2020年08月17日の日記です


Windowを閉じるボタンの左右位置  2020-08-17 17:54:40  コンピュータ

6年も前に書いた「ボタンの左右位置」の話は人気で、今でも時々参照される。


スマホ、Mac 、Windows で OK Cancel ボタンが並ぶときに、どちらが左に来るか?

なぜそうなっているか? を解説した記事だ。



iPhone と Mac は、OK が右に来る。

Windows は OK が左に来る。


Android は最初期のころは Windows を真似ていたが、現在は iPhone と同じだ。


Windows は Mac を真似して作ったが、真似だと言われないように逆にしたのだ、という噂がある。


でも、それはでたらめだ。

Windows で OK が左になっているのは、ちゃんと理由がある。




この記事が先日も参照されていたのだが、その人は「ウィンドウを閉じるボタンの位置」を気にしていた。



MacOS では、閉じる・最小化、最大化ボタンはウィンドウの左上についている。

それに対し、Windows では右上についている。


ここでまた、「Mac の逆にしたのでは?」説が出ていた。


いや、それもそんな理由ではなく、ちゃんとした歴史的経緯があるのだ。


因縁話ばかりしていると老人の仲間入りだとは思うが、ネットを探すとこうした情報があまりないようなので書いておこう。




まず、MacOS が「閉じるボタンが左上」なのは良い。これは初代から変わらない。

でも、その他のボタンも左上になったのは、MacOS X からだ。 MacOS 9 までは違った。


初期から 7 まで、拡大ボタンは右上についていた。

左に閉じるボタン、右に拡大ボタン、という左右対称デザインにしていたのだ。


最小化、という概念はなかった。

なぜなら、MacOS はシングルタスク OS であり、最小化して「何も画面に表示しない」ことに意味がなかったためだ。



その後、System 7 (MacOS 8 以前は、単に System と呼ばれていた)の時にマルチタスク動作が可能になり、ウィンドウがたくさん重なる状態が邪魔になった。


そのため、7.5 で「ウィンドウシェード」という機能ができた。


「窓」にかかるシェードカーテンのように、巻き上げられる機能だ。

具体的には、タイトルバーだけに「最小化」される。


この機能は、タイトルバーをダブルクリックすることで行われる。新たなボタンは設定されない。

本来、Mac では「ダブルクリックは開く」という操作だったのだが、ダブルクリックでウィンドウを「閉じて最小化する」というおかしな操作だった。


当初考えていなかったマルチタスクが搭載されたための、苦肉の策だ。



MacOS 8 では、シェードのためのボタンを増設し、右端に付けた。

並びは拡大、シェードの順で、閉じるボタンが左端なのは変わらない。


いろいろと操作が混乱して、扱いにくくなったため、MacOS X になった時に大幅に UI が改められ、ボタンが全部左に寄せられた。


これが、現在の MacOS X の形になる。




Windows 1.0 は、左上に閉じるボタンがあり、右上に最大化ボタンがあった。

つまり、Mac と同じだ。真似と言われないように逆に、なんてことはしていない。


ただし、「閉じるボタン」は、閉じる以外の機能も持っている。

つまりメニューボタンなのだけど、一番重要な機能は「閉じる」で、ダブルクリックで閉じられた。


ダブルクリックは、Mac では基本的に「開く」という操作だとされた。

それに対し、Windows では「示したオブジェクトの、一番よく使う操作」だ。


ファイルアイコンで一番使う操作は、開くこと。

メニューで一番使う操作は、閉じること。


そういう操作体系であり、ダブルクリックで閉じることを混乱だとはとらえない。



しかし、Mac と違って、最初からマルチタスクだった。

そのため、画面上に多数のウィンドウが表示された。


ごちゃごちゃして邪魔なので、2.0 で最小化ボタンが追加された。

このボタンは、右端の拡大ボタンの隣に設置された。

この時「拡大」ボタンは「最大化」ボタンと名称変更した。最小と最大、という統一感を出したのだ。


(MacOS 9 でシェードが追加されるよりも前の話だ)


まぁ、多くの人が見たことがあるのは、3.0 以降だろう。

ここでも見た目は変わらず、左上に事実上「閉じる」ボタンである、メニューボタン。

右端に最小化と最大化が並ぶ。



このデザインが大きく変わったのは、次の Windows 95 になった時だ。

「閉じる」ボタンの機能はよく使うので、ダブルクリックしなくてもよいように、左上のボタン群に追加された。

ここで初めて「最小化・最大化・閉じる」の3つボタンデザインができる。


(MacOS X の登場はずっと後だ)



左上のボタンは、一見廃止されたように見えるが、「プログラムのアイコン表示」という形で残った。

見た目はボタンではないが、押すとメニューが出るし、ダブルクリックで閉じるのだ。


実は、この機能は今でも残っている。

タイトルバーを消してしまっているような特殊なソフト…Chrome などでは動かないけど、タイトルバーがあり、左端にプログラムのアイコンが表示されているウィンドウでは、アイコンダブルクリックで閉じる。


だから、「Windows の閉じるボタンは右で、Mac と逆になっている」というのが間違いだ。

今でも Windows の閉じるボタンは、左にも残っている。





余談になってしまうが、なぜ Windows で、「ダブルクリックで閉じる」なんていう面倒な操作を標準としたのか書いておこう。


これは、Mac と Windows の「プログラム」に対する観念の違いに起因するものだ。


Mac では、ウィンドウを閉じてもプログラムは終了しなかった。

Windows では、ウィンドウを閉じるとプログラムが終了した。


「プログラムの起動」はコスト(=時間)のかかる処理なので、うっかり終了してしまうのはよくない。

そのため、閉じる操作を「クリック」ではなく、「ダブルクリック」としていたのだろうと思う。


その頃の Windows では、1つのプログラムは、基本的に1つのウィンドウを使用した。

複数のウィンドウを開きたいときは「ウィンドウ内ウィンドウ」を使うようになっていた。



これが改められたのが、Windows 95 から。

1つのプログラムで、複数のウィンドウが開けるようになった。

プログラムを終了するには、メインウィンドウを閉じるか、すべてのウィンドウを閉じる必要がある。


また、ファイル管理が高度・高速になり、プログラム起動のコストが下がった。


こうなると、「ダブルクリックで閉じる」は面倒くさい操作だ。

これが、従来互換の「ダブルクリックで閉じる」も残したまま、新たな「閉じる」ボタンを増設した理由だと思われる。




NeXTstep …知っている人は少ないか。


Jobs が Apple をやめた後、新たに興した会社で作ったコンピューターの OS 。

一応、現在の MacOS X の元になっている。


この UI では、「右に閉じるボタン」になっている。


対抗して逆にしたのだろう、というのであれば、Windows よりも、NeXTstep の方が「対抗した」のだろう。

Jobs は、自分を追い出した Apple 社を見返してやろうという意気込みでこの OS を作ったのだし。


ちなみに、左端にもボタンが表示されるが、この内容・個数は状況によって変化する。

(windows や Mac でも、実のところ「3つボタン」の内容は状況で変化する。それと同じことだ)



Motif … UNIX 上で最初期に「統一された GUI デザイン」をやろうとしたツールキット。


Microsoft と IBM も協議に参加しており、かなり意見を出したようだ。

結果的に、Motif と Windows 3.0 と IBM の OS/2 は、似たインターフェイスを持っている。


IBM は UNIX も PC もやっていたし、その両方で使い勝手を統一したかったろうから、似ているのは必然。




最後の方は余談なのだけど、歴史を見ると、Mac も Windows も、「左上に閉じるボタン、右上に拡大ボタン」という、共通の GUI から始めている。


その後、それぞれの事情によりボタンが増えるが、基本的に Windows が先行し、Mac が後追いする形でボタンが増えていく。


Windows が「閉じる」を右側に増設したのはその後だが、先に書いたように互換性のために左にも残してある。

すでに、そのアイコンで閉じられることを知っている人は少ないと思うけど。




その後、MacOS X の登場時に、Mac の GUI は大きく変わる。

この時に、右にあったボタンも全部左に寄せられ、Windows と逆、という印象になった。


…そう考えると、「Windows が対抗して逆」なのではなく、「Mac が対抗して Windows と逆にした」のだね。

(NeXTstep で Mac の逆にした Jobs だからね…)



まぁ、実際のところは対抗心などではなく、「左上に閉じるボタン」という、初代から続く UI を残したまま、右と左に分散していた「ウィンドウを操作するボタン」を集中させた結果なのだと思うけど。




翌日追記


急に気になって、Apple Lisa OS を調べてみた。


Lisa は Mac の元になった機械で、のちには Mac と同じ OS を搭載できるようになっていたが、当初はオリジナルの OS を搭載していた。



Lisa では、ウィンドウ左上にプログラムを意味するアイコンが表示されており、そこをクリックするとウィンドウを閉じた。

この点では、今も続く Windows の「左上のアイコンクリックで閉じる」は、Lisa 由来かもしれない。



Lisa は Mac と違いマルチタスクだったが、Window を閉じると同時に、プログラムも終了しているようだ。

(Youtube で見ただけなので詳細はわからないが…)


最大化に相当するボタンはない。最小化も当然ない。

タイトルバーに存在するボタンは、左上のアイコンだけで、これが「閉じる」ボタンを兼ねる。



Mac になった時に、アイコンはなくなって、ただの四角い枠で「閉じる」を意味するボタンになったのだけど、これは Lisa に比べて、Mac は非常にメモリが少なかった、ということと関係するように思う。


そして、やはり最初は「閉じる」ボタンしかない。


「拡大」ボタンがついたのは System 3 からのようだが、System 2 以前の資料が少なすぎて確定できていない。




なんか、調べるほど Windows は「対抗して逆にした」どころか、Lisa / Mac の GUI の正当な後継のように思えてきた…





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