2016年12月22日の日記です


ここらでコラムス  2016-12-22 11:37:30  業界記

最初に書いておきますが、没ゲームの話です。

ここから書くゲーム、作成中止になったので世に出てません。



たしか、1996年9月のショーが終わって、ひと段落ついた後だと思いました。

あたらしいプロジェクトに配属されます。


当時は、2月に AOU ショー、9月に AMショーという2大ゲームショーがあって、そこでのお披露目を目指して動いているプロジェクトが多かったのね。


会社上層部から降りてきた指令でした。

「新しいコラムスを3か月で作れ」。


3か月って、かなり無茶なスケジュールです。

当時は1本半年くらいが普通。急げば4~5ヵ月に短縮されることはありましたが、3か月じゃ何もできません。


今時落ち物作れっていうんだから、何かキャラクター立てて対戦だろうなぁ…とか、部長からふんわりとした指示が出ます。


任された企画者が最初にやった仕事は、「3ヵ月でできるわけないでしょ」と部長にねじ込んで、まぁ、実際には6ヵ月かかっていいんじゃないかな、と言質を取ることでした。



企画は同期のM。


プログラマーは、僕ともう一人。

手相では企画秒殺ではプログラマとして、一緒に仕事をした先輩Hさん。


それともう一人、「最初のちょっとだけ」で、スタックコラムスのプログラムを作った先輩が参加しました。

基本のプログラムを組んで、すぐに別プロジェクトに異動しましたけど。




話を2か月ほど前に遡らせます。


そのころ、Nintendo 64 で、スーパーマリオ 64 が発売されています。

企画Mが研究のために遊んでいたのですが、シーンの切り替わりの際に、星の形やクッパの顔などの形にワイプが入ります。


Mはこのエフェクトに驚いたようで、こんな画面切り替え効果他のゲームで見たことなかったけど、これは N64 の性能が無いとできないものなの?

と僕に質問してきました。


そのころ僕は特に急ぎの仕事もなく暇だったので、「画面切り替え効果」のエフェクトを作ってみせます。

星形ワイプはもちろん作ったけど、Mの思いつくままに20種類くらいのワイプを作ったのではなかったかな。


これ、中にはサターンで普通つかわれない機能を使ったようなものもありました。

普通つかわれないのはゲーム中だといろんな制約があるからで、「ワイプだけの実験」だから使えたのだけど。



さて、そのままMと一緒に仕事をすることになったので、ワイプを作りながら実験した画面効果をゲーム中に使おうとします。

目標としたのは、派手な戦闘演出でした。



ぷよぷよに始まった対戦パズルですが、「対戦ぱずるだま」以降は、フィールド全体に大きなキャラクターグラフィックを重ねるのが普通になっていました。

じゃぁ、コラムスでもやろうよ…となったのですが、ただ他のゲームを真似するだけでは面白くない。


両方のフィールドは分離しているのだけど、同じ背景を共有することにして、2人のキャラクターが戦っている雰囲気にしよう。


「連鎖」で攻撃すると、攻撃した側が相手側に進んでいるように見える形で、背景をスクロールする。

連鎖が多ければ、その分スクロールは速くなる。


ある程度以上大きい連鎖が発生するときは、「連鎖前に」予告を出すようにする。

具体的には、連鎖が組み上がった瞬間にゲーム進行が一瞬停止して、発火点となる石から、画面全体に光が広がるようにしたのですね。

これで、連鎖中に相手側が「すぐ対処しないとやばい」と焦るようになる。


…いや、つまりアニメのドラゴンボールのような戦闘の雰囲気を出したい、ということですね。パズルなのに。



他にも、「挑発」という操作をすることでメリット・デメリットがあるとか、いろんな細かなアイディアが出ました。

まだ絵はあまりできていなかったので、仮の絵を入れて「気持ちいい動き」を追及したり、演出面にこだわっていました。




一方でコラムス本体のゲーム性をどういじるか、という難しい課題もありました。


コラムスって、一人で黙々と遊ぶように作られたゲームデザインです。

対戦にして「邪魔」とか落とすと、ゲームが破綻してしまう。


通常時はコラムスでいいのだけど、何かをきっかけに「消える」条件が緩くなって、大量に溶けていくように…

と、漠然と考えながらいろいろなルールを試すのですが、どうも決め手になるいい案が出ないのです。


改造できないっていうのは、それだけコラムスの基本システムが練り込まれているということですけどね。


詳細忘れたけど、「宝石に絡みつくように稲妻が伸びて行って、まとめて消える」なんてプログラムも試した覚えが。

仮の絵で稲妻の動きとかそれらしく作ったのだけど、結局ゲーム的に面白くなくて没にしました。



あと、ルールがらみでは「邪魔」をどれくらい降らせるか、という計算式の作り方を、Mに教えたのもよく覚えている。


「連鎖数に応じて、こんなイメージで数が増える式を作りたいんだけど、どうすればいい?」

と簡単なグラフを示しながら聞かれたので、表計算で式を立ててグラフ化する方法を教え、納得いく曲線になるまで式を自分でいじってもらったの。


ゲームのルールでも、実際の数式が複雑に絡む部分って、「プログラマーでないと計算できない」と思われている節があったのね。

でも、プログラムして、確かめて、調整して…だと試行錯誤の時間が無駄に長くなる。


あらかじめ表計算でイメージを掴んでもらうことで、開発効率上がりました。


これ、自分で考えるのだったら、簡単なプログラム書いてしまいます。

だから「表計算ってそんな使い方もできるんだ」って驚きだった(笑)




先に仮の絵を入れたと書きましたが、元企画でプログラマのH先輩から借りた資料をスキャンしたものです。


H先輩は、同人誌を自分で作ってコミケに参加してた人。

(企画出来て、絵が描けて、プログラムもできた人です。)


で、同人誌もいっぱい持っていて、Mがイメージを伝えたら、いくつか見繕って持ってきてくれました。

その中からMが気に入ったものを使っていたわけです。


同人誌って、別に18禁なものではないよ。

商業誌と違って、お話よりも「イラストの雰囲気重視」な人も多いから、イメージ固めるうえでは役立つのね。



こうした絵を使っているうちに、全体のイメージが固まってきました。


キャラクターは、魔法使いという設定にしよう。

コラムスだから宝石の名前の付いたキャラクターで、それぞれが魔法使い。


ホウキに乗って飛んでいる状態で戦うので、先に書いた「攻撃による高速スクロール」も活きてくる。


コラムスって宝石が6種類あるので、6人と対戦することにして、主人公は「宝石かどうか微妙な石」だな。

自分が宝石であると認めてもらうために、他の宝石に挑む…と。


微妙な宝石って何だろう、というMに対し「珊瑚とかどう?」と僕。

あーなるほど。じゃぁ、誕生日はやっぱ3月5日って設定で…とか言ってたら、H先輩から「あ~るか!」と突っ込み。


#わからん人には全く分からん話だな。




何を作るときでもそうだと思うのですが、もやもやした状態からだんだんイメージが固まっていく過程って、楽しいのね。

まだ無責任にいろんなアイディアが試せる時期ですし。


形ができ始めたころに、タイトル案も考えていました。もちろん無責任に。


「ここらでコラムス」というのはその時に出たアイディア。

その後は、企画書なんかには常にこのタイトルが書かれていました。後ろに(仮)ってついてたけど。


ゲームのタイトルって、4文字程度に縮めて呼びならわされます。


その際に「こここら」って呼んでもらいたい、というのがMの意見。

Mは言葉遊びとか好きでした。




さて、ここら辺まで作るのに、2ヵ月くらいかかっていたと思います。


そのころ、会社の役員が部署に視察に来て「そういえば、以前に作れと言ったコラムスどうなった」と部長に尋ねたのです。


部長が僕らのプロジェクトの席に役員を案内すると、怒り始めます。

何をやっているんだ、こんなものを作れと言ったのではない! と。



完全に伝達ミスでした。部長が、役員の意図を理解できていなかった。


9月時点で社内の予定スケジュールを見ると、年末商戦の大事な時期に、発売できるゲームが全くなかったのだそうです。

そこで「何もありません」では話にならないので、コラムスのような簡単なものでいいから間に合わせろ、というのが本来の意図。



つまり、内容を充実させるよりも、べた移植でいいから年末までの3ヵ月で完成、のほうが重要だったのです。


楽しんで作っていましたが、お楽しみはこれまででした。

「年末」までは残り1か月ちょっと。わずかそれだけの期間で、新しいコラムスを完成させなくてはなりません。




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