は、大量得点のチャンスとなる。
奪っただけでは得点にならないし、奪い取る条件も難しい。奪いやすいのは「奪うと同時に完成する」場合だ。
となると、結合中の束は完成から遠い状態のまま、ほおっておくのが得策となる。
結果として、せっかく「巨大分子が作れる」という楽しさを持つ結合中の束は、無視するのがゲーム進行上最善手となる。
これに原子を追加するのは、それ以外の手がないほど追い込まれたときだけだ。
結果として、入門編ではややこしくなっただけで、機械作業に落ち込むことに変わりはない。
初級編ルールになって、やっと機械的作業ではなくなる。
その代償として、ルールが破綻し、ゲームは膠着状態の、つまらないものになる。
初級編ルールでは、テクニカルカードが導入される。
これには3種類ある。
1) 触媒の帆船。相手からカードを2枚もらえる。
2) 希ガスの鎧。相手にカードを奪われなくする。
3) フッ素の大ガマ。希ガスの鎧を破壊する。
触媒の帆船の効果については、記述があいまいだ。このことは最後にまとめて書く。
希ガスの鎧には2種類ある。
フッ素の大ガマで破壊できる鎧と、破壊できない鎧だ。
希ガスは、非常に科学反応しづらい。ただし、一部の希ガスはフッ素と反応する。
これを「原子を結合できなくする」「その鎧を壊す」というルールに使っているわけだ。
希ガスの鎧には4つの原子記号が書かれている。He Ne Ar Kr だ。
このうち、He Ne は破壊できない。Ar Kr は破壊できる。
元素周期表の希ガス族を上から4つ取っただけだが、偶然にも、2文字目で特性が理解できるようになっている。
(2文字目が e なら破壊できず、r なら破壊できる。)
フッ素を使う場合は、その手番は他のことをできない。
出来てしまうと、「破壊して結合」が許されてしまい、希ガスの意味がなくなるからだ。
(ルール上は、「分子を作れない」となっているが、それだと矛盾がある。詳細は最後にまとめる)
テクニカルカードは、基本的に使ったら捨てられ、再使用できない。
触媒とフッ素は使った瞬間に効果を発揮し、捨てられる。
希ガスは、破壊されるか、守っている原子が分子として完成するまで効果を発揮し続ける。
攻撃したり防御したり、なかなかゲームの幅が広がりそうだ。
…が、テクニカルカードの使用に際しては設けられた唯一のルールが「非常におかしい」もので、残念なことに幅が広がらないどころか、かえって狭くなる。
・ゲーム終了時に捨てられていないテクニカルカードは、ペナルティとして -3 点のカウントとなる。
見たところそれほどおかしくなさそうだが、これが非常に困ったルールなのだ。
テクニカルカードは、希ガスは先に上げた4種類1枚づつ、帆船が2枚、フッ素が2枚ある。
フッ素は、相手が Ar Kr を出さないと使えない。しかも、相手がこれを出した後、その原子が分子になってしまい、希ガスのカードが「捨てられる」と永久に使えなくなる。
結果として、Ar Kr が出された場合は、即フッ素を使わないとペナルティを受けることになる。
つまり、Ar Kr は「相手を1回休みにする」という意味しか持たない。
ペナルティが怖いので、He Ne もさっさと使ったほうがよい。
せっかく使うのだから、相手に大量得点を許してしまう「結合中」カードにつけるのが得策だ。
先に書いたように、結合中を「完成させよう」なんて思う必要はない。
テクニカルカードが残ってしまうペナルティはあるが、-3 点だ。何ターンにもわたって取得できる原子数を減らすよりは安い。
(もちろん、3 点以下のコストで結合中を完成できるなら、完成させて良い)
しかし、結合中を相手にとられるのだけは阻止した方がよい。大量得点を許すことになるからだ。
これにより、結合中カードが残り続け、自分の側から選べるカードの種類が、3種類から2種類に制限される。
制限されたことで分子が作りにくくなり、さらに「結合中」を使わざるを得なくなる局面が増える。
そして、その結合中には He Ne の希ガスがつけられ、相手が奪い取ることも出来なくなる。
こうして手が狭くなっていき、お互いに使えるカードが1枚づつ、という膠着状態に陥る。
(さらに最悪の場合、その1枚は「結合中」で、複数枚のカードが束ねられている状態となる)
ここにきてやっと、分子が非常に作りづらいので、結合中のカードを完成に近づけなくては仕方がない、という状態になる。
機械作業ここに極まれり、の状態で、まったく選択肢がない作業をお互い黙々とこなすことになる。
ちなみに、両者結合中だらけになり、どうしようもなくなるとそこでゲーム終了だ。
こうならないためには、「最善手」を取るのをやめて、相手側にポイントが入ることを承知で、お互いがゲームを維持できる環境を作るようにプレイしなくてはならない。
具体的に言えば、結合中カードがあるなら、点数が低くなるのを承知で完成を急ぐこと。
このゲームは、勝ち負けは関係なく、「大きな分子が作れた」と相手と喜び合うことを目的とすること。
そうでなくてはゲームが破綻し、遊べなくなるのだ。
このゲームが、小学3年生が考案した、として話題になった。(発売は6年生の時)
その子を天才と祭り上げて宣伝した。
今は中学生になっているようだが、上のようにルールを見る限り、「非常に小学生らしい」と言うしかない。
決して、天才などではない。カードゲームを作ってみたかった、というだけの、ふつうの小学生だ。
仲間内で遊んでいる分には、非常に楽しかったようだ。しかし、それは小学生だから。
ルールを数学的にとらえられていないため、「最善手を取り続けるとゲームが破綻する」ことに気づけていない。
(そもそも、簡単に最善手が見つかるようなゲームはよくないが)
付属のルールブック、非常に読みづらい。
おそらく、彼が書いた文章をそのまま使っているのだろうが、話が整理されていない。
入門編、基礎編、初級編のルールを「まとめて」書いてあるのだ。
そのため、基本的なルールを理解するだけで、結構「読解力」が必要とされる。
遊んでみると、例外が大量に発生するにも関わらず、そうした例外への対処も書かれていない。
「つまらない」という評価が多い理由の一端は、このルールブックのつくりの悪さにもあると思う。
彼は「天才」と周囲がおだてまくっているが、本人が本気でそう思い始めたら将来を棒に振る。
販売戦略として「天才小学生が考えた」は魅力的なコピーだが、子供を周囲の大人の食い物にしてはならない。
今のうちに、このゲーム破綻しているよ、と誰かが言ってやらなくてはならないだろう。
(もしくは、自分で気づいているかもしれない。彼は、インタビューで「破綻していないゲームが作りたい」という趣旨のことを言っているので。ただし、「ケミクエはそうではない」とも言っているが。)
今では大会なども行われているようなので、もしかしたらルール改正が行われているかもしれない。
しかし、公式ホームページなどでは何もアナウンスされていないし、Q&A コーナーも「Now constraction」のままだ。
僕としてはケミクエは「現状つまらないが、アイディアは悪くない」と思っている。
正式に、公式改定ルールが発表されることを望みつつ、今は「ローカルルール」を作って楽しむよりほかにない。
…一端ここで区切って、次の投稿で「ローカルルール」としての改正案を書きます。
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