あまり政治的なことを書きたくない、と言いつつ、時々書いてるシリーズ。
しばらく前に、東京オリンピック2020のロゴが、盗作疑惑で散々たたかれた挙句、本人が取り下げ、「やり直し」となった。
で、今度は東京都が作った「東京都ロゴ」に盗作疑惑が出ている。
オリンピックロゴに関しては、僕は「全然盗作じゃない」と当初から感じていて、いくら何でもそんなこと誰だってわかるだろう…
と傍観していたら、取り下げ騒ぎにまで発展してしまった。
どこかで発言しようと思っていたら、展開が速すぎて機会を失った。
その後、あまりに問題が大きかったので、多くのデザイナーが論理的に擁護論を展開した。
にもかかわらず、また東京都ロゴが騒ぎになっている。擁護論が理解されていないということだ。
僕は著作権の専門家ではない。
でも、プログラマーは知的財産権を扱う仕事でもあり、著作権については勉強した。
「盗作」とするのは、著作物が似ているだけでは不十分だ。
似ていることなんて、往々にしてありうる。それが別々に、何の影響も受けずに作られたものであれば、たとえ完全に一致していたとしても盗作とは言わない。
似ていることだけではなく、それが偶然の一致ではありえないことを示し、さらに「元作品」の影響が明らかであることを論理的に示す。この3点セットが揃って、はじめて盗作だと主張できる。
オリンピックロゴの話でいえば、相手は小さな劇場で、ロゴの商標登録すらしていなかった。形状もかなり違う。
小さな劇場なので世界的に有名なわけでもなく、影響があったと考えるほうが難しい。
そのうえ、類似性を疑われているのが、「T」の文字をデザイン化した部分であり、デザイン上の制約が大きいために類似するのが必然ともいえた。
これを「似ているから盗作」とするのはかなり無理がある論理展開だった。
先ほど書いたように、こんなずさんな理論で問題が大きくなるなんて思えなかった。
しかし、問題を報じたマスコミも不勉強で、ネットの騒ぎをいたずらに増幅しただけに終わる。
佐野氏のほうにも問題点はあった、というのはその通りだろう。
デザイナーとしてはそれなりの大御所であり、配下に幾人かのデザイナーを従えたデザイン事務所を運営している。
実際、配下のデザイナーが盗作をしていたことも明るみに出た。
責任者としてのチェック不足と言われればその通りだが、多くの仕事のすべてのチェックなど難しく、可能なのは「品質のチェック」程度だろう。
盗作か否かのチェック、ではない。その部分は、配下のデザイナーを信用するしかない。
また、ロゴの使用イメージとして、他人の写真作品を流用していたことも明るみになった。
これは、一般に公開するものではなかったので問題だという認識がなかった、という説明だった。全くその通りだと思う。
広く公表するものであれば、他人の著作物を侵害してはならない。
しかし、ごく一部の人に見せるだけの私的利用であれば、特に断る必要もない。
もしこのような私的利用も罪だというのであれば、教科書の人物写真に落書きをするものは、法的に罰せられることになる。
しかし、あまりに強いバッシングに精神的に耐え兼ね、最後には本人がロゴを取り下げる、という展開になってしまった。
これによって、金銭的・時間的な損失は計り知れないが、それらは「バッシングが」起こした被害だ。
つまり、佐野氏のロゴ問題を「盗作だ」として報道したマスコミ各社、および盗作だと発言したネット民は、税金を無駄遣いするのに加担したこととなる。
ちなみに、ロゴのコンペに応募した、佐野氏ではない別のデザイナーの談話によれば、今回のコンペは、これほどオープンなコンペを経験したことがない、というほど「非常に開かれたもの」だったそうだ。
しかし、次のコンペは、「先のコンペよりもオープンにしなくてはならない」という世論が形成されている。
いったい何をどうするのかはわからない。
様々な権利が絡むもので、オープンに「してはならない」ものも多々あるのに、気軽にオープンにすると約束している政治家などの気が知れない。
さて、それで次は東京が発表したロゴが問題になっている。
フランスの眼鏡会社のロゴや、ニュージランドの弁護士事務所のロゴと似ている、のだそうだ。
どのロゴも、よくあるゴシック体で文字を書いただけのものだ。
ただの文字だから似ているのは当然。これを盗作だと指摘した人が著作権法に無知なのがよくわかるが、一部ネット民とマスコミは、前回のオリンピックロゴ後のような騒ぎを期待して、無責任にはやし立てている。
舛添知事は、盗作問題について「ただの記号だから著作権問題はない」と言っている。
これもおかしな話で、そもそもロゴというのは記号だ。記号であっても、明らかに参考にしながら盗作した証拠が提示されれば、著作権違反となる。
まぁ、今回一番重要なのは「&」という文字が赤丸の白抜きで表現されたことであり、その程度の偶然の一致は往々にしてあり得るから問題はないだろう。
しかしこれは「記号だから」問題がないわけではない。
むしろ、問題視すべきはロゴとしての妥当性だろうね。
ロゴは一般に商標として登録される。東京都のロゴが商標として登録したかどうかはわからないが、意匠とするのは難しいし、何の登録もしてないというのも考えにくいので、たぶん商標ではないだろうか。
そして、商標は「絵として扱う」ことが決まっている。
ただの文字を登録することはできない。
(文字を組み合わせ、デザインを施して「絵」としたものであれば登録される。)
これは、文字は人類の共有財産だからだ。
誰かが「あ」という「文字」に権利を主張し、「明日から『あ』を使ってはならない」と言い出したら問題がある。
だから、単純な文字や、それを組み合わせただけのものは登録できないし、誤って登録されていれば後から登録抹消される。
たとえば、以前 au が「まとめて au 支払い」というサービスを導入した際のこと。
サービスロゴとして、ちょっと工夫されたフォントで、au の部分をオレンジ色で書いただけの「文字」をロゴとした。
そして、「まとめて au 支払いでお支払いいただけます」というような文章の際に、該当部分だけをロゴ化して使用した。
最初はそのように使っていたし、サードパーティもそのように使うことを推奨していたのだけど、ある時急に「文章内に組み込んではならず、ロゴを使用する際は必ず周囲に余白を大きくとること」という通達が来た。
これ、当時の au の法務部が弱く、ロゴを文章に組み込むと、商標権の剥奪の危険性があるのを知らなかったのだと思う。
(もしくは誰かが、法務部の審査を通さず、そのような使い方を推奨したのだろう。いずれにせよ法務が弱い)
文章に組み込んで使う、ということは、それが絵ではなく文字であることを認めていることになる。
先に書いたように、文字の権利主張は認められない。ロゴの登録抹消の恐れがある。
法務部がこれに気づいて、あわてて「やってはならない」と通達を出したのだろう。
SEGA は、メガドライブの頃に、起動時の SEGA ロゴで遊ぶのを自由にさせていた。
SEGA ロゴの文字が1文字づつ出てきたり、変形の都合上本来のロゴと少し形が違ったりしていた。
これ、「1文字づつに分解できる」のだとすれば、絵ではなく文字だということになる。
変形していてもSEGAと読めれば良い、というのであれば、それも「読めること」を重視した文字だということになる。
セガサターンの際は、ロゴで遊ぶことを厳しく規制した。
旧来のファンからは、遊び心が無くなってつまらない、という意見も聞かれたが、企業活動としては権利を守るほうが重要だ。
今回の東京都ロゴは「 & TOKYO」という文字をデザイン化したもので、様々な商品名などの後ろにつけて使うことを想定しているそうだ。
「後ろにつける」という時点で、文章として読んでもらうことを想定している。ロゴではなく、特殊なフォントで書いた文字だ。
もし商標権を剥奪したければ、実際の使い方を集め、それが「文章として読ませている」ことを論理的に示したうえで、特許庁に異議申し立てすればよい。
ただの文字は誰でも使えるもので誰も排他的な占有権を持たないはずなのに、商標登録により他人が使えないように占有している、と「公共の福祉を害している」ことを申し立てるのだ。
実際そのような申し立てをした例は知らないのだけど、「盗作だ」と筋の悪い難癖をつけるよりは、よほど面白いことになると思う。妨害して楽しみたいのであればね。
ただ、まだ発表されたばっかで実際の使用例が少ないと思うので、どこかで東京都が気付いて「申し立てされない方向」に調整すると思うけど。
#東京都はこれを「東京のイメージを上げるブランド戦略」と考えているようで、誰でもロゴを使ってよいそうだ。
なので、もしかしたら商標登録自体を行っていないかもしれない。
だとすれば、これを文字として使っても、商標権の剥奪はない。(もともと商標ではないのだから)
まだ社会的に「影響力が小さい」中高生が、「盗作だ」などと世論をあおる「一部ネット民」の中心だと思っている。
影響力が小さいからこそ、社会が大騒ぎになって、変わっていくのが楽しい。その気持ちはわからないでもない。
でも、それによって税金も時間も無駄に使われる。社会は悪くなっていく。
そして、そのツケを払うのは、今の中高生が大人になったころの、自分自身だ。
著作権法や商標法を学ぼう。ほかの法律も学ぶといいし、法律に限らず知識を持とう。
そうすれば、正しく社会に影響力を持てる。社会を悪くする方向ではなく、良くする方向で影響が持てる。
そっちのほうが、影響力の使い方として、社会の変え方として、ずっと楽しい。
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