コラムス 97 の話の続きです。
通常は、サウンド担当は、ゲームが完成に近づいてからアサインされます。
…といっても、コラムス 97 は開始当初から1か月程度しか期間が無かった。
すぐに、N先輩がアサインされました。
企画Mからは、基本的に初代コラムスのイメージで、という注文とふわっとした難しい課題が与えられます。
「うるさいゲームセンターの中でもはっきりとわかる、宝石の割れる音」
と
「物静かで神秘的な、ゲーム展開によって変わるBGM」です。
注文を出したMですら、むちゃくちゃなことを言っている自覚はあったそうです。
でも、コラムスなんて地味なゲームだから、お客さんを引き込む仕掛けが欲しい。
ゲームセンターで別のゲームを遊んでいる人でも、遠くにいて「連鎖した」とわかるようにしたい、という意図でした。
N先輩の最初に作ってきた「宝石の割れる音」は、まさに注文通りのものでした。
でも、別の可能性もあるのか確かめてみたい。もういくつか作ってみてください、とお願いします。
これ、N先輩は困ったらしいです。そもそも「宝石の割れる音」なんて、誰もの頭の中にあるイメージではない。
こういう時の音って「イメージ通り」が重要なのに、そのイメージが無いのです。
いくつか作ってもらったのですが、やはり最初の音に決定しました。
でも、もう一つの注文…「ゲーム展開によって変わるBGM」の方は、紆余曲折がありました。
まず、初代コラムスのBGMを説明しないといけないでしょう。
初代コラムスの音楽は、ゲーム展開に合わせて演奏内容が変わります。
具体的には、ある程度宝石が積み上がると「ピンチの曲」に変わり、宝石が減るとまた通常の曲に戻ります。
ただ、これが急に切り替わるのではなく、それまで流れていた曲の「区切り」までは流れてから、違和感なく次の音楽に移行するのね。
曲にいくつかの「区切り点」が設定してあって、違和感なく切り替えられる工夫があるのです。
まず、そもそもそういう曲を作れるのか、という調査から入ります。
作曲のN氏が、サウンドドライバを作成した Hiro師匠に尋ねたところ、そういう機能は用意していない、とのこと。
じゃぁ、せめて展開によってテンポを変えられないか。
その程度ならできるよ、ということで、改造版サウンドドライバが届けられました。
そして、書きあげられたのがそのまま発売になった曲です。
非常にゆっくりとしたテンポの、心癒される曲。
でも、この曲ってよく考えられていて、少し速いテンポのリズムの上に、ゆっくりとした主旋律が乗る構造になっています。
通常速度で聞いていると、ゆっくりの主旋律が耳に入って、落ち着く曲です。
でも、テンポを 1.5 倍ほどに挙げてみると、リズム部分が速すぎて、煽られる感じに変わります。
宝石の積んである高さに合わせてテンポを変えることで、焦燥感を演出できるような曲なのです。
#Youtube を PC で見ると、再生速度調整ができます。
コラムス97の動画などで、1.5倍速再生してみると判り易いかと思います。
さすがN氏、いい曲を書いてくれた…と喜んでいたのですが、テストプレイ用の試遊台で音が止まります。
頻繁に内容を書き替えている開発中は気づかなかったのだけど、6時間動かせば確実に止まる、という感じかな。
サウンドドライバが暴走するようです。
Hiro師匠のところに報告が行き、修正版が作られます。
ところが、修正しても修正しても、治らない。
今度こそ治っているはず…というやり取りを何度したことでしょう。
結局、締め切り直前に「これで治らなかったら、テンポを変える、という仕様は諦める」ということになります。
…やっぱり治りませんでした。
これ、コラムス97で唯一の心残りだった点。
BGMは今でも好きだという人が多いのですが、テンポを変えることを前提に書いた曲だということはあまり知られていません。
消した宝石の数が約 2000 個になると、コラムス 2000モードとなってBGMが第九に変わります。
これは、企画Mのリクエスト。
彼は当時エヴァンゲリオンにハマっていた。
…いや、僕エヴァいまだに見てないからよくわかんないのだけど、なんか印象的なシーンで第九流れるの?
とにかく、ゲームセンター中に響くような大音響で、って無茶な注文。
これも、地味なゲームだから注目度を上げようとする策の一つでした。
でも、音楽を作っていて、本体のボリュームまでは制御できません。
Mとしては、第九以外のボリュームをすべて絞って、店舗側に筐体のボリュームを大きめに設定させよう…
というところまで考えたみたいなのだけど、さすがにそれはやめました。
でも、第九の演奏はシンプルで、音を厚めに、力強くしてある。
少しでも店中に響くように、という名残なのね。
音楽の話ではないのだけど、ついでなのでこのモードについて書きましょう。
コラムス97 では、宝石の落ちてくる速さなど、難しさを「レベル」で表現します。
コラムスでは、宝石が3個づつ落ちてくるため、「3」を単位としていることが多いです。
レベルは、宝石を 30 個消すごとに上がります。
開始時のレベルが選べるので、宝石の数とレベルは必ずしも一致しないのだけど。
さて、30*66 = 1980 個宝石を消したときに、落ちてくる宝石の速度が急に落ちます。
ゲーム中最低速度。開始時のレベル 0 よりも遅い、「レベル -1」の速度です。
そして、連続して5個の魔宝石が落ちてくる。
宝石の種類は6種類だけど、わかっている人なら全部消せます。
宝石をきれいさっぱり消し去ると、背景には作成スタッフの名前が。
少人数で作っているのがわかりますね。
この「業界記」、基本的にスタッフの名前を特定できないようにしているのですが、どうせバレるのでイニシャルで書いてます。
実は、宝石がゆっくり落ちるのは、このスタッフの名前を見てほしいからでもあります。
もう一つは、この後最高速に上げるのだけど、「集中力を途切れさせて難しくする」ための意地悪。
そして、30個消して消した総数が 2010 個になると、また一つレベルが上がり「コラムス 2000モード」になります。
先に書いたように、BGMが変わり、速度がそれまでの最高速の、いきなり2倍になります。
ついでに言えば、「接地」してから「固まる」までの速度も半減している。
一番遅い状態から、一番速い状態への落差。
もう、明らかに殺しに来ています。
当時のゲーム時間の基準は「100円で平均3分」とされていました。
ここまできたお客さんはかなり長い時間遊んでいるはずなので、そろそろ終わって、という開発者側のお願いです。
このモードでのBGMもループが非常に短いのですが、「どうせこの速度で長く遊べる人はいないだろう」という理由からだったりします。
だけどね、本来「終わりのないゲーム」であるコラムスを、時間が来たからおしまい、とはしたくなかった。
ゲームセンターの人が儲からないことには仕方がないのだけど、そのためには遊んでくれる人に納得してもらわないといけない。
ここで背景が真っ黒になるのは、そのため。
超高速にして殺しにかかると同時に、視認性を良くして「まだ戦える」状態を整えたかった。
十分戦って終わるのであれば、プレイヤーとしても満足できるでしょうから。
実際、この鬼のような難易度に応えてくれた人々がいます。
「2000 からが本番」という言葉を生み出し、コラムス 2000への挑戦をするプレイヤーが一定数いたのです。
そして、一部の方は見事に壁を乗り越え、延々と遊び続けてくれました。
…ケイブシャークってなんだっけ。
でも、非常にうれしかったです。
やり込んでいただけるのは、制作者への最高の賞賛なのです。
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