その昔テレビゲーム業界で仕事していた、というのは何度も書いていることなのだけど、いろいろと「企業秘密」っていうのもあるのかな、と思って詳細は書かずに来ました。
その一方で、どこかで知っていることをまとめておきたい、という気持ちも持っています。
以前書いたのだけど、自分にとっては些細なことでも、研究したい人には重要なデータかもしれないから。
で、一応自分なりの折り合いは気持ちの上ではついていて、20年たったことは公表しても良いだろう、と思っています。
多くの人には退屈だろうけど、なぜ20年なのか書いておきます。
最初に書いておけば、20年たったから公表してもよい、とする法的な根拠はありません。
まず、企業秘密について。
僕がゲーム業界大手で働いていた20~15年前は、企業秘密をばらしてしまう、ということについて、処罰する明確な法的根拠がありませんでした。
一応、「社員」に対しては処罰できました。
懲戒免職にもできるし、会社に損害を与えたのであれば、損害賠償請求の訴訟も起こせる。
役員であれば特別背任罪で刑事告訴も出来ましたが、基本的には民事なのですね。
民事っていうのは、会社が裁判所に訴えを起こす必要がある、ということです。
会社側にもリスクがあるので、あまり大きな話にはせずに、本人を諭して即退職してもらう(懲戒免職)、というのが普通の「罰」でした。
つまり、すでに退職した社員なんかはやりたい放題。会社を辞めてから内情暴露、とか簡単だったのです。
その後法律が変わり、企業秘密の漏洩は刑事告発できるようになりました。
刑事告発と言うことは、ある程度資料をそろえて、警察に提出すれば終わりです。
後は警察の仕事になるので、企業としては「処罰」を行うためのリスクが小さいです。
また、十分な容疑があれば実刑を受けることになるので、退社後の社員でも処罰することが可能になります。
つまり、退職後にやりたい放題、という時代は終わったのです。
これが、僕が自分のやった仕事の内容を秘密にしていた主な理由。
ただ、刑事告発できるようになって会社側の権利が増した分、制約も付けられています。
「秘密を漏洩した」というのであれば、その情報が「秘密」であると誰にもわかるように、かつ適切に管理されている必要があります。
…社外秘、とか大きく判子押してある情報は、秘密だということですね。
たとえば、セガサターンのマニュアルとか、社外秘の判子押してありました。
だから、そういう情報を漏洩してはいけない。
でも、もう一つ条件が付いていて、漏洩時点ですでに「公知の事実」となっていた場合は秘密とは言えません。
僕はすでにサターンの技術話を書いているのですが、エミュレータもオープンソースで作られたりしているし、どこかから流出したマニュアルもネット上で見つけることができる。
だから、これらはすでに「企業秘密」ではありません。
判子を押せないような、人のうわさ話なんかも、企業秘密ではない。
ただし、こちらは企業秘密ではないとしても、個人のプライバシー侵害の可能性があるので、あまり実名は出せません。
(役職名などでも、簡単に個人が特定できてしまうのであれば、実名に準じるでしょう)
実は、在任中に「噂話」を同人誌で公表したことが問題となって退職せざるを得なくなった社員が、同じ部署にいました。
これが、僕がかなり慎重になっている最大の理由。
法律では、会社の「営業上の秘密」がいつまで秘密であるか、年限を定めるものはありません。
でも、退社した社員がいつまでも自分の過去経験したことを口にしてはならないとしたら、これはちょっと会社側に一方的に有利な法律のような気もします。
だから「適切に管理されていること」があるのでしょうが、退社した後では、現在の管理状況がどうなっているかを知ることもできません。
一つ注釈を入れておくと、僕が今後書きたいと思っている話は、当時「社外秘」として指定を受けていなかったようなことばかりです。
ただ、入社するときにどこの企業でも誓約書書くと思うのだけど、「仕事上知り得た事項はすべて社外秘」扱いだったように思うのだよね。
実際、先に書いた、噂話だけで退職せざるを得なくなった人もいるし。
(もっとも、僕はこの人が同人誌で何を明かしたのかは一切知りません。もしかしたら、本当にヤバイこと書いたのかもしれない)
当時は社外秘を漏洩した人へ刑事罰を与える法律がなかったので、「適切な管理」も求められていなかった。
社外秘、というものが非常にざっくりとしていたのです。
ここが、いつになったら話をしてよいのか困っているところです。
それで、自分の中では 20年を区切りとしよう、と決めたわけです。
さて、「20年」と考えているのは、特許法の援用から。
特許は、普通なら秘密にしたいような技術上の優位点をあえて公開する見返りに、一定期間の「独占」が認められるものです。
独占されるとはいえ、技術そのものは公開されるため、他の人が類似技術を習得したり、工夫する余地が生まれます。
これにより、秘密にされるよりも技術の進歩を促すことが狙いです。
そして、この「独占期間」の上限が 20年です。
特許は一般に公開される前…ゲームであれば、ロケテストに出されたり、ショーでお披露目されたりする前に申請する必要があり、その申請から20年以内が独占期間。
技術と言うのは日進月歩で、20年も経てばもう「最新技術」ではありません。
誰でも使える程度の技術になっているだろうし、独占させておくことは却って弊害がある、という判断です。
これが、僕が公開するのに「20年」待つことがけじめだと考えている理由。
他に援用できそうな法律としては、特定秘密保護法なんかもあるでしょう。
あれは、国益に重大な影響を与えそうな秘密を守るための根拠で、保護期間は30年です。
(60年まで延長可能ですが)
僕の場合、会社員になって最初に作ったゲームが、そろそろ20年たつ。
これを30年までまってから公表するのはどうか…と考えた時、それはちょっと遅すぎる気がするのです。
たびたび書いていますが、ゲームの歴史を少しでも残そう、という話題が、あと10年たったらどうなっているかわからない。
というのも、僕としてはゲームはすでに斜陽産業だと思っているから。
人が居る限り、遊ぶ心は無くならないでしょう。
でも、30年後ではテレビゲームが、今よりもっと「特別なもの」ではなくなりそう。
歴史に興味を持つ人も減って、歴史を残す意義も失われていそう。
他には、たとえば著作権法は、権利の存続期間が60年ありますが、これは、「権利」という話だけで、秘密の話ではありません。
むしろ、すべてを明らかにした「著作物」だからこそ、長く権利が保護されている。
というわけで、少しづつ話を書いていこうと思っています。
会社員になって最初に作ったゲームの話から始めるつもりだけど、その前にバイト時代のことを少しづつ書くかな…
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