2016年11月15日の日記です


新しい文盲  2016-11-15 14:32:34  その他

5年前、東京大学入試に挑む人工知能「東ロボ君」というプロジェクトがスタートして話題となった。

そして今年、東京大学は諦めて進路変更、という形でプロジェクトは断念された。


まぁ、5年というのはいい区切りだし、東京大学は「高い目標」として設定されていただけなのだろうから、これでいいのだろうと思う。

話としては東京大学を目指すのは面白かったのだけど、ある程度限界がわかったところでプロジェクトの成果を取りまとめ、次につなげようということだろう。




最近AIがやたらと世間をにぎわせているのだけど、これはAIによる「自動認識器」が急激に実用段階に入ったから。

主にディープラーニングと、自己強化学習だな。


詳しく書くと長くなるので、知りたい人は以前に書いた記事を読んでもらうおう。


ディープラーニングや自己強化学習は、「うまくいく、と経験則にわかっているが、なぜうまくいくのかは説明できない」ものだ。

ついでに言えば、上手くいく問題の範囲は結構狭くて、それ以外の分野では全く役立たない。


ただし、この守備範囲が従来のコンピューターが苦手とする範囲だったので、組み合わせによって可能性は広がるのは事実。



ところで、AIという言葉を考案し、AI研究の第一人者だったマービン・ミンスキーは、こうした「よくわからないけどうまくいく」を嫌っていたようだ。



彼は、AI研究を通じて、「人間の知的活動」を知りたいと考えていたから。

プログラムは理論的なものしか扱えず、そのプログラムによって人間と同じように考えられるAIが出来上がれば、それは人間の知的活動がどのように行われているかを示すことになる、と考えていたようだ。




さて、東ロボ君は、マービン・ミンスキーの考えに沿って作られていたAIだったようだ。

東京大学入試に挑む、という目標を持っているけど、合格できればなんでもいいというわけではない。

このAIを作ることで、人間がどのように考え、どのように答えを導くのか、ということを調べるのが目的の一つだったらしい。


東大合格には点数が足りないものの、大学受験生の平均点レベルには達している。

つまり、東大合格するような天才ではないにせよ、普通の子供の「考え」レベルには達しているわけだ。


そして、ここで問題が明らかになる。

平均点に達した東ロボ君、実のところ「文章を読んでも全く理解できず、非常に頭が悪い」のだ。

つまり、これが日本の平均的な若者の姿だということになる。


詳しくはこちらの記事を読んでもらうといいだろう。


AI研究者が問う ロボットは文章を読めない では子どもたちは「読めて」いるのか?



さて、先に書いた疑問にぶち当たり、東ロボ君プロジェクトの派生研究として、多くの人に「文章を読めているか」のテストが行われた。

そもそも、どういう状態を「読めている」とみなすか、という点から考慮され、新たなテスト形式が考案された。


この結果は、驚きとともに今年の夏の新聞をにぎわしたのを覚えている。

同じプロジェクトだ、というのは気づいてなかったけど。


簡単な文章で、「答えがそこに書かれている」問題を読ませても、正しく答えられない子が多い。


結論としては、5割の子供は教科書に書かれてあることが読み取れていない。

2割の子供は基礎的なことが一切わからない。



まだ予備調査段階で、上のデータは「公立中学校に通う340人」にテストした結果だそうだ。

今後、1万人程度の調査が予定されている。


救いなのは、「公立中学校」であることだ。誰でも入れる。

これが、受験が必要な私立中学校だと、基礎が理解できてない子供は 5% まで減る。

それでも 5% はわかっていないのだけど。




さて、東ロボ君プロジェクトを推進してきた教授としては、原因が教育方法にあるのか、貧困による教育機会の逸失にあるのか…などを調査する予定だそうだ。


それは結構なこと。ぜひ進めていただきたい。

周囲の大人の努力で子供の能力が伸びるのであればやらないといけないし、彼女らの立場ではそれが仕事だろう。


その一方で、僕としては別の考えが頭をよぎる。


これは、10年くらい前から話題になっている、「新しい文盲」ではないのかな?


調べてみると、「機能的非識字」と呼ばれるようだ。

「非識字」の文盲と違い、識字…字の理解はできる。ただ、そこに書いてあることが理解できない。字が機能していない。

だから「機能的非識字」。


上にリンクした Wikipedia のページには、アメリカとイギリスの研究例が載っている。

アメリカでは、書かれていることの意味が全く理解できない人が、成人の 14% と見積もられている。

先のテストでいう「教科書が読み取れてない」のレベルについてはわからないけど、ちゃんとすべてを理解できる人は人口のたった 13% となっている。


イギリスの例では、6人に1人がリテラシー能力がない。16% 程度、ということだろう。

42% が「基礎力がない」というのだから、これが「教科書が読み取れていない」レベルに相当するのだろう。



今すぐに資料を示せないのだけど、以前に読んだ話では言語による違いは結構大きいらしい。

アメリカもイギリスも「英語」なので、日本語とは結果が違うかもしれない。


ただ、問題は僅かな違いにあるのではない。

文章を読んでも意味が理解できない、という現象が日本特有の問題ではなく、世界中で見られる普遍的なものだ、ということだ。




ディスレクシア(難読症)、という障害がある。映画監督のスピルバーグが「自分は難読症だ」と告白して話題となった。


文盲・非識字というのは、従来は「教育の機会が得られなかった」ためになるものだと考えられていた。

しかし、難読症は教育の問題ではなく、脳機能の障害だ。


そして、知的障害を持つ人の多くが特定分野で素晴らしい才能を見せるように、難読症でも素晴らしい才能を持つ人が多い。

先に挙げたスピルバーグもそうだし、作家であっても難読症の人はいる。


(ただし、その才能に気付かなかったり、周囲の理解が無かったりすると、「文字が読めない」ための不都合を受けやすく、むしろ社会的な底辺層に甘んじなくてはならない場合も多い。)



難読症の人は、文字が読めないだけで、頭が悪いわけではない。

誰かに音読してもらったり、今ならコンピューターで音読させれば、ちゃんと本の内容を理解できる。


難読症もまた、言語により発生割合が違うことが知られている。

全く読み書きできない、という場合もあれば、読めるけど書けない、読み書きできるけど複雑なものは苦手、などもある。


軽いものも含めた場合、アメリカでは人口の2割程度に何らかの難読症の症状がみられる、とする研究もある。


#ちなみに僕は、「漢字読めるけど書けない

 「ていねいなあいさつ」って漢字で書けますか?




もともと人間は言葉、音声でコミュニケーションを取ってきた。

特殊能力としてではなく、庶民でも文章を読むようになってから、せいぜい200年程度の歴史しかない。


生命として…どころか、人類の歴史としても、文章なんて「読めなくて当たり前」なのだ。

文章で示されても脳が意味を理解せず、音声で聞いてやっと理解できるとしても、何の不思議もない。



その一方で、学問は膨大な知識を蓄えた「本」を中心として発展してきた。

学問、教育の立場にいる人が、文章を読めないことを問題視する理由はわからなくもないが、「皆が読めるようになるべき」と考えること自体が、学問をやっている者…強者の奢りかもしれない。



先に書いた夏の新聞記事では、アクティブラーニングなどを導入する前に「教科書を読む」という基礎を徹底する必要があるのではないか、と提言している。


でも、5割も読めていないというのは、決して読めない人の学習方法が悪いとかではなくて、そもそも「本を読ませる学習方法」が間違えていたのかもしれない。


その場合、むしろコンピューターを使い、能動的に学ぶアクティブラーニングのほうが良い勉強方法である、という可能性だってあるだろう。




多分、この問題はずっと昔からあって、今まで気づかれずにいただけだ。

でも、200年前までは文章を読む必要なんてなくて、問題にはならなかった。

今は問題になるのだけど、気づいたばかりなのでまだ正解は見えていない。


何か良い学習方法が開発されて、ちゃんと勉強すればすべての子が教科書を正しく読めるようになる、というのであれば、小学校はみっちりと教科書を使った学習をするのも良いだろう。


でも、ディスレクシアのことも考えると、「読めない」のは学習方法の問題ではないように思う。

ならば、むしろ教科書に頼る教育から離れたほうが良いのではないだろうか。



2016.11.28追記

その後、東ロボ君のプロジェクト報告会があり、記事になっています


しばらく前にテレビ番組で東ロボ君のことをやっていて、どのように問題を認識し、解いているかなどの全体構成も紹介されていました。

僕はこの番組で大まかな内容を知りました。


上の記事でも詳細を解説しているので、興味のある方は読むと参考になると思います。




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