今日は NORAD が設立された日(1958)
Whirlwind I (以下 WWI) という、コンピューター黎明期の機械があります(1948年作成開始)。
当時のコンピューターは1ビットづつ計算するのが普通だったのですが、WWI では 16ビットを同時に計算します。
当時のコンピューターのメモリは、速度は遅いが容量の大きい水銀遅延管か、速度は速いが容量の少ないウィリアムス管のどちらかでした。
しかし、WWI では「コアメモリ」という全く新しい、高速で容量が大きく、値段も安いメモリを使用します。
当時のコンピューターは、紙テープなどでプログラムし、動き出したら結果が出るまで待つのが普通でした。
しかし WWI にはキーボードとディスプレイが供えられ、ディスプレイを直接触れることで動作を指示することが可能でした。
とにかく、コンピューターの常識を作り変え、現代のコンピューターの基礎を作り上げた機械でした。
ただ、設計が予定より遅れたため、当初の作成目的を失ってしまいました。
作成開始早々に予算援助が打ち切られ、作成中止の危機に見舞われます。
そのころ、アメリカに続いてソ連が核兵器の開発に成功します。
実はアメリカの核開発陣にソ連のスパイがいて、研究データなどがソ連に伝わっていたためでした。
アメリカはこれに慌てふためきます。
もし、ソ連がジェット爆撃機に核を積んで、低空からアメリカ領土に侵入したらどうなるでしょう?
レーダー基地が機影を捉え、本部に伝達され、本部から最寄りの空軍基地にスクランブル発信が命じられ、迎撃に向かう…
これだけで10分以上かかるでしょう。ジェット爆撃機なら、その間に都市を一つ壊滅させています。
空軍はかつてない危機に戦慄します。この状況を救う手立てはないものか。多くの学者に研究を依頼します。
ここで、WWI の存在を知る学者が、WWI を使って「自動化」を行えば、スクランブル発信までの時間を劇的に短縮できるだろう、と進言します。
アメリカの海岸線に多数のレーダー基地を多数作り、それらの情報を WWI に集約します。
異常を感知すればすぐにオペレーターに警告し、同時に最寄りの空軍基地に発進への準備を通知します。
実際にオペレーターが危機を確認すれば、すぐにスクランブル発進が可能となっています。
このシステムは、SAGE と名付けられます。
半自動式防空管制組織 (Semi-Automatic Ground Environment) の頭文字を取った名称です。
アメリカを守るためには、よりソ連に近いカナダも包括的に防御する必要がある、と考えられました。
そのため、SAGE はアメリカ空軍の組織ではなく、カナダと共同で運用される独立組織である必要がありました。
そこで設立されたのが、北米航空防衛司令部 (NORth american Air Defense command) 、通称 NORAD です。
その後、宇宙からの攻撃の可能性も出たため、組織名の air (航空)の部分は aerospace (航空宇宙)に変更となっていますが、組織自体は存続しています。
ところで、WWI をベースとして TX-0 という機械が作られています。
当時はコンピューターの使用には「1分いくら」という高額料金が課せられる時代でしたが、TX-0 は試作機だったこともあり、学生に無料開放されます。
様々なゲームが作られるのですが、そのうち一つに Tic-Tac-Toe があります。いわゆるマルバツ。
そして、このゲームは単に「テレビゲーム」なのではなく、人工知能研究黎明期の成果の一つです。
こんな単純なゲームであっても、コンピューターが人間と同じように考え、ゲームの相手をできるということが驚きだった時代です。
WWI という機械があり、その機械をベースとした SAGE を NORAD が使用しています。
同じく WWI をベースとした TX-0 は人工知能研究に使われ、マルバツゲームが動いていました。
そして、NORAD は核戦争を未然に防ぐための防衛組織です。
核戦争と、マルバツと、人工知能。
ここに三題話が生まれます。「マルバツに勝者がいないように、核戦争にも勝者はいない」と悟る人工知能!
1983 年公開の映画「WAR GAME」の舞台は NORAD です。
これを見た当時は「そのオチはないだろう」と苦笑いしたのですが、今なら事実に基づいたストーリーだとわかります。
WWI を作ったのは MIT なのですが、SAGE のために大量生産したのは IBM です。
当時の IBM は、コンピューターの作成を始めたばかり。
UNIVAC I を作った UNIVAC 社の方が有名で、大手でした。
しかし、当時としては最先端の技術を多数盛り込んだ WWI の量産を請け負います。
これにより最先端のコンピューター技術を得るとともに、莫大な利益を上げます。
この頃から IBM はコンピューター大手になっていきます。
NORAD といえば、毎年サンタクロースの追跡を行っていることで有名です。
NORAD の設立前、アメリカ空軍に Continental Air Defense Command (中央防衛航空軍基地)、通称 CONAD という組織がありました。
1955年12月24日。CONAD の司令部に間違い電話がかかってきます。
サンタクロースとお話がしたい、という子供からでした。
電話を受けた司令官は、ここは空軍の基地でサンタはいないと子供に伝えましたが、子供の夢を壊さないようにこう付け加えました。
「空軍のレーダーはアメリカ上空を飛ぶものをすべて捉えている。
サンタクロースのソリは、現在○○にいるよ」と。
その後も続々と間違い電話がかかってきます。どうやら間違いではなく、明らかに CONAD 充てに電話をかけてきているようです。
調べると、老舗スーパーマーケットチェーンのシアーズの新聞広告に「サンタクロースと話ができる」電話番号が掲載されており、ミスプリントで CONAD の司令部の電話番号になっていることがわかりました。
司令官は、子供の夢を壊さないように、サンタクロースの現在位置を教え続けるように部下に命じます。
このときは、誤植による1回きりの「イベント」でした。
しかし翌年、AP通信社とUPI通信社が、CONAD が今年もサンタクロースを追跡するのを待っている、と伝えてきたのです。
彼はこの要望に応え、CONAD 公式の「サンタクロースの追跡報告」を発表しました。
1958年、CONAD を母体として NORAD が生まれます。
サンタクロースの追跡任務も NORAD に引き継がれました。
…個人的な意見としては、最近はちょっとやりすぎかな、と思います。
翌日になって新聞とかに公式発表として「サンタクロースは全米中を飛び回って、何件の家にプレゼントを配っていった」とか載せるのは夢があるけど、Google Map 上で現在地を表示し続けたりするからね。
気の利いた洒落っていうのは、控えめだから楽しいのであって、調子に乗りすぎるとすべてをぶち壊してしまう。
まぁ、上に書いたように「ぶち壊し」な悪乗りだけでなく、電話スタッフが「サンタさん」として子供たちと通話したりもするそう。
スタッフは主に NORAD 勤務の軍人なのだけど、みんなボランティアで任務外の仕事。
軍人が、こういう平和な活動をできる世の中が続くといいと思います。
同じテーマの日記(最近の一覧)
関連ページ
別年同日の日記
申し訳ありませんが、現在意見投稿をできない状態にしています。 |