落ち物パズル話3連続です。
実際、相次いで発売されたはず。
落ち物パズルが流行している時期でした。
今回の話、きな臭いから最初に注意を書いときます。
僕、当時は新入社員で全体像がよくわかってませんから、書いてること間違っているかもしれません。
特に今回の話、有名なサードパーティの作品なのでセガ側で、しかも詳しくない傍観者の意見だけで「事実」と思われても困る。
間違ってるかもよ、と言いつつ書く理由は、最初に表明したとおり。
自分の知っていることは少しでも記録に残し、記録の妥当性評価などは他の人に任せるためです。
明らかに誤っている、正しい資料を提示できる、もしくは当事者として証言できる、という方がいた場合、記述を変更します。
(この項目に限らず、一連の記事全てそのつもりで書いています)
スタックコラムスの話で少し書きましたが、テトリス・コラムスは原作ゲームがあります。
だからあれはセガが作ったゲームというわけではなくて、セガは発売しただけだ、っていう人もいる。
でも、テトリスの業務用とPC用を見比べれば、全然違うゲームになっているとわかる。コラムスも同様。
同じ素材でも、アレンジ次第で面白さは全然違ってきます。
#PC用がつまらないというのではないよ。違うものを目指していて、違う面白さがある。
でも、それは同じ原作でも違うゲームだ、ということ。ただ発売しただけではないのです。
セガの作ったコラムスはいろいろなパソコン・ゲーム機に移植されています。
MSX2・FM-TOWNS 版はコンパイルが移植していて、コンパイルは落ち物パズルゲームを作るノウハウを得たようです。
コンパイルは翌年には「ゴルビーのパイプライン大作戦」を作っているのですが、これはちょっとルールが複雑すぎた。
(登竜門と同じような失敗をしています)
でも、実は「2つのブロックがくっついて落ちてくる」「接地すると切り離されて落ちる」という、ぷよぷよの元になるアイディアが入っています。
そして、翌年のぷよぷよへと続くのです。
#ちなみに、「ゴルビー」とは、テトリスの生まれ故郷でもあるソ連(現在のロシア)の当時の書記長(最高指導者)、ゴルバチョフの愛称。
ソ連の旧態依然とした体制のままでは国がダメになる、と思い切った政策転換を行い、冷戦下にあったアメリカと歩み寄ろうとした。
(つまり、アメリカとのパイプラインを作ろうとした)
このゲームは、日本からモスクワまで、パイプライン(水道管の…)を作る落ち物パズルです。
ぷよぷよは、テトリス・コラムスのパクリ、と MSX2 版で製作者がマニュアルで公言していたゲームです。
ゴルビーの失敗に学んだ…のかどうかは当事者でないとわかりませんが、非常に簡単なルールでした。
特に、対人対戦がよく出来ていました。
落ち物パズルで対人対戦、というのは、おそらく任天堂のテトリスが最初。
セガでも、テトリス続編であるブロクシードや、コラムス2で対人対戦を作っていました。
でも、ゲームセンターでは対人対戦はあまりウケなかった。
コンパイルはぷよぷよを業務用にしたいと考えました。当然のように、テトリス・コラムスを出していたセガに持ち込みました。
その結果テトリス・コラムスのアレンジをしたAM1研に持ち込まれ、テトリスのアレンジをした人がぷよぷよの業務用のアレンジアイディアを出しました。
コンパイル側は、テトリスやコラムスのように、一人で延々と遊ぶ…いわゆる「とことんモード」を中心に考えていたようです。
でも、落ち物パズルのブームで、ライバルは多数ありました。
そこで、セガ側から対戦モードをメインに持ってくる、という案が出ます。
とはいえ、ゲームセンターでは対人対戦は受け入れられなかった、悪しき実績があります。
そこで、対人ではなくCPUと対戦する、というアイディアが出ました。
このアイディアが非常に重要だったと思います。
ぷよぷよを、テトリスやコラムスのような「とことんモード」だけで発売していたらヒットにはつながらなかったでしょう。
アイディアを出すのは簡単でも、作るのは大変だったと思います。
落ち物パズルでCPUを相手に対戦、なんて初の試みだったのだから。
この、大変なプログラムを実際に作成したのはコンパイル。
セガはその後もゲームバランス調整とかで細かな意見を出す等、二人三脚で作られています。
セガは契約上は「販売を行う」だけで、アイディアなんて出す必要はないんです。
でも、販売を行うというのは流通経路を貸すだけの問題ではありません。
よりたくさん売れるように、いいゲームに仕上げることが「販売を行う」ということなのです。
そして、ぷよぷよは大ヒットします。
二人三脚だった、というのはセガの言い分にすぎず、法的には作成者であるコンパイルに全権利があります。
セガは、権利上は発売しただけでした。
なので、その後コンパイルがぷよぷよを何に移植しようとも、文句は言えません。
業務用が発売され、メガドライブ版が発売され、ゲームギア版とPC98版が発売されました。
ここまでは特に問題無し。
でも、その後にコンパイルはスーパーファミコン版を発売しました。
セガとしては一番のライバル会社のマシンです。
このことに企画者は怒りました。
アイディアの権利は法的に主張できないとはいえ、恩義を忘れているのではないか。
その後、部署の方針として正式に、コンパイルには今後協力を行わないことが決定されます。
ただし、ぷよぷよを開発した際に、業務用の発売を代行し、流通経路を貸す契約は結んでいます。
ならば、そのための最低限の仕事だけはします。それ以外は一切、アイディアを出すなどの協力をしないように、という命令が下りました。
「どの機種に発売しようが、法的に問題は無い」に対して、「契約外のサポート業務を放棄しても、法的に問題は無い」という対抗措置でした。
先に書きましたが、僕が入社したころから、徐々にサードパーティのサポートに手間を割かないようになっていきました。
理由の一つは、各部署ごとに売り上げノルマが課せられたため、売り上げに直結しないサポート仕事に手間をかけられなくなったことがあると思います。
でも、もう一つの理由は、おそらくはこれでした。
アイディアを出したりゲームバランス調整に力を貸したりして、おもしろいゲームを作るようにしても、セガにとって権利が主張できません。
それでライバル会社のゲーム機に発売されてしまうのでは、もうサポートするメリットが無いのです。
スーパーファミコン版は、1993年の12月に発売されています。
僕が入社したのは1994年の4月。「通」は部署配属直後に見ています。
スーパーファミコン版の発売よりも前に「通」の開発は始まっていて、改良アイディアはその時点で出していたようです。
「相殺」はそのアイディアの中心となる物。
ぷよぷよの対人対戦がちょっとしたブームになっていました。
そして、高い実力を持った人なら、最短手順で5連鎖をくみ上げるのが当たり前になっていました。
ぷよぷよでは「5連鎖」は相手フィールドを完全に埋めつくせる攻撃力です。
相手がどんなに努力しても、負けを回避できない。これ以上組むことに意味がない。
一瞬でも速く5連鎖をくみ上げたほうが勝つ、というのがぷよぷよの戦いでした。
このため、最短手順が研究され、パターン化し、上級者同士の戦いでは両者が全く同じ動きをすることもしばしばありました。
両者が同時に同じ攻撃を発動し、同時に画面が埋め尽くされる。
この時、処理判定の都合で、1プレイヤー側が勝ったことになって終わりです。
「相殺」は、これを回避し、対戦をより深みのあるものにするための追加ルールでした。
ちなみに、「通」の対戦ルールでもう一つ重要な追加要素、「全消し」はコンパイルが独自に出したアイディアのようです。
2個先のブロックがわずかに見えている、というのもコンパイル側のアイディアではないかな。
#どちらのアイディアも、当時セガ側担当の人が「ほぉ、こんな風になってんだ」と言っていた気がするので。
入社してすぐのころに、ぷよぷよ通の初期バージョンがロケテストに出たと思います。
ロケテスト前にずいぶんとテストプレイをしました。
この頃には、漫才デモも残っていましたし、エンディングも発売版とは違っていました。
それからずいぶん長い時間が開いて…
たしか、次のバージョンを見たのは8月の下旬だったのではないかな。
漫才無くなっちゃって、ぷよぷよの重要な要素であった「キャラの個性」を感じにくくなっていました。
これが無いと、ただひたすら「勝ち進む」だけの、作業感の強いゲームになってしまいます。
対戦相手を、だんだん遅くなるルーレットみたいな方法で選ぶようになっていましたが、キャラの個性がないから相手が変わることの面白みがない。
ある程度慣れると敵の強い、弱いがわかってきますが、そうなると今度は遅くなるのを待って確実に目押しで止められるのでルーレットの意味がない。
いちいち遅くなるのを待たれるとプレー時間が延びるのも、業務用としては問題がありました。
デモ画面にも、なんか勝手にいろんなロゴ入れてました。
(Act Against Aids とかのロゴね)
デモ画面中にこういうロゴ入れるの、本当はいろんな規定があって了解を取るのが難しいんです。
政治・宗教的な主張は入れてはならないことになっているから。
#「ずんずん教の野望」も発売に際して時間がかかったのは先に書いた通り。
たしか、このバージョンではロケテ版とも発売版とも違うエンディングが入ってました。
負けると対戦相手が「下に落ちる」動きがあるのだけど、エンディングでは塔の下の方から、落とされた相手の恨み節が聞こえる。
「ちっくしょ~~」って大きな文字が飛んでいくんです。
…チック症って病気あったよね。
その患者とかから、馬鹿にしてるってクレーム来ないかな、と担当者氏が心配していました。
とにかく、問題点が多々あった。ヒットゲームの続編だけに、問題点は指摘していいゲームにしたい。
でも、部署として「協力しない」ことが決められている。
しばらく悩んでいた担当者氏、このまま行こう、と肚を決めます。
#元の担当企画者は激怒したので、ぷよ通担当者は交代し、登竜門と同じ担当者になっています。
たしか、この頃背景のデザインに六芒星が入っている面がありました。
これは明らかに宗教的なものと認められてしまい、特に海外では規制で販売できなくなる国もあります。
なので、ここは無くしてね、と、リクエストします。
「セガが販売する」契約があるので、ちゃんと各国で売れるようにしておかなくてはならない。
リクエストは、こういう最低限の事務仕事のみ。ゲームをより良くするアイディアなどは、一切なしです。
その後、発売版の最終ロムが送られてきます。
エンディングは変わっていました。六芒星も五芒星(星型)になっていました。
致命的なバグなどが無いことだけ確認して、そのまま発売されます。
残念ながら、コンパイル側の事情は一切知りません。
作っていたほうも、「通」は納得して発売したのではないと思います。
漫才デモ、家庭用発売の際には作り込まれていましたね。
多分、締め切りの都合とかでやむを得ず無くしたのではないかな。
2016.9.6 追記
当時コンパイルでSFC版ぷよぷよのプログラムを作った、じぇみに広野さんが、当記事を読んだうえで Twitter で思い出を語ってくださいました。
許可をいただけましたので、引用させていただきます。
うん。アドバタイズデモが簡易化されたのも同じ理由。
>多分、締め切りの都合とかでやむを得ず無くしたのではないかな。(2015-03-06)https://t.co/ELSa08fX1o— じぇみに (@jeminilog) 2016年9月2日
まあ「相殺」は誰の発案かとかいう話以前で、たぶん誰が2を作っても絶対入ってたと思います。なお実はSFC版の1でもテスト用の相殺ルーチン入ってます。私が移植したFCのROM版にも相殺用のコードが入ってるようなー
— じぇみに (@jeminilog) 2016年9月2日
全消しは誰が言い出したか忘れた(私の可能性も含め)。私が作らなきゃ入らなかったと思われるのはクイックターンで、入らなかった可能性が高いのはNEXT-2だろうか。あと3色モードも私でないと入らなかった可能性はある。
— じぇみに (@jeminilog) 2016年9月2日
たしかに、相殺は誰でも入れたくなるアイディアかもしれません。
どちらが言い出したではなくて、当然入るべきものだったのでしょう。
そして、クイックターン。申し訳ありません。「通」での、ものすごく重要な改良点なのに書き忘れていました。
落ち物パズルの始祖であるテトリスは、ブロックが接地するとその時点で操作ができなくなりました。
しかし、業務用テトリスでは、落ちてからも一定時間操作が可能です。
これにより、どんなに落ちる速度が上がっても操作して消すことが可能になり、アクション性もパズル性も上がります。
ところが、ぷよぷよでは「幅1の、縦に長い穴」に落ちてしまうと、何もできなくなるのです。
左右に動けないのはもちろん、回転するのにも「幅2」の場所が必要ですから。
これを解決したのが通で導入された「クイックターン」で、ボタンを2連打することで 180度の回転を行います。
ぷよぷよでは2つのぷよがくっついて落ちてくるので、回転というより「色の入れ替え」ですね。
これにより、最後の瞬間まであきらめずに戦うことができるようになりました。
まあ全体的に「2作るならこの程度は入れないとね」を消化した感はある。そして前に言ったがAIを強化できなかったため対CPU戦では2連鎖目の配点を高くしてCPUにやや有利にしてある。ずっこい。
— じぇみに (@jeminilog) 2016年9月2日
漫才はやり損ねた分、その後のコンシューマー版で好き勝手にいろいろ展開していったが。ところでなぜエンディングでサタンは落ちるときに羽使わなかったのだ。
— じぇみに (@jeminilog) 2016年9月2日
僕としては、通のルールは、シリーズ中で一番バランスのとれた、過不足のない物だったと思っています。
本文書いた時にはなにか批判的な書き方になってしまってますが(この話書いてよいものだろうか…と悩みながら書いたので文体が固い)、AM1研部署内にも、ぷよぷよが好きな人は多くいました。
ぷよぷよでは、とにかく速く5連鎖組んだ方が勝ち、という戦いになってしまうので、達人域になると全く同じ動きをしていました。
でも、通では戦略に幅が出ました。
我慢して粘って6連鎖を組んだり、さっさと5連鎖組んだうえでさらに連鎖組んだり、個性が出て見ているだけでも面白いものでした。
開発中のテストプレイの頃から多くの人が対戦を楽しみ、よりよくするための意見なども多数出ていました。
しかし、本文中に書いたような理由により、それらの意見が伝えられることはなかったと思います。
そしてコンシューマー版での展開…
僕も御多分に漏れず好きだったので、サターン版は買っていますがほかの機種用は見ていません (^^;;
調べてみたら、漫才デモのわずかな差をまとめたページがありました。参考まで。
#僕自身は、高校の頃に MSX2 を持っていて、DiskStation も創刊準備号から買っていました。
もちろん、元ネタに当たる魔道物語も遊んでいます。
キャラクターが好きだったので、漫才デモがコンシューマー版で復活したことが本当にうれしかった。
スーパーファミコン版の移植に関する権利とか恩義とかの問題は私の手に余るので触れない。なお余談だが最初はSFC版を私が作る予定はなかったのであった。本来の担当はアーケードの通だったんで。
— じぇみに (@jeminilog) 2016年9月2日
個人だと許容できることが、個人より大きな組織…会社だとか国家だとかが絡むと、許容できなくなることがあります。
先に書いたように、部署内の人はぷよぷよが好きでしたし、関係がこじれてからも、いいゲームにしたくて意見を出したりしていました。
でも、上層部としては「職務上の判断」として、利益を求める必要があり、SFC版を問題にしないわけにはいかなかったのでしょう。
しかし、「利益を求める必要」はコンパイル側にもあります。
SFC版を出すのは、営利企業として当然の判断だった、と思います。
不幸なのは、ぷよぷよがこれほどのヒットになるとは思わず、後の移植などに関しての取り決めを最初の契約時に交わしていなかったことなんでしょう。
大金を目にしたとたん、仲が良かった人が喧嘩をし始める…という話は、世の中にいくらでもあります。
この記事を書いたのは、誰かが残さないと忘れ去られてしまいそうな話を記録しておきたいためです。
どちらが悪い、という話ではありませんので、読んだ方には、勘違いのないようお願いしたいです。
じぇみにさんは、これ以外にもぷよぷよ開発の面白い話題をツイートしてくださっていますが、ここのページに関係しそうな部分だけ引用させていただきました。
一連のツイートは、こちらから読むことができます。
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