2016年08月09日の日記です


宇宙からの初メール(1991)  2016-08-09 16:55:33  コンピュータ 今日は何の日

1991年の今日、宇宙から初めてのメールが送られました。


メールと言っても、インターネットではなくてパソコン通信ですね。

1991年にはすでにインターネットメールはありますが、一般的に広まってはいなかったので。


具体的には、Apple が運営していた AppleLink というサービス上でのメールが送信されました。




1991年 8月 3日に、スペースシャトル・アトランティスが打ち上げられました。


ミッション番号は STS-43。

その中に「Mac in Space II」というプロジェクトがありました。


これ以前も、宇宙に DOS マシンを持って行ったりしたことはあったようです。

しかし、それらは特定の実験にコンピューターが必要になったから、などの理由。


このプロジェクトでは、もっと広範囲にコンピューターを…Mac を活用できないかを探るものでした。


乗員の健康管理にも使用されましたし、無重力化で使いやすいインターフェイスの実験も行われました。

メールの送信も、そうしたプロジェクトの一環だったのです。




実験には Macintosh Portable が使われました。

…Mac 好きの中でも、結構「珍品」扱いされる機種。


Portable は、妥協せずにデスクトップに見劣りしない性能を搭載し、キーボードやマウス代わりのトラックボールも内蔵したため、非常に大きくて重い機械でした。


元々 Mac は「電子文具」をコンセプトに開発されている側面があります。

初代から、小さなディスプレイは本体と一体型で、軽量でハンドルもついていたために持ち運べました。


このため、「持ち運びやすさ」でいえば、Portable よりも一体型 Mac のほうが上だったと言われることも多いです。


じゃぁ、なんで狭い宇宙船内に、そんなに大きな「Portable」を持ち込んだのか…というと、どうやら「トラックボール」が重要だったようです。


当時のマウスは、内部に球が入っていました。

球の入っている空間には余裕があり、球は「重力で下に引っ張られる」ことで接地していました。


また、球の動きは接触しているホイールで感知されますが、このホイールも重力で球と接していました。

つまり、マウスは宇宙空間では使えないのです。


そもそも、無重力空間では使いやすいインターフェイスも変わるかもしれません。


そこで、標準のトラックボール以外にも、3つの装置が用意されました。


・業務用ゲーム機などで使われる、大型の 2inch トラックボール

・操縦桿を改造して、上部に親指で操作できる小さなトラックボールを付けたもの

・光学式マウス


ちなみに、当時の光学式マウスは、今のものと違い、光を反射し、反射面に格子模様が印刷された専用のマウスパッドを必要とします。


#この格子模様をわざとぐにゃぐにゃに歪めた「ジョーク製品」があって、まっすぐマウスを動かしても、カーソルはぐにゃぐにゃと動いた。


各種装置を使ってどれが使いやすいかを評価したはずなのですが、その評価については公開されていないようです。



さて、当時 Mac を対象としたパソコン通信を、Apple が運営していました。

サービス名は AppleLink 。そして、接続するための専用ソフトが AppleLink 。


パソコン通信は基本的に「文字だけ」の世界です。

文字で表示されるメニューを見て、文字でコマンドを送ると、文字でメッセージが送り返されてきます。


しかし、AppleLink では、Mac でファイル操作を行う Finder と同じ感覚で操作ができます。


接続後、メニューがアイコンで示され、アイコンをクリックすることでメニュー階層を辿れます。

そして、文章をクリックすると、画像や様々なフォントを含む「リッチテキスト」で表示されるのです。



もちろんメールも送れます。


宇宙から AppleLink に接続を行い、メールを送る、というのもプロジェクトの実験の一つでした。




8月 9日、宇宙の Macintosh Portable から地上に向けて、AppleLink のメールが送信されました。

送信したのは、Shannon Lucid と James C. Adamson の2名で、次のようなものでした。


Hello Earth! Greetings from the STS-43 Crew.

This is the first AppleLink from space.

Having a GREAT time, wish you were here,...send cryo and RCS!

Hasta la vista, baby,...we'll be back!


意訳:

こんにちわ、地球! STS-43 の乗員からの挨拶です。

これは宇宙から初めての AppleLink です。


素晴らしいひと時、あなたがここにいてほしい、…cryo と RCS を送って!

地獄で会おうぜ、ベイビー、…すぐもどる!



これ、テストメッセージなので無茶苦茶。後半は冗談の連続です。


「あなたがここにいてほしい」はピンク・フロイドの大ヒットアルバムタイトル。

「地獄で会おうぜ、ベイビー、…すぐもどる!」は、映画「ターミネーター2」の印象的なセリフですね。

ミッション直前の 1991年 7月 3日に公開されたばかりでした。


#映画では I'll be back! なのだけど、ここでは we'll としている。

 冗談部分は正確な翻訳より、映画や曲名の邦題にあわせた。


cryo は cryogenics の意味で、極低温で貯蔵するものを意味します。

RCS は Reaction Control System で、姿勢制御のためのシステム。


スペースシャトルで極低温物質、RCS にも関連するものと言えば…液体酸素と液体水素燃料。


つまり、「酸素と燃料を送れ」って言ってるんですね。

「素晴らしいひと時」をもっと体験していたいから、酸素と燃料があれば滞在時間が伸ばせます。


2016.9.1 追記

コメント欄で教えていただきましたが、シャトルの RCS の燃料と酸化剤はヒドラジンと四酸化二窒素だそうです。

これらは常温で液体。混ぜただけで発火するために宇宙でも使いやすいのだとか。


液体酸素と液体水素を使っているのは、シャトルの発射時のみ使われる「メインエンジン」だけでした。

こちらは混ぜたうえで「着火」しないといけないので、火が燃えない宇宙では使いづらい。


…とすると cryo は何のことを言っているのだろう?


まぁ、内容を見てもノリ一発で書いている文章なので、あまり深く考えてないと思いますが。


このメールは簡単に送れたわけではなく、3回もリトライしてやっと届いたものなのだそうです。

その3回目も、メールは送信できたものネット接続を維持し続けることができませんでした。


つまり、この時点でのメール送信実験は、半分成功、半分失敗。

宇宙からのメッセージ送信方法として常用するのはまだ難しそうだ、という結果になります。




この実験から 19年後の 2010年 1月 22日、国際宇宙ステーションが、インターネットに直接接続されました。


これ以前にも、なんどか宇宙飛行士がネットにメッセージを送ったりしていました。

ただし、実際には地上にいる人間が送信を代行する形で運用されています。


それが、代行は不要で直接ネットに接続可能となったのです。



宇宙からインターネットへの、ダイレクト接続で最初に送信されたのは、twitter メッセージでした。






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申し訳ありませんが、現在意見投稿をできない状態にしています

あきよし】 おぉ、そうなんですね。ちゃんと調べずに書いてしまいました。ありがとうございます。 (2016-09-01 08:45:42)

【vandy1】 本筋から逸れた話になりますが、シャトルのRCSの燃料と酸化剤はヒドラジンと四酸化二窒素ですね。 (2016-08-30 22:10:24)


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