今日はエドウィン・ハーバード・ランドの誕生日(1909)。
カメラで有名な、ポラロイドの創立者です。
でも、彼の最初の発明品は、有名なインスタントカメラではない。
「ポラロイド」という名前の薄い板が最初の発明で、大ヒットした際に社名を商品名に合わせたのです(1937)。
ポラ、というとどうもカメラが思い浮かんでしまうのですが、「ポーラー」(Polar)です。
北極や南極も polar なのですが、これは極性の意味。
そして、光の偏光も polar です。
当時、光が波であることはすでに知られていて、この波の方向が偏っている(偏光)ことも知られていました。
偏光している光は、偏光の向きが合った偏光板(偏光子)を通り抜けますが、向きが合っていないと通り抜けられません。
向きは物理的なものなので、偏光板を通して普通に見えていたものが、偏光板を 90度回すと、真っ暗で見えなくなる、ということです。
でも、この「偏光子」が非常に高価なものでした。
偏光子として使える結晶を、大きく育てる必要があったためです。
ランドは、結晶を育てる必要などなく、小さな結晶を上手に方向をそろえてセルロイドで固めてしまえば実用になる、と気づきました。
そうしてできたのが「ポーラーロイド」。偏光子として使えるセルロイド板です。1929年に特許取得しています。
その後、ポラロイド社は「現像処理時間と手間を劇的に短縮したカメラ」でもう一度大ヒットを飛ばすのですが、今回取り上げたいのは、この偏光板のほう。
現代のパソコンには欠かせないものになっています。
まず、偏光の基礎知識。ざっくりとだけね。
偏光のない光を「偏光板」に通すと、偏光します。
偏光板を2枚重ねて見ると、組み合わせを90度回すたびに明るくなったり暗くなったりします。
1枚目の偏光板で、たとえば「縦」だけに偏光した光が、2番目の偏光板が「縦」なら通れるし、「横」なら通れなくなるため。
でも、実はまったく偏光のない光というのは無くて、屈折したり、反射したりすると光は偏光します。
ミツバチは、空の空気の乱反射を偏光で見える目を持っていて、この偏光具合で、太陽が直接見えない場合でも太陽の向きを察知します。
水面を反射した光は偏光しますが、この偏光の光だけをカットするサングラスを作ると、水の表面の光をなくし、水の中が見やすくなります。
釣り人用のサングラスなどに利用されています。
同じように、濡れた路面で光が反射してまぶしいのだけを消すこともできます。
こちらは、トラックやタクシーの運転手などに利用されています。
さて、まずは、パソコンとしてはちょっと古い話。
その昔、MO…光学磁気ディスク、というものがありました。
今も放送業界では使われていたりするそうですが。
この「光学磁気」という言葉が微妙。実は、磁気をもつ物体に反射した光の偏光角度が、磁気極性によって違う、という特性を利用しているのです。
磁性体は、熱くなって「キュリー点」と呼ばれる温度を超えると、磁性を失います。
冷えると、再び磁性を得ます。この際、強い磁場の中で冷えると、周囲の磁場の影響を受けた極性を持ちます。
なので、まず強い磁場(ハードディスクのヘッド程度の磁気ではなく、永久磁石程度)の中で連続してレーザーを当て、キュリー点越えの温度にした後で冷やします。
すると、その時の磁石の向きの極性を持ちます。
つづいて、磁石を逆にして、記録したい情報に従って断続的にレーザーを当てます。
これで、元々あった極性と、新たに書き込んだ逆の極性の組み合わせで、情報が記録できます。
読み取るときは、弱いレーザーを当てます。この際、偏光板を通して、偏光させておきます。
反射した光は、反射面の極性によって偏光の向きがわずかに影響を受けます。
再び偏光板を通すことで、このわずかな影響を、「暗い」「明るい」で検出します。
CD では、反射面に凹凸を付けて、反射率を変えることで、反射光の明暗を作り出して情報を検出します。
CD-R では、反射面に色素を持たせておき、強い光で色素を破壊することで、光の吸収率を変化させ、反射光の明暗を作り出して情報を検出します。
MOは単純に「明暗」ではなく、偏光板を2枚追加することで明暗を作り出します。
この点では、CD と CD-R は同じ読み取り装置で使えるけど、MO の仕組みは読み取り装置も変えないといけない。
でも、読み取り装置に安い偏光板2枚用意しておけば、あとはほぼ同じ仕組み。
MO の方式は、将来的には「書き換え可能な CD」への技術が応用できる…と期待されました。
実際、MD は、情報記録に関しては MO とほぼ同じ技術で作られています。
でも、すでに普及したものに対し、「偏光板2枚の追加」は思った以上に難問だった。
この後出てきた CD-RW や DVD-RW など書き換え可能な光学メディアは、偏光を利用しない別の方法を使っています。
#CD-RW などは、パソコン用メディアとしては失敗した PD と同じ方式です。
過去の再生機でも再生できる互換性を持つ一方で、書き換え可能回数は MO よりずっと少ないです。
偏光板と言えば3Dメガネ、と思う人もいるでしょう。
映画館のように、スクリーンに投影し、大勢の人が見る場合によく使われます。
2台の投影機で、それぞれ偏光板を通して投影を行います。
観客は偏光板の眼鏡を通してみるのですが、右目と左目で偏光が 90度異なっているため、別々の映像を見ることになります。
この、左右それぞれで違う映像を見ることにより、視差を感じて立体的になるのです。
#偏光が「90度」ではなく、円偏光という別の方法の場合もあります。
この方式の利点は、2台のプロジェクターの画像を1つのスクリーンに投影しても、後でちゃんと分離できることです。
解像度も、コマ数も犠牲になりません。
#たとえば、任天堂 3DS の視差バリア方式では、解像度が犠牲になります。
昔ファミコンで発売された液晶シャッター方式では、コマ数が犠牲になります。
ただ、この方法は家庭用ではなかなか使えません。
今家庭で普及している液晶テレビでは、偏光の制御ができないためです。
というのも、液晶テレビは最初から偏光していることが前提なのです。
液晶ディスプレイでは、結晶が 90度ねじれた状態になっている「液晶」を使用します。
このねじれに従って、透過する光も 90度曲がります。
この液晶を、90度回転させた2枚の偏光板で挟んでやります。
90度回転した偏光板では普通は光を通しませんが、液晶が光の偏光を 90度曲げるため、光を通すことになります。
ところが、です。
液晶は電圧をかけると配列が変わる特性があります。
電圧をかけた時は、光を素通しするようになります。すると、90度回転した偏光板を光がそのままとおろうとする形になり、光はとおりません。
これにより、白と黒を表現できます。
白と黒が表現できれば、色のフィルタを用意することで三原色を表現できます。
電圧によって、すべての分子が一斉に配列を変えるのではなく、一定の範囲でばらつくように出来れば階調表現もできます。
これが液晶テレビ、液晶モニタ、スマホの画面など、様々な場所で使われている液晶ディスプレイの原理です。
ディスプレイから光が出た時点で、偏光しています。
先に書いた偏光板方式の3Dとは、相性が悪いのはそのため。
偏光板はいろいろなところで使われているわけですが、最後にもう一つだけ、あまりお目にかからない例を。
今は閉館していますが、千葉に麻雀博物館というところがあります。
僕は麻雀全然やらないのだけど(ルールくらいは知ってる)、テレビゲームに限らず「ゲーム」が好きなので、見に行ったことがあります。
そこに、イカサマ牌が展示してあったのね。
裏面が、金粉散らしたような豪華なラメ模様になっている。
ラメの上には透明樹脂が盛られているのだけど、実はこの中に偏光板が置かれています。
偏光板は牌の表の文字と同じ形が刻まれています。
色が変わって見えないように、90度ずらした別の偏光板を組み合わせ、完全に1枚の板にしてあります。
とはいえ、そのままでは切込み部分は少し見える。これを、背景をラメにすることで見えなくしているのです。
ラメにはもう一つの役割があって、偏光板を通して入ってくる光を乱反射させています。
これによって、偏光を打ち消している。そして再び、偏光板を通して出てきます。
つまり、周囲の人の目には、「文字の形」になった偏光が届いている。
ここまでくれば、お膳立ては整っています。
あとはイカサマをしたい人が、偏光板で出来た眼鏡をかけるだけ。
昔、業務用麻雀ゲームのアイテムとして「透視メガネ」というのがありました。
相手の牌が透けて、表に刻まれた文字が見える、というもの。
それの実物です。実在したのです。
ただ、これは偏光メガネが珍しかった時代だから使えたのだろうとも思います。
いまだと、普通に偏光メガネ使われていたりするからね。
先に書いたように、釣り人用・運転手用の眼鏡とか、普通に出回っているから、万が一にばれることを考えると怖くて使えないでしょう。
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