2023年08月31日の日記です


GODAN  2023-08-31 09:43:37  コンピュータ

ここ2か月くらい、Android 用の標準入力システムである GBoard で、GODAN キーボードを使ってみている。


…さて、いろいろと説明が必要だろうな。標準システムでありながら、超マイナーな存在だから。


まず、GBoard は Google が開発した入力システムだ。各国語に対応している。

当然日本語も入力できるが、この入力方法は5種類ある。


・12キー(いわゆるフリック入力)

・QWERTY キーボードによるローマ字入力

・手書き文字認識

・GODAN

・50音表


フリック入力が一般的だろう。スマホで QWERTY は使いにくい気がするが、PC中心の人には悪くないかもしれない。

手書きと50音表は、入力が面倒くさそうだと思うが、機械馴れしていない人には良いのかもしれない。


そして、GODAN だ。一番マイナーな存在だと思う。

でも、一番最後に開発され、それまでの不満点を解消したものなのだ。




スマホ文字入力の歴史。

といいつつ、言語学の話から。



英語で使われるアルファベットも、日本語で使われる かな も、ともに表音文字と一般的には言われる。

音をあらわす文字で、漢字のように1文字で意味を持つわけではない、という意味だ。


しかし、より厳密な分類では、アルファベットは音素文字、かな は音節文字だ。

音素文字は音を最小単位まで分割しており、単体では発音すらできない場合がある。(子音のみの音など)

音節文字は、音を「音節」、つまり、発音できる単位で区切る。そのため、単体で発音が可能だ。


日本語の場合、母音が5種類ある。子音はたくさんあるのだが、9種類で代表され、他の子音はこの 9種類の亜種、という位置づけだ。

そのため、母音5種類に、子音…または「子音無し」の10種類を組み合わせ、一般に 50音と呼ばれる。

(実際には文字の種類は 50ではないが)


ここで、50音表では、子音が同じものを「行」、母音が同じものを「段」としてまとめられている。

行が10種類、段が5種類だな。


以下も、この名称に従って話を進める。


行が10種類に収まる、というのは、数字と相性が良い。


スマホ入力より昔、携帯電話よりさらに昔、ポケベルが流行した際には、プッシュホンのキーで文字を送ることができた。

1回目のキー入力で行を選び、2回目のキー入力で段を選ぶ。

慣れると、50音表が頭に入ってしまい、かなり高速に入力できる。


2回タッチすることで1文字を送る、いわゆる「ツータッチ入力」だ。

この頃は、家の電話や公衆電話からメッセージを送れたが、「入力中」の文字を確認するようなディスプレイはなかった。



携帯電話の普及の際には、ディスプレイが付いた。

入力中の文字が何であるか、確認しながら入力を進められる。


ここで、より分かりやすい入力方法として、テンキー入力が考案された。


ツータッチ入力では、キーの役割が行、段、行、段と交互に変わる。これが慣れた人でないとわかりにくい。


テンキー入力では、キーを行に固定した。そして、連続してキーを押す「回数」で段を選ぶようになった。


お段は5回押さないといけない。「起こそう」という4文字を入れるには、お、こ、そ、の時点で15回、全体では18回ものキー入力が必要となる。

あまり効率の良い方法ではないが、わかりやすかったので普及した。


余談だが、この頃「POBox入力」という日本語入力の発明が現れた。

上に書いたように、1文字の入力の打鍵回数が多い環境では、長い文面はとても入れられない。


そこで、途中まで入れたところで入力したい内容を「予測」して、候補を示し、選べるようにするという方式だった。

今では当たり前の方法になっているが、画期的な入力方法だった。



さて、スマホの時代になり、入力は実際のキーではなく、タッチ入力となった。

テンキー入力の「回数」で段を選ぶ形式は、タッチ入力では使いにくい。実際に押した感覚がないため、人の感覚とコンピューターの認識にずれが生じることがあるのだ。


ここで、POBox 入力の開発者が、また新しい日本語入力の方法を発明する。

「フリック入力」だった。


これは、ツータッチ入力とテンキー入力のいいとこどりだ。

テンキー入力のように、キーの意味は「行」に固定されている。しかし、その後に指を動かす方向により、「段」を指定する。

行と段を交互に指定、という方法はツータッチ入力と同じで、最大5回もキーを押す必要が無い。


まぁ、現在一番普及している方式だから、多くの人が理解していると思う。


2023.11.20 追記

フリック入力について事実誤認があったので訂正。


POBox の開発者は、Apple に入社してフリック入力の開発に携わったのは事実だが、フリック入力は彼の発明ではなかった。


古くは、Apple Newton 用に日本人が開発した Hanabi が同様の仕組みを使っている。


ただ、この方式は、いわゆる「テンキー」を模したものではない。

スマホ向けにテンキーを模したインターフェイスでフリック入力を行う方式は、ミュージシャンの小川コータが iPhone が国内発売される前に考案し、特許を取得している。






フリック入力の弱みは、撥音、拗音、濁音、半濁音、それに数字だ。

最初に、日本語の発音は子音 9種類に「代表される」と書いたが、実際の子音はもっと多い。


これらの子音表現のため、撥音、拗音、濁音、半濁音を使う。

フリック入力は、「代表される」文字の入力に特化しているため、これらの文字は直接入れられない。


とはいえ、これらの文字には規則性がある。

撥音・拗音…つまり「小さな文字」に使われる文字は、濁音・半濁音にはならない。

また、半濁音は「は」行でしか使われない。


そのため、「文字を変化させる」キーが1つあればよい。

通常は、このキーを押せば、その直前に入力した文字が適切に変化する。

「半濁音」を指定する時だけ、文字変化キーをフリックする必要がある、という特例があるが。



そして数字。

フリック入力は、テンキーを「かな入力に」使うことに特化させてしまったため、数字は入力できない。

これが、文章中に数字って結構入るのだ。


アルファベットの入力ができない、というのもあるけど、こちらは数字よりは頻度が少ないだろう。

いずれにしても、「かな」以外を入力するときには、キーボードを切り替えることになる。




GODAN キーボードはこれらの弱点を解消するように作られている。


フリック入力などで使うテンキーは、縦に4つ、横に3つのキーが並ぶ。

GODAN では縦に5つ、横に3つと、1段増えている。

いまさら、プッシュホンから続く「テンキー」に縛られる必要はないのだ。



左の縦1列は、A I U E O の母音が並ぶ。

右の2列は K S T N / H M Y R W の子音が並ぶ。


まぁ、これだけ見れば大体使えるだろう。子音と母音を交互に打てばよい。

両手持ちなら交互に打つのも早いだろうし、片手持ちでもそれほど大変ではない。


濁音を入れるには、子音を右にフリックする。

K は G に変わる。S は Z に変わる。

半濁音は左だ。と言っても、これは H だけ。P に変わる。



拗音はどうだろう。「みょ」と入れることを考えてみよう。


フリック入力では「ま」を選んでから左に動かして「み」にする。動作としては2ストローク。

同様に「よ」を選ぶのも2ストローク。最後に、「よ」を小さくするために「小」を押す。

合計5ストロークが必要だ。


GODAN はローマ字入力なので「MYO」と3文字を入れる。3ストロークで済んでいる。



ちなみに、ローマ字で使用しないアルファベットは、「連想しやすい音」の上方向フリックに割り振られている。

Q は K の上、C は T の上、という感じだ。

(「ち」はローマ字では TI でも CHI でもいいのだから、C が T に紐づけられるのは自然だ)


でも、アルファベットはローマ字変換されてしまうので、英語入力を行いたいときはやっぱりキーボードの変更が必要なんだよね…


#厳密にいえば、キーボードと「日本語入力、英語入力」は、Android では別の概念。

 GODAN キーボードのまま、入力モードを切り替えたってかまわない。

 でも、モード切り替えるなら、僕はキーボードも切り替える。


数字を入れたいときは、下方向にフリックだ。

通常のテンキー位置のキーで、そのまま数字が入力できる。



というわけで、フリック入力では入力できなかった文字も、GODANなら入れられる。


僕の場合、パソコンではローマ字入力しているので、学習コストは低かった。

大体入力できるようになるまでは5分程度。拗音などまで戸惑わずに入力できるようになるまで、3日くらいだったかな。


ただ、数字入力でついキーボードを切り替えてしまったり、最初はそういうことも多かった。

本当の意味で身に沁みついたのは1か月程度たってから。


その後は快適に使っていた。




で、今このタイミングでこの話を書いているのは、そろそろフリックに戻そうかな…

と思い始めたため。


GODAN 、すごい便利なのよ。普通ならこのまま使い続ける。


でも、僕は仕事でいろんなスマホを使うことがある。

先日、デバッグのために iPhone と Android で長い文字入力が必要だったのね。

それも、交互に何度も。


これが、フリック入力したり GODAN 入力したり、切り替えるたびに混乱してイライラする。


ずっと自分のスマホだけ使っていればいいのであれば GODAN は悪くないのだけど、仕事となると選り好みはできない。


弱点を克服したマイナー方式より、多少の難はあっても普及した方式に合わせた方が良い、ということもあるのだろう。


フリックに戻してしまうと、この良さを伝えたい、というモチベーションも下がるだろう。

だから、今のうちに記事をまとめ公表する次第。



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