クールライダーズの発売はいつ頃だったかな…
ネット上の資料を見ると、発売時期が1994年4月説と、1995年4月説があるようです。
でも僕、入社(1994年4月)後にテストプレイしてたよ。どんどん改良されて面白くなっていく過程も見ている。
1995年までは食い込んでいなかったはず。タイトルのコピーライト表記も1994だし。
お盆休み明けにはまだテストプレイ筐体が置いてあったけど、秋にはもうなかった気がする。
夏の終わりごろに出たのかな。
#後日追記
クールライダーズの販促チラシに、1995.4 という表記があるようです。1995年4月説はおそらくこれが元。
でも、画面には 1994のコピーライト表記がある。1994年4月説は「4月」を信じた上で、年だけをコピーライト表記に合わせたのでしょう。
実際には、チラシが作られたのと発売タイミングは違っていた、というだけかと思います。
ゲーム内容ですが、拡大・縮小スプライトを使った…つまり、2Dハードで作られた3Dレースゲームです。
アウトラン(1986)とか、ラッドモビール(1991)みたいなゲームね。
系統としてはアウトランナーズ(1992)の続編にあたります。
見比べてみるとゲームの核の部分はだいたい一緒、ということがよくわかります。
ちなみに、アウトランナーズ自体AM1研の作品。
#アウトランは、部署が1つしかなかった頃の作品。AM1でも2でもないです。
そういうゲームを1994年に出す、というのは、すでに時代遅れでした。
ポリゴンハードウェアが出てきた初期の頃は、まだバーチャファイターのような人型を動かすゲームは難しく、主なゲームはレースゲームでした。
クールライダーズが作られていたのは、そんなポリゴンレースゲームが次々発表になっている頃。
真面目にレースゲームをやりたい人は、もうポリゴンで作られたものしか眼中にありません。
なので「真面目なレース」を求めていない層に向けて作られました。
もうね、めちゃくちゃなの。激しく抜きつ抜かれつしながら、世界中を数分間で走り回ってしまう、という内容。
この「世界中」も、ナイアガラの滝の上を走ったり、イギリスならネッシーが首を出すネス湖のほとりを、中国なら自転車の交通ラッシュの中を、日本なら忍者が走り抜ける座敷の中を、って、明らかに間違った世界イメージをわざと打ち出している。
詳しくは、こちらのページやこちらのページを読んだ方がいいでしょう。
「クソゲー」とか「馬鹿と紙一重」と言いながら、クールライダーズが愛されていることがよくわかります。
どちらの方も、このゲームの世界観を非常に良く伝える文章です。
このゲーム、使用基板がとても変わっています。H1ボード。テレビゲームで使われたのはこれ1作だけ。
#後にコインゲームで使われていたはずですが。
H1のHは Hi-Vision のH。当時は「ハイビジョンの時代が来る」と言われていて、ハイビジョン対応で開発された基板です。
でも、ハイビジョンの時代はまだまだ先だった。
はっきり言ってしまえば、「その時」に備えて、ハード作成者が技術を習得するための試作品でした。
試作品といっても、開発して終わりじゃない。
それが十分量産可能であることを確かめないといけない。
つまりは、ハイビジョン時代なんて来てないのに、ハイビジョン対応基板をたくさん作ってしまったのですね。
作ったからには使わないといけない。
「この基板の機能を活用できるゲーム、なんか作って」と注文が来るわけです。
#当時、各社がこぞって「ハイビジョン対応ゲーム」を試作・発表していました。
ちなみに、今の「デジタルハイビジョン」とは違う、アナログハイビジョンね。
1993年には、ハドソンがハイビジョン対応ボンバーマン作って、かなり話題になりました。
ハイビジョンはモニタが非常に高いです。
そこで、H1では、もう少し解像度を落とし、 24KHz モニタ2画面の同時出力モードも持っていました。
1枚で2画面の「対戦ゲーム」が作れます。
ついでに、通信機能もついていましたから、それも活用すれば最大基板4枚、8人同時プレイに対応できます。
#1枚で2画面出力・通信もできる、というのは System 32 multi が持っていた機能。
その基盤の出力解像度を上げた、と考えることもできます。
ただし、まだ最新ボードで、製造コストに加えて開発コストが上乗せされてるため、ボード単体でも高価です。
そこにゲーム開発コストを載せて、十分値段に見合うゲームを作らないといけない。
でもこのボード、ポリゴン3Dが普及しつつある時代に、スプライトの機能が充実した2Dボードでした。
だって、「ハイビジョン対応」が新しいチャレンジなのに、さらにポリゴンなんて最先端機能入れたら収集付かなくなるもの。
まぁ、それは開発側の都合。
一般的に見れば、値段はバカ高いのに時代遅れの基板、というだけです。
ゲームなんか作っても、普通に考えてお店は買わないよね。
それでも納得して買ってもらうためには、他にはない強烈な個性を出さなくてはならないわけです。
3D全盛の世の中に、2Dじゃないとできない! すごい! ってゲームを作る。
その答えが、バカバカしい、「ありえねー」と笑いながら遊べるノリのゲームなのでした。
実際、クールライダーズは非常に強烈で、遊んだ人の記憶に強く焼き付いているようです。
上に書いたような理由で、お店があまり買ってくれなかったから、そもそも遊んだことある人少ないだろうけどね。
開発の中盤、部内でテストプレイ位は出来るようになったけど、まだまだゲームバランスなどは取れていなかった頃は、グラフィックが強烈なだけで、案外普通のレースゲームでした。
ただ、順位効果がすごく強いのね。負けてる人ほど速く走れる。
だから、抜きつ抜かれつのレース展開になるようにはなってました。
真面目にタイムアタックするようなレースゲームではなくて、みんなで楽しむゲームだ、ということですね。
この方向性は最初から定まっていたようです。
ある時、分岐点に大量の「矢印を持ったお兄さん」が配置されました。
この人たち、ぶつかるとポコポコ音を立てて吹っ飛び、道に転がります。
なかなか衝撃的な絵でした。
全体に実写の取り込みで作られているから、人が立っていたら人だと思うわけです。
でも、ぶつかったらポコポコ飛んでいく。
2Dゲームだから、この人たちただの板です。その板が実物である、というゲーム中の了解をあえて破り、ただの板のように扱ったのです。
それ以降、どんどんそんなノリが増えていく。
わけのわからんキャラクターが画面狭しと暴れまわるようになっていく。
で、ある時急にゲームの展開が激しくなりました。
どうやら、自分の「速度」にたいして、画面上の進む距離を倍にしたようでした。
きっと、いろんなステージをすぐに回れるように、デバッグ用の設定なのだろう…と誰もが思ったら、企画者から「これが正常な速度だよ」と。
あり得ないような展開、テンポの良いゲーム運びを実現するために、倍速で動くようにしたら面白いからこのままいく、という判断でした。
最初は違和感を感じたけど、慣れると実際テンポのいいゲーム展開なんですね。
その昔、アマチュアCGアニメーションコンテストの入賞者が、「自分で作った動画を2倍速で回すとテンポが良くなる」と言っていたのを思い出しました。
自分で苦労して作ると、ゆっくり細かなところも見てほしいと思ってしまう。
でも、あえてそこを2倍速にするくらいでちょうどいい、という話。
2Dスプライトの拡大縮小で3Dを表現している、というのも上手に使っています。
つまりは、計算で3Dを出しているわけではない「嘘」があるのですが、この嘘によってすごいスピード感を演出しているのです。
ちゃんと計算すると、遠くのものはゆっくり動きます。これは当たり前の話で、ゆっくりなのでスピード感は出ません。
WING WARが飛行機の激しい空中戦なのにのんびりしているのはそのため。
でも、アフターバーナーは「嘘の」3Dなので、すごいスピード感です。
本当なら遠くでも見えるはずなのに、ある程度から先は見えないことにしているの。
だからゆっくり動くことはありません。スピード感を演出できます。
ポリゴンでやったら、急に敵が出てきておかしいわけだけど、2Dならごまかしも利く。
クールライダーズは、見事にその時主流だった「ポリゴンレースゲーム」ではできない世界を作り上げて見せたのです。
詳細は知らないのですが、今になって思うと、開発コストを下げるのは至上命題だったのかな、とも思います。
先に書いたように、基板が時代遅れなのに高いから、ゲームの開発コストを下げないと売れない。
CPU が違うから、アウトランナーズのプログラムをそのまま使うことはできなかったはずです。
でも、ほぼ同じシステムを移植することから初めれば、少なくともゲームの調整は「ある程度できている」ところから始められる。コストが削減できます。
そして、グラフィックは基本的にすべて実写取り込みでした。
全部描くよりも、取り込んでちょっと調整する、というだけに留めれば、グラフィック作成効率を上げられます。
当時、セガの重役が「アメリカではモータルコンバットが売れている。どこが面白いのかわからないが、ヒットに学ぶ必要はある」と言っていたのを覚えています。
もしかしたら、実写取り込みは上層部の指示であった可能性もあります。
この実写取り込み、参加する「ライダー」などはプロのモデルさんも頼んだけど、ある程度は社内・部内の人だったはず。
この記事書いていて思い出したけど、たしか一人は「ちょっとみせて」の最後に参加して絵を手伝ってくれた同期。
#「ちょっとみせて」のスタッフロールでも、彼はクールライダーズの格好・音楽で登場していたのを思い出しました。
たしか、トライク(3輪バイク)に乗っている親子の子供の方は、部長のお子さんじゃなかったかと思います。
別に部長が子供を出したがったとか親ばかな理由ではなくて、モデル事務所に子供がいなかったのだと思う。
#子役って、普通は子役専門事務所になる。
先に「親子連れ」ってイメージがあったので困って部長に相談したら、じゃぁうちの子連れてくるよ、とかそんなの。
バカバカしいものって、実はかっこいいものよりも作るのが難しいです。
ストーリー漫画よりナンセンスギャグマンガの方が難しい、というのと一緒。
ここら辺、作る現場の人でないとわからないかもしれないけど。
その点において、クールライダーズをまとめた企画の人は、すごい力量の持ち主でした。
こんな無茶苦茶なものを、ちゃんと面白いゲームとしてまとめ切っている。
細かなテクニックなんて不要です。
ガンガン障害物にぶつかってもすぐにゲームに復帰できますし、どんなに他のプレイヤーと離れても、順位効果が強いからすぐに追いつける。
それじゃぁ大味なゲーム展開になるのではないか、とおもいきや、実はちゃんとテクニックがある人は速く走れるようになっている。
順位効果は強いけど、先頭が「見える」範囲まで近づいたら後はテクニックが物を言う世界。
障害物にぶつからずに走れる人が、結局1位を取るんです。
ここでも、「初心者でも勝てるチャンスがある」けど「努力は評価される」といううまいバランスを作っている。
そして、こんなレースをやっている間に、世界中の名所が、あり得ないビジュアルで目まぐるしく移り変わる。
ゲームに集中していても、その世界が異常だと気づくくらい異常。
ナイアガラの滝とか、滝のすぐ上を走っていくんだけど、落ちても大丈夫。
落ちると空中をどんどん落ちて行って…ドスンと落ちると、またコースの上です。一体どうなっているの?
深く考えてはいけません。「なんじゃこりゃ、ありえねー」と笑いながらゲームを続行するのが正しい。
こんなゲーム、なかなか作れるものではありません。
この世界観を「最初から」目指して作っていたら、多分悪ふざけが過ぎるだけのクソゲーになるよ。
先に書きましたが、途中のテストプレイ段階では、十分に普通のレースゲームだった。面白かった。
でも、そこから世界観が無茶苦茶になるようにあえてゲームを壊し、速度を倍にするような危険も犯しています。
一度完成したものを壊していくって、作る側としては本当に怖いよ。
そして、ゲームの根幹部分はちゃんと「面白い」まま残して、見た目だけでも笑いを取れるゲームに仕上げる。
これが、ただの悪ふざけとは違う部分です。
企画者の腕が良くないと作れない。
WING WARは別の企画者ですが、似たような部分があります。
シリアスなはずの空中戦なのに、どこかコミカルなゲームでした。
タントアールだって、ダジャレ満載だし、ゲーム内容単純すぎるし、ふざけているように見せかけて結構熱いゲームになっている。
こういうノリ、当時のAM1研が最も得意とするところでした。
同じテーマの日記(最近の一覧)
関連ページ
Windows で、二つのネットワークにまたがる VPN 設定を行う【日記 16/12/02】
Harley-Davidson & L.A. Riders【日記 18/02/16】
別年同日の日記
申し訳ありませんが、現在意見投稿をできない状態にしています。 |