2015年03月16日の日記です


ドットリ君  2015-03-16 09:03:03  業界記

新人に筐体を支給すると、「ドットリ君」(1990)というゲームがもれなくついてきます。

というか、ゲームセンターに筐体を出荷するときもそう。筐体にはドットリ君が付いてきます。


これが何者であるか…正しく認識できていない人も多いので、解説しておきましょう。



ドットリ君は、よく「テスト基板」と呼ばれます。


この言い方から、筐体の不具合などを確認するテスト用だと思う人がいる。

ドットリ君は音が出ないので、「それじゃテストにならないじゃん」なんて批判もある。


そうじゃないです。

たしかに、「テスト」のための基板なのだけど、それは筐体の動作確認の意味ではない。




電気用品取締法(当時)という法律では、電気用品のうち、通産省(当時)の定める形式の製品については、認可を得なくては販売できないことになっていました。

電気製品は、感電や発火などの危険があるため、これは必要なことです。


#現在は電気用品安全法、と名前を変え、経産省が形式を定めています。いわゆるPSE法。



ゲーム機は比較的新しい産業だったため、この「定める製品」リストに入っていませんでした。

しかし、時々このリストは見直しが行われます。


どうやら 1990年ごろ(正確な時期不明)に、新たに「電子応用遊戯器具」というカテゴリーが出来たようです。

これにより、ゲーム機の販売には国の認可が必要となりました。


ここでグレイゾーンとなるのが「ゲーム筐体」です。

実は、ゲーム筐体と言うのはそれだけを購入しても何もできないもので、ゲーム基板と組み合わせてやっと使用可能となります。



このため、ゲーム筐体は「未完成の電子応用遊戯器具」と見做されました。

未完成、つまり「製品」でないものは、認可が下りません。

筐体は販売してはならない、ということです。


これまでは、「筐体」と「ゲーム基板」を別々に販売し、お店で自由に組み合わせてもらう、というのがゲーム業界の慣習でした。

しかし、法律により、その商売は出来なくなるのです。


#とはいえ、自由に組み合わせられるようになったのは、ゲーム業界団体がコネクタ形状を定義した JAMMA 規格(1986)以降。

 これ以前は、ゲーム会社ごとに筐体と基板の接続方式が違っていました。簡単な改造で繋げられたけど。



ゲーム基板そのものは、筐体から電力を供給されて動作するだけなので、この「定める製品」リストには入っていませんでした。

そのため、お店としては、一度筐体を入手すれば、以降は基板交換できる、というのは今まで通りです。


しかし、筐体を販売するゲーム会社側としては、筐体の販売が難しくなります。

古いゲームを入れて売るわけにも行きませんし、ゲームが新発売になるたびに、筐体販売の認可を取るのは余計な手間となります。




そこで登場するのが、「ドットリ君」。


筐体は、「ドットリ君」というゲーム機として販売認可を取ります。

ドットリ君として認可を取ったものですから、販売の際には、常に「ドットリ君」として販売される必要があります。


しかし、お店が基板を入れ替えることは問題ないのです。

ドットリ君は、「すぐに取り外され、捨てられる」ことを前提とした、不遇のゲームなのです。



ところで、筐体を買うと必ずドットリ君が付いているのかと言えば、そうでもなかったと思います。


バーチャファイター2のブームの時とか、最初からバーチャファイター2を入れた筐体で販売許可を取って出荷していたのではなかったかな。


当時、VF2は出荷が追いつかない人気商品ですからね。

「筐体込ならあるんですが」って言ったら、高くても買ってくれるお店があった。


手間をかけて新たに販売許可を得るだけのメリットがあったのです。




ドットリ君は、違法とならないために付属させるための物で、セガにとっては余計なコストです。

そのため、できるだけ安く作れるように工夫されています。


音が出ないのもそのため。画面はモノクロで、基板サイズは JAMMAコネクタ(筐体と基板をつなぐコネクタ)の横幅ギリギリしかありません。


ゲーム内容は、大昔のゲーム「ヘッドオン」(1979)に類似しています。

画面を周回しながらドットを取りつくすゲーム。


ヘッドオンでは、操作は速度変更と「車線変更」のみでした。後ろに戻ることはできない。

ドットリ君では、やはり後ろには戻れないのだけど、車線変更可能な場所では「Uターン」できます。

そのため、ちょっとパックマンっぽいところもある。



ゲームとしては、可もなく不可もなく、というところ。


遊べればいい、程度にしか作ってないから、決して「すごく面白い」というものではないです。

でも、まったく遊ばずに捨てるのはもったいない、くらいには遊べる。


実際、丁度1か月前、25年目にして世界初のドットリ君大会が行われて、結構熱い闘いが繰り広げられています。



ちなみに、ゲーム画面にも基板にも「ドットリ君」という名称は書いていないと思います。

でも、筐体買うと付いてくる納品書などに、「ドットリクン」と半角カタカナで書かれていたのではなかったかな。


この名称で販売許可を取っている、ということなのでしょう。


元が半角カタカナなので、情報を調べても「ドットリクン」「ドットリくん」「ドッ取り君」など、別表記をしている人もいます。

別に誰かが間違えているわけではなくて、元々名前なんてどうでもいいものだから(笑)




どんなゲームも、筐体に入れなくては遊べません。

なので、大ヒットゲームでも、世の中に出回っている筐体の数よりは少ない数しか売れていない。


その筐体は、少なくともセガ製の物は、ほぼすべて「ドットリ君」である、と考えると…

ドットリ君、実は世界一売れた大ベストセラーゲームです。


ベストセラー(たくさん売れた)というだけで、大ヒット(みんなが夢中になった)ではないのだけど。



誰が作ったのか、残念ながら僕は知りません。

入社前の話ですし、1990年だとAMは部署が別れていなかったのではないかな。


安い基板を目指して作っているので、基板設計部署は関係しているだろうし、筐体付属物なので筐体設計部署(僕がいた当時のAM4研)も関係してそう。

そして、プログラムなのでゲーム開発部署も開発しているかも。


一方で、簡単なものなので、基板開発者がそのままゲーム作っていたり、筐体設計部署で片手間に基板作っててもおかしくない、というレベル。


こんなに数多くの枚数が出た有名なゲームを誰が作ったのか、知っていたら話のタネくらいにはなりましたね。

(新人当時に聞いていたらわかったかもしれませんが、20年たった今となっては…)



ところで、ドットリ君と同じ理由で作られたゲームは、各社にあるようです。

ちょっと調べてみました。




タイトー「ミニベーダ―」(1990)


ドットリ君と同じく、音なし、モノクロ。

作られた年も同じなので、法律対策ですぐに作られたのでしょう。


タイトル画面もないので、本当の名称は不明。

みな「ミニベーダ―」と呼んでいるので、ドットリクンのように、この名称で認可を得ていたのかもしれません。


ゲーム内容は名前の通り、スペースインベーダーなのですが、陣形の違う全8面。

敵は弾を撃ってこないのだけど、やたら侵略速度が速い。


動画を見ていると、結構全面クリアは難しそうな熱いゲームです。


タイトーは、麻雀コンパネで操作する MINIJONG というのも作っていたようなのですが、詳細不明。



コナミ「モグラデッセ」(1991)


もぐらたたきです。

1991年、ということは、セガ・タイトーに比べて「ブランク期間」があります。


その間、筐体販売はしていなかったのかな?

もしかしたら…後で書きますが、別の基板を付けて販売していたかもしれません。



話をモグラデッセに戻すと、カラーで音も出ている。でも、スピード感は無くてそれほど面白そうではない?

遊んだことないので何とも言えませんが。


ドットリ君も、つまらなそうに見えて、本気で遊ぶと結構遊べる内容でした。

モグラデッセも、遊んだら面白いかもしれません。


2017.3.14追記

モグラデッセは、筐体に付属して販売されるテスト基板ですが、コナミは¥15,000.-で下取り回収し、また別の筐体に付属させていたようです。

そのため、出回っている量自体は少ないのだとか。


よくできている、と思っていましたが、使い捨てるにはコストがかかりすぎているということですね。


ソースはTwitterで見た情報ですが、許可を取ってないので引用はせずリンクのみ示します。



ナムコ「バタリアン」(1993)


なにこれ、面白そう。遊んでみたい。

カラーで音が出て、スクロールとか、文字の拡大縮小までする。スクロールや拡縮はソフトっぽいけど。


作られたのも 1993年と遅めです。

試験用の基板にこんなに手間をかけてどうすんのか、ってゲーム内容ですが、新人研修か何かで作ったのかな。


内容は…名前や画面イメージからタンクバタリアンというか、バトルシティーっぽいようにも思えるのですが、結構違う。

キャラクターが戦車ではなくて人。壁を撃っても壊せない。


同内容で、基板が新設計で新 JAMMA 対応になったバージョンもあるそうです。

(ってことは、かなり後まで作っていたということだ)



コナミ「ターゲットパニック」(1996)


モグラデッセよりも後に作られたのにモノクロです。

少しでも安く作らなくてはならない、って考えたら、自然にそこに落ち着くよね。


一応動画を見つけましたが、ゲーム内容よくわかりません…



他に、シグマも作っていた、という情報がありましたが、詳細不明。



会社によっては、在庫を抱えた古い基板をテスト基板代わりに使用して販売したりもしたようです。

コナミが一時期「Mr.五右衛門」(1986)を使って筐体販売していた、という証言は、Twitter 上で見つけました


もしかしたら、コナミの「モグラデッセ」がセガ・タイトーより1年遅いのは、この基板があったからかも。

不良在庫処分としては悪くない方法だよねー。




ところで、今調べていたらドットリ君にも「サービスモード」があることを知りました。

ゲーム基板についている、遊ばれた回数をチェックしたり、モニタ調整したりするためのモードね。


この中に、モニタの色調整モードがあるのね。

白黒基板だと思ってたら、カラー出るらしい…


ドットリ君にはバージョン違いがあり、ゲーム画面の色が変えられたり、上に書いたサービスモードがあったりするようです。

基板はほぼ同じようなので、ソフトの違いだけなのでしょう。



ということは、最初っから基板はカラー出せたのか。

20年たって初めて知った真実です。



2016.6.25 追記

スペインでブログを作っている方から連絡いただき、このページを引用させてもらいたいという。

テスト基板について記事を書きたいのだけど、情報としてまとまっているページが少ないから、とのことでした。


許可して翌日には素晴らしいページが作られていました。

BEEP! GAME CENTER --- セガ、タイトー、ナムコ、コナミのテスト基板


僕はスペイン語は読めません。機械翻訳に頼って読んでみました。


実際にお持ちの実機テスト基板についてまとめたもので、自分の書いた記事では謎だとした「ターゲットパニック」のゲーム内容にもふれています。


まず、「起動が遅くてカセットテープでも読み込んでいるようだ。6分待つ必要がある」。

コナミですし、バブルメモリ? …いや、基盤を見る限り、普通のROMで構成されています。

なんでそんなに遅いんだろう。


内容は、8方向レバーと1ボタンで、画面周辺8個ある「ターゲット」を撃つことです。

撃つためには、ターゲットがこちら向きに回転した時を狙いますが、めったに回転しません。

1分間に3つ程度、こちらを向くので、向いたらすぐに撃つ。


目標は50ターゲット撃つこと…なのかな。ひたすら待つだけの、作業感の強いゲーム。


「これはゲームではない」とも書かれています。




上記ページ、80~90年代の日本のゲームが大好きな方が書かれているようで、愛にあふれる内容です。

主な記事は、ゲーム紹介と、ゲーム筐体の紹介。


単に「好きだったゲームの紹介」とかじゃなくて、見たことが無い人にもその魅力を伝えようと、カタログや写真を

ふんだんに使って紹介している。


スペイン語ですが、翻訳に頼って斜め読みするだけでもなかなか楽しいです。


2016.7.5 追記


海外からの情報が続きます。

Twitter で、ドットリ君基盤で実験している人を見かけました。


@covell_chris さん。許可を得て引用します。



これがドットリ君だって!?


本文中にも書きましたが、ドットリ君にはちゃんと「サービスモード」が用意されていて、モニタのカラー調整モード…つまり、色を表示できました。


@covell_chris さんによれば、MSX のように「前景色」「背景色」を選ぶ形で、1ラインに2色が使えたそうです。

この組み合わせを、1ライン中に4回変えられます。つまり、最大では1ライン8色出すことができます。


CPU は Z80 の 3MHz …だそうですが、別の情報で 4MHz ってあったな。

間をとって、3.58MHzってところでしょうか。


#…と書いてから「引用したから確認してね」と送ったら、この件に関して画像つきの返事をもらいました

 Z80 自体は 4MHz で駆動されるが、VDP が画面描画中は wait がかかって 3MHz に速度が落ち、全体では結果として 3.54MHz になっている、とのことです。

 3.58MHz と書いたのは「基盤を安くするため、NTSC ドットクロックを使いまわしているだろう」という予想だったのですが、あくまでも 4MHz と 3MHz を行ったり来たりする結果 3.54MHz という「偶然にも近い値」になっているだけ。



おそらく、どれもゲームとして動くわけではなく、表示だけだと思います。


パックマン風画面、迷路が破線みたいになっているのは、ドットの存在するラインでは「ドットの黄色」「迷路の青」「背景の黒」の3色を1ライン上に出せないためですね。


そして、同じ理由でモンスターの近くに餌を置くともできませんし、モンスター同士が近づくこともできません。

そう考えると、この画像が制限の中で非常に上手に作られているのがわかる。

これが「表示だけ」と推察する理由。


3枚目、今度はカラーではなくゲームボーイ風の白黒画面ですが、128x96 の解像度があるよ、というもの。

NTSC 画面なのでこのドット数で正しそうに見えますが、ドットリ君基板の実際の表示は、左右の切れた「正方形」になります。

つまり、128x96 では、ドットが縦長につぶれている。


そのため、この画像では、普通なら 8x8 で描かれるブロックを 8x6 にしているのだそうです。


ちなみに、ゲームボーイは 160x144 の解像度があります。

CPU の機能的には Z80 よりも非力だけど、GB のほうは 4.19MHz 動作でドットリ君より速い。


GB の移植すら難しいのか…さすが低コスト基板。


@covell_chris さんは、まだいろいろと実験中のようなので、今後も何か面白い画面が見られるかもしれません。




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申し訳ありませんが、現在意見投稿をできない状態にしています

【●】 ドットリ君の初代は描画範囲外の背景色が白ですが(MAMEでは再現されません)コインスイッチを押すと全体の色がいくつかのパターンで順次変わります。ちなみに背景色は帰線期間も垂れ流しなので、AC結合のマトモなRGBモニタだとAGCが誤動作して画面が真っ暗になるため、メガロ50同梱版からROMが変わりデフォの背景が黒になりました (2016-08-20 04:06:57)


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