次女が合唱コンクールの練習をしている。
なんか、近年では合唱の定番となっているポップス曲のアレンジらしいのだが、僕はよく知らない。
長男も長女も知っていたので、本当に定番なのだろう。
ところが、「アレンジ」なのでバージョンがいくつかあるらしい。混声3部が良く使われるものらしいが、次女のクラスでやろうとしているのは混声4部。
そして、次女の割り振られたアルトパートは、混声3部には存在しないパート。
そのままでは参考になるものもなく難しかろう、というので、軽音部の子が打ち込みでメロディの音声ファイルを作って来たらしい。
それで、自分が高校の頃の話を思い出して、子供に語ったのだった。
高校の時の中の良かった友達が、PC-6601 を持っていた。「歌うパソコン」だ。
当時としては音声合成ですら最先端技術だったが、なんと歌うことができたのだ。
合唱コンクールの時に、楽譜を見ても曲がよくわからないから、と、友達が PC-6601 に歌わせ、その歌声をカセットテープに録音したものを学校に持ってきた。
それで聞かせてもらったのだが… これが、とても音痴なんだ。
パソコンなので、音程は正確だ。しかし、テンポが崩れるのだ。
当時のパソコンは、BASIC でプログラムを作ることが多く、音楽演奏も BASIC で作っていた。
(MML 、という音楽をアルファベットの組み合わせで表現する記法を利用する)
BASIC は1命令ごとに解釈して実行するのだが、MML は「解釈してから演奏を開始」した。演奏中はリズムも結構正確。
でも、1曲丸ごと MML で表現する、というのは BASIC の行の長さの制限からも無理で、演奏命令を「連続して書く」必要があった。
すると何が起きるか。演奏中は正確だが、演奏が終わって次の演奏命令を解釈するときには、「解釈に少し時間がかかる」のだ。リズムが乱れる。
いや、しかしその程度のことは当時の BASIC も想定済み。ある頃から、演奏命令には「演奏オプション」の設定ができるようになり、演奏を完全に終わらせる前に「最後の数音符」を割り込みでバックグラウンド演奏するようになっていた。
言葉が難しいが、最後の演奏を待たずして演奏命令は「次の命令」の読み込み解釈を始められる、という意味だ。
これを使うと、テンポずれが無くなって音痴感が減る。
…だが、これは「音楽演奏」の話だ。
歌う、というのはさらに処理が必要だった。指定されたローマ字を元に音声波形を合成し、それを指定された音程に合わせて「歌う」というのは、非常に重い処理だったのだ。
かくして、時々リズムがつっかえる、音痴な歌が完成する。
(リズムが崩れる、というのがどういうことか、PC-6601 風に歌ったら子供にウケた。)
次女が持ってきたのは「打ち込み」で音を示しただけのものだったが、初音ミクにでも歌わせていれば、本当に当時の再現だっただろうね。
今の技術なら、音痴にならずに自然に歌える。
しかしまぁ、当時だって謳わせようとせずにメロディの確認だけにしていれば、問題は出なかったはずだが。
さて、上記は「話のきっかけ」に過ぎない。
ここから、なんとなく自分の高校3年生の時の合唱コンクールの話になり、その話が「ウケた」ので、日記にも書いておこうか、と思ったのだ。
えーと、老人が昔話を語るだけなので、長いのに読んでも何も得られません。期待しないでください。
高校3年生の時、僕の通っていた学校は受験する大学に合わせて「理系クラス」と「文系クラス」に別れていた。
結果、理系クラスには男子のみの「男クラ」が、文系クラスには女子のみの「女クラ」が生じる。
合唱コンクールで、女クラは上位に入ることが多かったように思うが、別に優勝候補というわけではない。
そして、男クラは、まず間違いなく最下位か、それに近いところ確定だった。
高校3年生の男子、というのは、声変わりした自分の「声」をまだうまく使えないのだ。音痴も多く、美しいハーモニーの「合唱」なんて期待できない。
これはもう仕方のないことで、音楽の先生だって男クラには期待していなかった。
ところが、だ。
クラスの中のお調子者…しかし、リーダーシップを取れる奴が、急に熱く言いだしたのだ。
男クラだからって、最初からあきらめていたら、せっかくの行事がつまらないものになってしまう。
参加するからには全力でやろう。優勝狙っていこうと。
そいつはただ熱く言うだけではなく、戦略的にものを考えてきた。
ハーモニーは望めないが、代わりに男声でないと出せない「迫力」は出せる。
リズムを合わせてみんなで歌えば、迫力のある良い合唱にできるのではないか?
音楽の先生にも相談し、彼が選んで持ってきた楽譜は、黒人霊歌の「Soon ah will be done」だった。
奴隷として使われる黒人が、もうすぐ終わる…苦しみから解放してくれる「死」を願う歌。
一応、男女混声4部合唱だ。
でも、女声部分はオクターブを下げて男性でも歌えるようにアレンジ。
後半に、ほんの少しだけ女性ソプラノのソロパートがあった。合唱の上に重ねるように、ソロで歌うのだ。
これは、思い切ってカット。
そして、練習ではとにかく「リズムを揃え、大きな声で歌う」ことを徹底した。多少音がずれてもバレないが、リズムが狂えば迫力は出ないのだ。
これらの練習を監督したのは、もちろん言い出した「お調子者」。指揮者を買って出て、実際指揮の取り方も上手かった。
そして本番。
男クラの合唱なんて、聞く必要ないよ…と多くの人が思っているため、ホールの壇上で準備が整っても、会場がざわついている。
ここで指揮をするお調子者は、根性が据わっていた。壇上で微動だにせず、じっと待ったのだ。
何かただならぬ雰囲気を感じて、徐々に会場が静まっていく。そして、十分に静まった時に、やっと彼は腕を振り上げた。
会場も静かになった緊張感の中で、練習通りにリズムの揃った歌を歌うことができた。
その歌声は、十分に「迫力のある」ものだっただろう。
そして、結果発表。なんと、優勝。
この時の高校は、創立して20年程度だったのだけど、音楽の先生は「創立時からずっといる人」で、男クラ優勝は今までになかった偉業だ、と泣き出してしまった。
優勝クラスはもう一度歌う、という決まりなので壇上に登って歌ったのだが、この時はみんな浮足立っていて、締まりがない。音楽の先生によれば「最初の迫力はなかった」そうだ。
担任の先生も大喜びで「みんなにラーメンおごる」と言い出したのだが、近くにラーメン屋がなくて、捜し歩いている間に半分以上「もういいや」って帰っちゃってた。
(おかげで当初考えていた予算より安くなったようで、ラーメンに餃子が付いた)
これ、少年漫画かよ、っていうような「熱い」話ではあると思う。
誰も期待してないクズの寄せ集めを、一人の熱いやつが率いて、圧倒的な勝利を収めた話だ。
ただ、現状分析と、「悪い部分をカバーする」のではなく、「持っているものを最大限に生かす」方針を定めたのがすごかったと思う。
多分音楽の先生のアドバイスも大きいのだと思うけど。
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