美術展のハシゴをした。
別に美術漬けの生活を送りたくなるようなスノッブではない。
単純に、昨年末に新聞屋にもらったチケットがまだあっただけ。
チケットが2種類…
「ニューヨーク・メトロポリタン美術館展」が渋谷Bunkamuraで、終了が3月9日。
「DOMANI・明日展」が新宿損保ジャパン東郷青児美術館で、終了が3月2日。
この際だからまとめて見てしまおうという魂胆。
メトロポリタン美術館展は、サブタイトルが「ピカソとエコール・ド・パリ」となっている。
エコール・ド・パリというのは、1900年代初頭にパリで起こった芸術運動だ。
それまで「絵画」というのはいかに対照を「上手に」描くかが問題となっていたのだが、この運動を堺に、なんとなくそれらしい絵を描く「印象派」、自由に色彩を扱う「フォービズム」、輪郭すら自由にした「キュービズム(」、ありえない状況を描く「シュールレアリズム」など、新しい絵画が生まれる。
…っていうような趣旨の美術展だということはよくわかった。
また、見ていて面白い絵も、確かにいくつかはあった。
しかし、誤解を恐れずに言えば、つまらなかった。
当時はまったく新しい描き方だったのは納得できるし、それぞれの運動の初期に描かれる絵は斬新で面白いのだが、どの流派も多くの人が真似をして発展するに従い、面白さを失っていく。
ピカソですらも、キュービズムの初期の絵と後期の絵では面白さが違う。
初期の頃は、絵を見ても何が描いてあるかわからない。逆にいえば、非常に興味をそそり、想像を掻き立てる。
後期は、絵を面白くしようと線をいじくり回しているような印象を受ける。
僕は美術は素人なので、専門家からお叱りを受けそうだが、素人目にそう見えるということは重要なはずだ。
ただし、ピカソ晩年の作品は、もう「実験」の域を出て円熟しており、線にも迷いを感じない。奇妙な輪郭であっても、それは非常に心地よい絵と感じられる。
エコール・ド・パリの他の画家たちも同じく。
で、全体の感想はというと、「良い美術品を見せていただきました」というだけ。
本来は、新しい絵を作り出そうともがき苦しんだ作品たちのはずなのだが、ここに集められているのはその中でも優れた優等生たち。美術品という地位に納まってしまっている。
DOMANI・明日展は、サブタイトルが「未来を担う美術家たち」となっている。
文化庁が新進の芸術家を援助して、海外研修などに行かせているらしい。その研修から帰ってきた人たちの美術展だ。
こちらは、ピカソのような有名な画家が描いているわけではない。
メトロポリタンのような目が肥えた機関が選定しているわけでもない。
しかし、それがゆえに勢いがある。面白くない人もいたが、総じて面白い。
キャンバスの上に、アクリル絵の具(もしかしたらアクリル樹脂かも)をてんこ盛りに盛り付けて、それをえぐり取って描いたような絵があった。
さらには、同じ技法で枝や枯葉、ドライフラワーなどもキャンバスに塗りこめてしまい、「地面」を描いた作品もあった。
そこにあるのは、美しい絵ではない。荒々しいだけで、なにかよくわからないもの。
しかし、その勢いが面白いのだ。
美しい田園風景を白黒写真に撮り、おそらくは光硬化樹脂などで凹凸にした上に紙を置き、木炭でなぞることでキャンバスに写し取った絵があった。
写真が元になっているので、非常にリアルだ。木炭だけの表現なので、光と影だけで表現されたような絵。
これは、絵ではない。写真を写し取っているからだ。しかし、写真ですらない。作者の手のタッチが入っているからだ。
絵という存在そのものを深く考えさせられる。
キャンバスに思うがままに絵の具をぶちまけた絵があった。
注釈がついている。「筆や指以外でキャンバスに痕跡を残すことは出来ないか…」
よく見ると、キャンバスの上を縦横無尽にミシンで縫った跡がある。
キャンバスは元は布だが、ミシンで縫ってしまうというのは初めて見る発想だ。
他にも様々な作品がある。
宗教画の美しさに惹かれ、無宗教なイコンを描こうとする画家。
インドに研修に行き、リアルなのに幻想的な風景を描き出す画家。
薄い鉛板にさまざまなものの形を写し取り、絵の中に取り込んだコラージュをする画家。
そのほかにも、まだまだ面白い画家がいる。
こちらの絵は、今生きている芸術だ。
みんな、新しい絵を作り出そうともがき苦しんでいる最中だ。その苦悩が面白い。
別に偉そうな美術評論をしたいのではないし、素人なのでそんなことは出来ない。
でも、面白い芸術というのは、素人でも楽しませてくれる「なにか」があると信じている。
絵は、高価だから、有名だからいいというものではない。
奇しくも損保ジャパン東郷青児美術館には、ゴッホの「ひまわり」も展示されているが…
この絵にも、やはりそれほどの魅力を感じることは出来なかった。
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