2017年11月16日の日記です


ST-V 開発環境  2017-11-16 17:07:05  業界記

そういえば、ST-V の開発環境話って書いてませんでした。

ここらへんで書いておきましょう。


…とはいっても、「業界記」タグで書いていないだけで、だいたいはこちらで書いた通りです。


リンク先記事では、僕の所属を「セガの業務用ハード向けのゲームばかり作っていた会社」としていますが、セガそのものです。

嘘は書いてない。自分の中で20年たっていないことは書かないという自主ルールを定めていたので、明言を避けただけです。




開発環境としては、当然のことながら、それまでの開発環境から緩やかに移行できるようになっています。

と言っても、メインとなる PC をそのまま使えた、という程度かな。System32 でも使っていた、HP-UX マシンをそのまま使って開発しました。


当初は、HP-UX には限らないものの、UNIX マシンを使わないと開発できなかったようです。

しかし、すぐに通常の PC でも開発できるようになります。


実際、後に入ってきた新入社員には、Windows マシンが支給されていたはず。



ターゲットとなるボードは当然変わります。CPU エミュレータである ICE も変わります。

V60 ICE は PC-9801 が無いと制御できませんでしたが、SH2 ICE は UNIX/PC から制御できるようになったので、PC-9801 は不要になりました。


これ、机の上が広く空いて嬉しかった。


ROM エミュレータも不要になりました。

というか、時代の変化で ROM の容量が増えて、それまで使っていた ROM エミュレータではエミュレートできなくなりました。



Model 2 などでは ROM エミュレータとは違う方法で対応していたのですが、ST-V には「フラッシュロムカートリッジ」が作られました。

ICE を経由して、PC からデータを送り込んで、基板に挿したままで内容を書き替えられます。


開発用のフラッシュカートリッジは、商品のカートリッジよりも大きいですし、基板がむき出しです。



ST-V のカートリッジは、後にコピー防止のためのチップが入ったバージョンが作られます。

当然、フラッシュカートリッジにもそのバージョンがありました。


…でも、旧バージョンを手作りで拡張しただけ。わずかな基板しかありませんでした。

開発時は普通のカートリッジで開発し、コピー防止のスクランブルをかけたデータを作成したら、特別版で動作確認だけする、という感じ。


まぁ、詳細はまたそのうち。




SH2 ICE の UNIX 版ソフトウェアの GUI は、OPEN LOOK で作られていました。

しかし、HP-UX は Motif でした。



…この説明で悲劇を理解してくれる人はどれだけいるでしょう?


UNIX の世界は、もともとコマンドラインインターフェイス…キーボードから文字でコマンドを入力し、文字で結果を受け取る、という文化です。

グラフィックが使える環境もありましたが、OS ではなく「端末」依存で、環境が違うと一切互換性がありませんでした。


これを解決しようと、X Window System が作られます。

Window と名前にありますが、事実上は標準グラフィックライブラリ。


Window 環境を実現しやすい工夫はありますが、とにかくどんな環境でも共通でグラフィックは扱えるようにしてやるから、後はお好きなように、というもの。


このままでは使いにくいので、GUI らしい「部品」のライブラリが作られます。

OPEN LOOK は Sun が作ったもので、こうしたライブラリの中では比較的早く広まったもの。


Sun ワークステーションでは Open Windows という環境が整えられていて、その中ではすべてが OPEN LOOK で作られていました。

これはこれで、統一されていて使いやすい状態。


当時は Sun は UNIX 界の巨人でした。

そもそも、大学などでは「無料だから」という理由で利用されていた UNIX を、仕事でも使えるものとして広めたのは Sun なのです。



その後、Sun に対抗するそれ以外の UNIX メーカーが共同で、「標準 Window ライブラリ」を作り上げます。

それが Motif 。


コンピューター業界の標準 GUI にしよう、という意図で設計されたため、Windows も、3.1 の時には Motif ベースで作られています。

なので、Motif は 3.1 の頃の Windows にそっくりです。


HP-UX では、Window 環境全体を Motif で構築しており、Windows 3.1 を利用しているのと似た感覚で操作できました。



…でも、OPEN LOOK と Motif は、見た目も操作の作法も全然違うのです。




SH2 ICE の UNIX の GUI は、OPEN LOOK で作られていました。

しかし、HP-UX は Motif でした。


もう、操作しづらいの。

SH2 ICE の操作をする時だけ、普段とは全然違う操作を強いられるから。


Windows と MacOS を切り替えながら使うような仕事って、今でもあると思うのだけど(僕はやってます)、そういう時の「操作しづらさ」を想像してもらえばいいかな。



もちろん、Sun ワークステーションを使っていれば統一された操作感で悪くないのでしょうね。

でも、すでに Sun は優位な立場を失いつつあり、ワークマシンとしての人気は落ちていました。


#サーバーとしての信頼性などはまだありました。



先に書いた通り、開発には Windows でも使えました。もちろん、SH2 ICE の Windows 用ソフトもありました。

こちらの GUI は、ちゃんと Windows 用に作り込まれていたようです。


結局、UNIX 用はライブラリが違っても動いてしまうがゆえに、ライブラリ環境ごとのカスタマイズはされていなかっただけなのでしょうけど…




SH2 の話ではないけど、V60 の頃は僕は awk 使いでした。

awk でグラフィックなどのデータを次々とツールに通し、得られた結果を整理して、プログラムから扱える環境まで全部整えるスクリプトを作っていました


でも、これに限界を感じて、ST-V 用に処理を書き替えるついでに、全部を perl で書き直しました。

awk で作っていたスクリプトは、大量のデータを処理するには遅かったしどうしても無理があって、バグ含みだったんだよね。

(バグに遭遇する確率は低いが、特定形式のデータでバグが出ることはわかっていた)


まぁ、これらのスクリプトは「自分で使う」ために作っていただけで、誰にも見せたことはありません。



オーラ占いの話のところで書きましたが、最後の方で同僚の仕事を一時引き継ぎました


その時に、awk のスクリプトでデータ整理していることに気付きました。

それで調べてみると、誰にも見せたことがないのに、「作者不明」のまま、ST-V やその他基板用に改造され、いつの間にかみんなが使うものになっていて…


perl 版と違って、遅いしバグ含みなんだけどな。

説明するのも面倒くさいので、後に会社辞めるまで、そのまま知らないふりを通しました。



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申し訳ありませんが、現在意見投稿をできない状態にしています

あきよし】 失礼しました。正式表記に書き替えました。指摘ありがとうございます。 (2017-11-21 09:29:06)

【m.ukai】 × X-Window ○ X Window System (または単にX) (2017-11-20 20:20:05)


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